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59.必殺技を持っているのは子供だけじゃなかった
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『普通は夫が連れて帰ってきた愛人の子供達など目に入れたくないと嫌悪するものだ。世話をしてやりたいだとか将来を心配するとかはあり得ん。
それにな、貴族の夫人や令嬢は離縁する時に目の前に好条件の物件が転がってれば何をしてでも手に入れようとする。
それが当たり前の考えだと思っている者達から見ればお前がしようとしている事は、公爵家に嫁ぐ為に利用された子供達と女に誑かされた公爵にしか見えんのだよ。
お前は変わってるから想像もできんだろうがな』
狭い世界で呑気に生きていたわたくしは気付いておりませんでした。確かに少しでも愛情がある夫の庶子なら嫌悪感を抱くでしょうし、愛人や庶子のせいで多少なりとも辛い思いをしていればそのように思うはず。
わたくしの場合、そのどちらもない珍しいパターンだっただけですが世間からはわかりませんから。
マーベル伯爵家の義両親達に嫌がらせされた? 確かに色々ありましたけれど、彼等の目を掻い潜ってお友達と会ったり使用人達とお茶をしたり⋯⋯楽しい事も多かったのです。
それに、彼等は『毎日ざまぁ』の日々を送って貰っていますからスッキリです。長~く反省していただきたいので、ノア様に極刑はなしでとお願いしましたの。
普通なら辛かった記憶は長く心に残るそうですが、わたくしとしては彼等のせいで暗い気持ちになるのが嫌なのです。
トーマス司教様から『アイツらはリリスの心に傷をつける事もできない小者。まぁ、どうでもいい奴だっただけじゃな』と言われてしまいました。
5年も家族だったはずなのに『確かにその通りかも』と思ったわたくしは、マーベル伯爵家の方達や5年間の結婚生活はわたくしにとってなんだったんだろうと少し考え込んでしまいました。 一晩悩んだ結果⋯⋯
【人使いの荒い貴族に就職した!】
ちょっと冷たいかもしれませんが、これが一番しっくりしましたの。マルチに使えるメイドを探していた伯爵家から望まれて働きに行った感じです。
婚姻届にサインした後のガーデンパーティーもマーベル伯爵家と彼等の親戚が盛り上がっていただけで、わたくしの友人を呼ぶのも禁止でしたし。
翌日からメイドと一緒に掃除をしておりましたし、伯爵家でパーティーを行う際は前準備から当日の差配がメインでしたから『見習いメイド』兼『家政婦長以下メイド長以上』の役職だった気がします。
お茶の一杯さえご一緒したことがなくても気にならなかったのは『そういうこと』だったのだと妙に納得いたしました。
ターニャに話してみたら『その通り』だと大笑いされてしまいました。
子供達を可愛いと思い、子供達も懐いている。それなら彼等が自分の足で立てるようになるまでそばにいてあげたいと思う気持ちだけで突っ走れば周りに迷惑をかけるだけ。
子供達とは距離を置くべきだと心に決めたのです。幸いな事にマーベル伯爵家からハンナとメイサがついてきてくれましたから、ノア様が子供達を引き取る時2人を連れて行って下されば大丈夫だと思います。
あの笑顔が見れなくなるのは寂しいですけれど子供達はきっと大丈夫。ノア様ならこれからも子供達の近況を知らせてくれるでしょうから、わたくしはそれで十分だと思うべきなのです。
「それは私に任せていただけませんか? リリスティア様に嫌な思いをさせないとお約束します。それなりの手は考えて準備も済ませてきました」
真剣な表情のノア様がお父様に頭を下げられました。ノア様の仰る『それなりの手』は予想以上に大胆な方法で、お父様もわたくしも唖然としてしまいました。
「そ、それなら⋯⋯まあ、本人が望めば私からは何も申しません。ただ、リリスは頑固なので首を縦に振らせるのは大変だと思いますが大丈夫なのですか?」
「しつこさでは負けませんから、そこは大丈夫です。
ここのところ何故か仕事でトラブルが続いていたのですが、突然落ち着いてきまして⋯⋯。ティア、早速なんだけど来月の夜会に誘っても良いかな?」
何故かトラブルが⋯⋯突然落ち着いて⋯⋯。トーマス司教様がやらかしてたのは間違い無いですね。今度ターニャと2人でお仕置きさせていただきましょう。
「⋯⋯ス、リリス?」
「は! 申し訳ありません。えーっと、はい?」
トーマス司教様のやらかしについて考えていて話を聞いておりませんでした。
「今度の夜会にお誘いしてもいいでしょうか?」
今度の夜会と言えばもしかして王太子殿下主催の⋯⋯。
「あ、え⋯⋯夜会はほぼ未経験ですからご迷惑をおかけする事になりかねませんので、もう少しこじんまりした集まりの方が宜しいかと」
「ずっとそばにおります。私とでは不安でしょうか?」
「⋯⋯いえ、そういうわけでは⋯⋯よろしくお願いします」
子供の抱きつきモジモジからの上目遣いは反則技だと知っておりましたが、大人の男性にも反則技があるなんて初めて知りました。
決死の覚悟を決めているような真剣な目つきの中に、断られる不安を覗かせるのは断れなくなってしまうので危険です。
「良かった~、夜会は早いと言われてしまうかと⋯⋯よっし!」
ガッツポーズされてます。
不安もありますがこんなにストレートに喜んでいただけると嬉しいです。マナーとダンスの練習を致しましょう。
ダンスなんてすっかり忘れてますし、コルセットと踵の高い靴はわたくしの鬼門ですのに大丈夫なんでしょうか。
お茶を入れ替えて気持ちも入れ替えると、ノア様の表情もお父様の雰囲気も一変しました。
