【完結】子供を抱いて帰って来た夫が満面の笑みを浮かべてます

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50.トーマス司教爆走中

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「トーマス司教様お久しぶりでございます。こちらはノア・フォレスト公爵閣下でいらっしゃいます。この子達はステファン様のお子でグレッグとチェイスと言います」

「なんと、彼奴めはいつの間に2人も!? くだらん下衆野郎であったがこれほど性根が腐っておったとは⋯⋯しかし可愛い、天使もひれ伏すほどの可愛さじゃ! あのようなクソ野郎が父親であっても子供というのはかけがえもないものですからな。うん、めでたい、非常にめでたいですぞ!!
彼奴など気にすることはない。種が腐っておっても芽が出たならば別の生き物ですからな、リリスがおれば蛆虫の影も形もない良い子に育つ事間違いなしじゃ。うんうん」

「⋯⋯トーマス司教様、子供の前ですからね。取り敢えず中に入ってよろしいでしょうか」

 子供達とハンナ達はトーマス司教様の勢いに驚き目を丸くしています。フォレスト公爵様は笑いを堪えておられますが、その後ろのターニャはお腹を抱えて笑っています。

 トーマス司教様⋯⋯相変わらずですね。

 ステファン様と結婚しているわたくしと一緒に教会に来たなどと言う話が広まればフォレスト公爵様の醜聞になりかねません。これ以上は人目のないところまで我慢してくださいませ。

「おお、そうじゃった。さあ私の執務室に参りましょうぞ。リリスには甘いショコラトルを準備しておりますからな。子供達は甘いものが好きと決まっておるからな⋯⋯じいちゃんがケーキを持ってきてあげよう。公爵閣下には⋯⋯うーん、水か?⋯⋯状況次第ではまあ、お茶くらいならなしではないな」

 お話の最後がよく聞こえませんでしたが、おかしなフレーズがあったように思いました。まあ、取り敢えず今は中に入るのが先決ですね。

 強引にわたくしの手を引いて歩くトーマス司教様に対抗するようにグレッグが手を繋いできました。司教様をチラッと見て鼻息を荒くするグレッグのそれはヤキモチですか? 人生初です、可愛さ爆裂です。後でいっぱいムギュウさせてもらいましょう。

 ヒョイっとチェイスを抱えたフォレスト公爵様はとうとう笑いを堪えられなくなったようで『プッ!』と吹き出しておられました。

 そのまま教会の2階にあるトーマス司教様の執務室に向かう為階段を登りました。短い足で一段ずつ登るグレッグのアホ毛がふわふわと踊っています。

 トーマス司教様もグレッグの歩みに合わせてゆっくりと登ってくださいました。



 総勢7名でお邪魔しましたのであまり広くない執務室はいっぱいになってしまいました。

 チェイスを片膝に乗せたフォレスト公爵様の隣に座ったわたくしの膝にはグレッグがいます。独占欲丸出しでトーマス司教様を睨みつけていますがニコニコと嬉しそうな司教様には届いていないようです。

「ターニャ達の椅子が足りんのう⋯⋯そうじゃ、ちいと待っておれよ」

 部屋を出たトーマス司教様は助祭様達と一緒に椅子とテーブルをお持ちになり嬉しそうにセッティングしはじめてしまわれました。慌てて手伝いを申し出たハンナ達にお茶の準備を頼みながら⋯⋯。

「娘と孫が会いにきてくれた気分じゃのう。ブルス助祭、羨ましかろ?」

「虫の知らせですかね、昨日ケーキを多めに買ってきて正解でした。アップルパイもありますし」

 慣れておられるのか見事な返しをしておられました。



 お茶とお菓子が並び⋯⋯フォレスト公爵の前にはお水?⋯⋯話をはじめることにしました。

 子供達の前ですから詳しいことは話せませんが離婚の手続きに来たことを伝え、準備してきた書類をお渡ししました。

「その前に⋯⋯其奴とはどういう繋がりなのか教えてくれんかの?」

 王家の血を引く公爵様を『其奴』呼ばわり⋯⋯相手が誰であってもブレませんね。

 トーマス司教様のこの態度は相手が誰であっても変わらないのです。枢機卿と助祭への話し方も同じだそうですし、王族の前でも平民の子供でも変わらない態度を貫くという生粋の変わり者です。

「フォレスト公爵閣下は子供達の保護とわたくしがマーベル伯爵家を出る為の手助けをしてくださいましたの。ここへ同行してくださったのは子供達の為ですわ」

 他に言いようがありませんでした。トーマス司教様は目を眇めフォレスト公爵様を上から下までジロジロと見分しておられます。

「離婚の手続きについて来た⋯⋯子供達⋯⋯ふむ⋯⋯彼奴よりはマシか? なかなか良い目をしておるし⋯⋯うんまあまあの及第点と言うところかのう」

 過保護なトーマス司教様のお眼鏡にかなったようです。

「今の内に言っておくが、今度こそリリスの婚姻式は私が執り行う。その為にゴリ押しでここへ赴任して来たんじゃから、そこは絶対に譲れんぞ。
あのバカたれと同じ⋯⋯カケラでもリリスを悲しませるようなことがあれば教会秘匿の毒薬で⋯⋯」

「トーマス司教様~、早合点ですよ~。それはまだで~す」

「ん? ターニャ、どういう⋯⋯そうか、離婚が先じゃったな。式の話はその後か」

 トーマス司教様は相変わらずですね。ターニャの冷静なツッコミで少し落ち着かれたようです、まだ違ってますけど。

「リィ、おくの!(リィはぼくの)」

 ちっちゃな求婚者が抱きついて来ました。人生初のモテ期到来?

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