51 / 99
51.燃料追加は危険
しおりを挟む
「今日はリリスティア様と子供達の護衛として参りました。マーベル伯爵家やソラリス侯爵家の不穏分子がいる可能性があり、ターニャだけでは全員を守りきれない可能性があると判断致しました」
フォレスト公爵様が誤解を解く為に丁寧な説明をしてくださいました。これで暴走は駆け足くらいになるはずです。
「ほう、ソラリスもか⋯⋯アレは屍肉を漁るブチハイエナのような奴じゃから用心するに越したことはなかろう。
彼奴は侯爵位を継いだくせにへっぽこでのう、悪知恵を働かせてあれこれと手を出しては失敗ばかりしておる。子爵位を継いだ弟が成功しておるのを妬んで足を引っ張ることしか考えておらんクズじゃ。
護衛役ならええじゃろう⋯⋯ターニャ、フォレスト殿に茶を淹れてくれんか?」
「全く、相変わらずのリリスティア様ラブですねぇ」
苦笑いを浮かべたターニャが席を立ちお茶を淹れはじめました。
「離婚が成立したら全力でアピールするつもりでおります」
あ、その情報は司教様が一気に加速してしまいます。
今はトーマス司教様を確実に仕留める⋯⋯落ち着かせられるセルゲイ爺ちゃんがいないのですから燃料の追加は危険です。
「あ? それはいかんぞ⋯⋯ターニャ、茶はなしじゃ! リリスティアにつく虫なんぞ排除じゃ排除。グレッグは許すが貴様はダメじゃ。漸く自由になれると言うのに、何処の馬の骨がわからん奴を寄せ付けるとか⋯⋯やはり毒薬を取りに⋯⋯」
「トーマス司教様~、そんな我儘言ってるとセルゲイ爺ちゃんに負けちゃいますよ~」
「ムムム!」
トーマス司教様とセルゲイ爺ちゃんは長年のライバルです。飄々とかわすセルゲイ爺ちゃんに突っかかるトーマス司教様⋯⋯正反対の性格ですが大の仲良しです。
しょっちゅう言い合いをしていますが、教会を抜け出したトーマス司教様がセルゲイ爺ちゃんの家に泊まり込み、エールを飲みながら一晩中語り合うくらいの親友です。
将来のグレッグとチェイスを見るような、ケニス先生とターニャの方が近いかもしれませんね。
「その坊主の戯言は置いておいて、さっさとクソ野郎を捨てるとするかのう。わしの手にかかれば明日にはリリスティア・ラングローズじゃ」
元気よく立ち上がったトーマス司教様⋯⋯白い離婚は申請してから受理されるまでに最低でも1週間位はかかるはずですよ?
教会が受理した後、教会から相手方に書類を送り異議申し立てがなければ成立すると聞いていますから。
それでも離婚届にサインをもらうより早いとは思いますけれど、今日の明日は無理じゃないでしょうか。
「ステファン様は今逮捕されて軍事刑務所に一時収監されていますから、簡単にはお会いできないと思います」
「心配せんでも、軍であろうが王家であろうがリリスの離婚を妨げる奴は蹴散らしてくれるわい」
トーマス司教様が仰ると嘘に聞こえません。まあ、迷子にならずに行きつければという注釈はつきますけど。
「トーマス司教様、迷子になったりして?」
ターニャも同意見でした。
「ブルス助祭を連れて行けば問題ない。あのデカい身体を見失う事はあり得んじゃろ?」
「確かに」
7フィート近くありそうな身長と子供を乗せても余りそうな肩幅⋯⋯物語に出てくる巨人族みたいだと思ったのは秘密です。見た目と違い笑い皺のある穏やかなお顔とお声をされていましたし、トーマス司教様の扱いにも手慣れておられたような気がします。
あの方が一緒なら心配性のターニャでも安心できるでしょう。軍事刑務所の塀を鼻息で吹き飛ばしそうな⋯⋯いえ、優しそうな聖職者でした。
ケーキのお陰でグレッグ達も落ち着いたようですから、隣の部屋にトーマス司教様と2人で移動しました。
既に大まかな状況はご存知なので大して説明することも残っておりません。お渡しした書類をトーマス司教様が精査する間に幾つかの確認と質問にお答えするだけですむはずです。
「あの坊主と結婚するんか?」
とんでもない方向から質問が飛んできました。トーマス司教様くらいのお年の方から見ると30前のフォレスト公爵様でも『坊主』扱いなのですね。
「お声をかけていただいてはおりますが、そうはならないと思います。ほんの数回しかお会いしたことがない方ですし、条件的にも合いませんし」
「フォレストと言えば王弟の息子か。戦争で大立ち回りをしたのが有名じゃが、何年か前に婚約者に捨てられた間抜け」
「よくご存知ですね」
意外でした。世俗のことには興味を示されないトーマス司教様がフォレスト公爵様のことをご存知だったとは。
「アンポンタンの上長じゃから調べたんじゃ。戦争終結の手口からして頭もキレそうじゃし、権力の使い所も弁えておる。
リリスは変な奴ばかりばかり拾うくせがあるから仕方ないが、頑固でひっついたら離れんオナモミみたいなとこもあるぞ。
しかもいい年して素人童貞と処女の組み合わせは⋯⋯面倒そうじゃのう」
思わず耳を塞ぎそうになりました。非常にプライベートな情報をサラッと暴露されても返答に困ります。この後どんな顔をすればいいのか⋯⋯。
