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57.虫退治されていたようです

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「フォレスト殿は当分ここには来れん。その間にのーんびりすればええからの」

 笑い顔がとてつもなく黒いです。

「な、なぜそれをトーマス司教様がご存知なのですか?」

「そりゃあ、リリスにつく虫には注意しとるからのう。あの坊主は辺境伯領とここを行ったり来たりしながら腹黒に尻を叩かれておる」

 腹黒⋯⋯コナー秘書官ですね。

「わしのリリスにちょっかいをかけようなぞ10年早いわ! フハハハ」

「そう言う時って百年早いとか言うんじゃないですか?」

 ターニャ、ナイスツッコミです。

「アホか、わしもリリスもそんなに長生きできんわい」

「いや~、トーマス司教様ならいけるかも」

「リリスが行き遅れてしまうじゃろうが」

 後10年経つと32歳ですから十分な行き遅れです。今でもそうですけどね、気にしてませんけど。

 グレッグ達を連れてラングローズ家に戻って来てもう2ヶ月経ちました。今の状況が幸せすぎるだけに今後が気になります。

 フォレスト公爵様と子供達の関係をトーマス司教様ならご存知かも⋯⋯。



「リリス~、チェイスにごほんよんで~」

 グレッグチェイスの手をひいて部屋に飛び込んできました。

「あ、トーマスしゃま。こんにちは」

 ペコリと頭を下げたグレッグの横で逃げ出そうとしているチェイス。

 読めました。部屋で遊びたいグレッグは外に行きたいチェイスをわたくしに押し付けにきたのですね。今日はハンナがお休みしていますから、メイサ1人では手が回りませんからね。

 他の使用人に頼むより早いと思ったのかも。

「グレッグはあっという間に話が上手になったのう」

「おにいちゃんだもん」

「その通りじゃな、リリスが考え込むのも当然じゃな」

 そうなのです。この2人が今後どう生きるのか⋯⋯自分では決められませんから周りが決めなくてはなりません。

 平民として生きるのか貴族として生きるのかによって覚える事は変わります。細かく分けるなら平民・貴族の養子・低位貴族・高位貴族の4つでしょうか。

「グレッグは大きくなったら何になりたいんじゃ?」

「リリスとけっこんする!」

「で、仕事は?」

「じいちゃんとおはなちゅくる」

「セルゲイめ、グレッグを丸め込みよったな⋯⋯⋯⋯⋯⋯ぐぬぬ⋯⋯し、仕方あるまい、坊主を呼ぶか⋯⋯いや、逆効果に⋯⋯うーん」

「トーマス司祭様~、もしかして邪魔してます?」


 ぎくっ!


「何のことかのう、わしにはち~ともわからん。さてさて、仕事が待っておるし~帰るとするかのう」

「ちょ~、怪しい」

 ターニャのツッコミを無視したトーマス司教様が帰っていかれました。

 多分、教会に。



 それから1週間後、大きな花束を抱えたフォレスト公爵様がお見えになられました。やはりお仕事がお忙しかったのでしょう、応接室のソファの対面に座られたフォレスト公爵様は少しお痩せになられていました。

「お久しぶりです、リリスティア」

「ようこそおいでくださいました、フォレスト公爵閣下」

「そろそろノアと呼んでいただけたら嬉しいです。そ、それと私にはティアと呼ぶ名誉をお与えくださいませんか?」

「何故ティアですの?」

「私だけの呼び名なので、ダメですか?」

「年齢によらない初々しい2人が真っ赤になって顔を見合わせてますねえ」

「なにぶん、初心者ですので」

「タ、ターニャ!⋯⋯えーっと⋯⋯では、わたくしはノア様とよ、呼ばせていただきますわ」

 ターニャと一緒になってニヤついていたコナー氏に小突かれたノア様が慌てて花束を差し出してこられました。

「ありがとうございます! あ、そうでした。これをリリスティア⋯⋯ティアに」

「とても綺麗ですね、ありがとうございます。お父様はもうすぐ来られると思うのですが、子供達はまだ後の方が良いでしょうか?」

 今日の本題は子供のことですから2人がいない方が話しやすい気がします。花束をターニャに渡そうと振り向くと何故かコナー氏と目配せしあっていました。いつの間に仲良くなったのでしょう?

「あ、はい。その方が助かります。グレッグとチェイスに会うのが楽しみですが、もう忘れられているかもしれませんね」

「チェイスはまだ小さいので忘れているでしょうが、グレッグはとても頭の良い子なので覚えているかもしれませんわ」




 ほぼ毎日ノア様から届いた手紙で随分と為人は分かったように思います。昔骨を喉に詰まらせてから魚が少し苦手で、果物は丸齧りがお好きだとか。

 寝る前に必ず本を読むけれど、そのせいで度々眠れなくなってはコナー氏に叱られるとか。

 公爵家の自室から見える王宮が嫌で部屋を変えたこと、いつか犬を飼いたいと思っていること。

 このような方と一緒ならグレッグとチェイスは幸せになりそうだと確信しています。

 話の流れによっては子供達が公爵家に落ち着くまでメイドか子供達の専用侍女として雇っていただけるか聞いてみようと思っていましたが⋯⋯。



「お待たせして申し訳ありません」

 お父様が来られました。

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