「では、子供達の今後と今まで秘密にしていた子供達との関係について話してもよろしいでしょうか?」
「お願いします」
それにな、貴族の夫人や令嬢は離縁する時に目の前に好条件の物件が転がってれば何をしてでも手に入れようとする。
それが当たり前の考えだと思っている者達から見ればお前がしようとしている事は、公爵家に嫁ぐ為に利用された子供達と女に誑かされた公爵にしか見えんのだよ。
お前は変わってるから想像もできんだろうがな』
狭い世界で呑気に生きていたわたくしは気付いておりませんでした。確かに少しでも愛情がある夫の庶子なら嫌悪感を抱くでしょうし、愛人や庶子のせいで多少なりとも辛い思いをしていればそのように思うはず。
わたくしの場合、そのどちらもない珍しいパターンだっただけですが世間からはわかりませんから。
マーベル伯爵家の義両親達に嫌がらせされた? 確かに色々ありましたけれど、彼等の目を掻い潜ってお友達と会ったり使用人達とお茶をしたり⋯⋯楽しい事も多かったのです。
それに、彼等は『毎日ざまぁ』の日々を送って貰っていますからスッキリです。長~く反省していただきたいので、ノア様に極刑はなしでとお願いしましたの。
普通なら辛かった記憶は長く心に残るそうですが、わたくしとしては彼等のせいで暗い気持ちになるのが嫌なのです。
トーマス司教様から『アイツらはリリスの心に傷をつける事もできない小者。まぁ、どうでもいい奴だっただけじゃな』と言われてしまいました。
5年も家族だったはずなのに『確かにその通りかも』と思ったわたくしは、マーベル伯爵家の方達や5年間の結婚生活はわたくしにとってなんだったんだろうと少し考え込んでしまいました。 一晩悩んだ結果⋯⋯
【人使いの荒い貴族に就職した!】
ちょっと冷たいかもしれませんが、これが一番しっくりしましたの。マルチに使えるメイドを探していた伯爵家から望まれて働きに行った感じです。
婚姻届にサインした後のガーデンパーティーもマーベル伯爵家と彼等の親戚が盛り上がっていただけで、わたくしの友人を呼ぶのも禁止でしたし。
翌日からメイドと一緒に掃除をしておりましたし、伯爵家でパーティーを行う際は前準備から当日の差配がメインでしたから『見習いメイド』兼『家政婦長以下メイド長以上』の役職だった気がします。
お茶の一杯さえご一緒したことがなくても気にならなかったのは『そういうこと』だったのだと妙に納得いたしました。
ターニャに話してみたら『その通り』だと大笑いされてしまいました。
子供達を可愛いと思い、子供達も懐いている。それなら彼等が自分の足で立てるようになるまでそばにいてあげたいと思う気持ちだけで突っ走れば周りに迷惑をかけるだけ。
子供達とは距離を置くべきだと心に決めたのです。幸いな事にマーベル伯爵家からハンナとメイサがついてきてくれましたから、ノア様が子供達を引き取る時2人を連れて行って下されば大丈夫だと思います。
あの笑顔が見れなくなるのは寂しいですけれど子供達はきっと大丈夫。ノア様ならこれからも子供達の近況を知らせてくれるでしょうから、わたくしはそれで十分だと思うべきなのです。
「それは私に任せていただけませんか? リリスティア様に嫌な思いをさせないとお約束します。それなりの手は考えて準備も済ませてきました」
真剣な表情のノア様がお父様に頭を下げられました。ノア様の仰る『それなりの手』は予想以上に大胆な方法で、お父様もわたくしも唖然としてしまいました。
「そ、それなら⋯⋯まあ、本人が望めば私からは何も申しません。ただ、リリスは頑固なので首を縦に振らせるのは大変だと思いますが大丈夫なのですか?」
「しつこさでは負けませんから、そこは大丈夫です。
ここのところ何故か仕事でトラブルが続いていたのですが、突然落ち着いてきまして⋯⋯。ティア、早速なんだけど来月の夜会に誘っても良いかな?」
何故かトラブルが⋯⋯突然落ち着いて⋯⋯。トーマス司教様がやらかしてたのは間違い無いですね。今度ターニャと2人でお仕置きさせていただきましょう。
「⋯⋯ス、リリス?」
「は! 申し訳ありません。えーっと、はい?」
トーマス司教様のやらかしについて考えていて話を聞いておりませんでした。
「今度の夜会にお誘いしてもいいでしょうか?」
今度の夜会と言えばもしかして王太子殿下主催の⋯⋯。
「あ、え⋯⋯夜会はほぼ未経験ですからご迷惑をおかけする事になりかねませんので、もう少しこじんまりした集まりの方が宜しいかと」
「ずっとそばにおります。私とでは不安でしょうか?」
「⋯⋯いえ、そういうわけでは⋯⋯よろしくお願いします」
子供の抱きつきモジモジからの上目遣いは反則技だと知っておりましたが、大人の男性にも反則技があるなんて初めて知りました。
決死の覚悟を決めているような真剣な目つきの中に、断られる不安を覗かせるのは断れなくなってしまうので危険です。
「良かった~、夜会は早いと言われてしまうかと⋯⋯よっし!」
ガッツポーズされてます。
不安もありますがこんなにストレートに喜んでいただけると嬉しいです。マナーとダンスの練習を致しましょう。
ダンスなんてすっかり忘れてますし、コルセットと踵の高い靴はわたくしの鬼門ですのに大丈夫なんでしょうか。
お茶を入れ替えて気持ちも入れ替えると、ノア様の表情もお父様の雰囲気も一変しました。
「では、子供達の今後と今まで秘密にしていた子供達との関係について話してもよろしいでしょうか?」
「お願いします」
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