「あの、資料の内容に移ってもいいでしょうか?」
フォレスト公爵様が誤解を解く為に丁寧な説明をしてくださいました。これで暴走は駆け足くらいになるはずです。
「ほう、ソラリスもか⋯⋯アレは屍肉を漁るブチハイエナのような奴じゃから用心するに越したことはなかろう。
彼奴は侯爵位を継いだくせにへっぽこでのう、悪知恵を働かせてあれこれと手を出しては失敗ばかりしておる。子爵位を継いだ弟が成功しておるのを妬んで足を引っ張ることしか考えておらんクズじゃ。
護衛役ならええじゃろう⋯⋯ターニャ、フォレスト殿に茶を淹れてくれんか?」
「全く、相変わらずのリリスティア様ラブですねぇ」
苦笑いを浮かべたターニャが席を立ちお茶を淹れはじめました。
「離婚が成立したら全力でアピールするつもりでおります」
あ、その情報は司教様が一気に加速してしまいます。
今はトーマス司教様を確実に仕留める⋯⋯落ち着かせられるセルゲイ爺ちゃんがいないのですから燃料の追加は危険です。
「あ? それはいかんぞ⋯⋯ターニャ、茶はなしじゃ! リリスティアにつく虫なんぞ排除じゃ排除。グレッグは許すが貴様はダメじゃ。漸く自由になれると言うのに、何処の馬の骨がわからん奴を寄せ付けるとか⋯⋯やはり毒薬を取りに⋯⋯」
「トーマス司教様~、そんな我儘言ってるとセルゲイ爺ちゃんに負けちゃいますよ~」
「ムムム!」
トーマス司教様とセルゲイ爺ちゃんは長年のライバルです。飄々とかわすセルゲイ爺ちゃんに突っかかるトーマス司教様⋯⋯正反対の性格ですが大の仲良しです。
しょっちゅう言い合いをしていますが、教会を抜け出したトーマス司教様がセルゲイ爺ちゃんの家に泊まり込み、エールを飲みながら一晩中語り合うくらいの親友です。
将来のグレッグとチェイスを見るような、ケニス先生とターニャの方が近いかもしれませんね。
「その坊主の戯言は置いておいて、さっさとクソ野郎を捨てるとするかのう。わしの手にかかれば明日にはリリスティア・ラングローズじゃ」
元気よく立ち上がったトーマス司教様⋯⋯白い離婚は申請してから受理されるまでに最低でも1週間位はかかるはずですよ?
教会が受理した後、教会から相手方に書類を送り異議申し立てがなければ成立すると聞いていますから。
それでも離婚届にサインをもらうより早いとは思いますけれど、今日の明日は無理じゃないでしょうか。
「ステファン様は今逮捕されて軍事刑務所に一時収監されていますから、簡単にはお会いできないと思います」
「心配せんでも、軍であろうが王家であろうがリリスの離婚を妨げる奴は蹴散らしてくれるわい」
トーマス司教様が仰ると嘘に聞こえません。まあ、迷子にならずに行きつければという注釈はつきますけど。
「トーマス司教様、迷子になったりして?」
ターニャも同意見でした。
「ブルス助祭を連れて行けば問題ない。あのデカい身体を見失う事はあり得んじゃろ?」
「確かに」
7フィート近くありそうな身長と子供を乗せても余りそうな肩幅⋯⋯物語に出てくる巨人族みたいだと思ったのは秘密です。見た目と違い笑い皺のある穏やかなお顔とお声をされていましたし、トーマス司教様の扱いにも手慣れておられたような気がします。
あの方が一緒なら心配性のターニャでも安心できるでしょう。軍事刑務所の塀を鼻息で吹き飛ばしそうな⋯⋯いえ、優しそうな聖職者でした。
ケーキのお陰でグレッグ達も落ち着いたようですから、隣の部屋にトーマス司教様と2人で移動しました。
既に大まかな状況はご存知なので大して説明することも残っておりません。お渡しした書類をトーマス司教様が精査する間に幾つかの確認と質問にお答えするだけですむはずです。
「あの坊主と結婚するんか?」
とんでもない方向から質問が飛んできました。トーマス司教様くらいのお年の方から見ると30前のフォレスト公爵様でも『坊主』扱いなのですね。
「お声をかけていただいてはおりますが、そうはならないと思います。ほんの数回しかお会いしたことがない方ですし、条件的にも合いませんし」
「フォレストと言えば王弟の息子か。戦争で大立ち回りをしたのが有名じゃが、何年か前に婚約者に捨てられた間抜け」
「よくご存知ですね」
意外でした。世俗のことには興味を示されないトーマス司教様がフォレスト公爵様のことをご存知だったとは。
「アンポンタンの上長じゃから調べたんじゃ。戦争終結の手口からして頭もキレそうじゃし、権力の使い所も弁えておる。
リリスは変な奴ばかりばかり拾うくせがあるから仕方ないが、頑固でひっついたら離れんオナモミみたいなとこもあるぞ。
しかもいい年して素人童貞と処女の組み合わせは⋯⋯面倒そうじゃのう」
思わず耳を塞ぎそうになりました。非常にプライベートな情報をサラッと暴露されても返答に困ります。この後どんな顔をすればいいのか⋯⋯。
「あの、資料の内容に移ってもいいでしょうか?」
18
お気に入りに追加
2,747
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる