【完結】子供を抱いて帰って来た夫が満面の笑みを浮かべてます

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47.父の思いとエマーソンの後悔

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《 ラングローズ子爵とフォレスト公爵 》

「リリスティアが一歳になったばかりの頃妻のベロニカが亡くなり、その半年後には旱魃で大変な時に領地の差配を任せていた代官の横領が発覚しまして⋯⋯私は領地に篭りっきりになってしまったのです。

リリスティアの兄のアレックスは11歳でしたから寂しいと言っても家の状況も理解できる年でしたし、翌年には学園に入学して親しい友人もできたのでまだマシだったのでしょう。

リリスティアは我儘も言わずいつも笑顔を浮かべ素直な良い子に育っていると安心しておりました。
何かをねだられることもなくいつも『楽しい』『嬉しい』『ありがとう』と笑顔で感謝の言葉を口にするだけ。
大勢の使用人達の中で暮らしていたリリスティアは自我を閉じ込める事が周りに迷惑をかけない方法だと思い込んでいると教えてくれたのは孤児院のシスターでした。
それでようやく⋯⋯見ず知らずの人を拾ってくるのは、寂しいからなんじゃないかとようやく気付いた次第です。

一緒に暮らすようになってからも人を助けるため以外でお願いをされた事が一度もなく、不満を言ってもらえたこともないのです」

「マーベル中尉やマーベル伯爵家の調査を進めていく間にリリスティア様の状況を少しばかり知りまして。
5年も耐えた上に不貞の証である子供達に愛情を持ち、その子供達の為に不遇な環境で耐える方を選ぼうとされるのは普通ではないと思っていました。
それが不思議でならず⋯⋯納得できました。
リリスティア様が我儘を言ってくれる唯一の男になれるよう頑張りたいと思います」


「唯二⋯⋯唯三にしていただけますか。私とアレックスもリリスティアのおねだりを狙って奮闘中ですから」

「7年前に縁を作ることができなかったのが悔しくてなりません。スタートで出遅れていますから手加減していただけると助かります」



《 エマーソンとメイド長 》

 家宅捜索が行われ大量の木箱が運び出されていくのを見つめていたエマーソンが呟いた。

「マーベル伯爵家は終わりですね」

「とっくに終わっていましたよ。エマーソンは目を背けていただけでしょう?」

「⋯⋯そう。確かにその通りです」

 マーベル伯爵家崩落のはじまりだと思ったのは嫡男ステファン様の結婚が決まられた時だったように思います。

 強引に婚約を結んだ上にゴリ押しの結婚式。戦時中だから無駄は省くべきだと言い指輪の用意どころかブーケの用意さえされない。それなのに輿入れには法外な額の持参金を要求された。

 夜会で会っただと言うソラリス侯爵の言葉で婚約を申し込まれたとお聞きした時にも不安は感じましたが⋯⋯。


 強引に進めた結婚式にも関わらず花嫁を放置して持参金の使い道を声高く話すマーベル伯爵一家。泥酔したステファン様を一晩中介抱し、翌朝ステファン様をお見送りした直後には複数の商会を呼び寄せるよう指示されました。

 大量の衣装や貴金属を購入するだけではなく輿入れでリリスティア様がお持ちになられた貴重品などを売り払い⋯⋯待遇はメイド以下。

 その所業だけでも先代の伯爵様へ顔向けなどできないと思っておりましたが、脱税だけでなく人身売買にまで手を染めておられると知った時には絶望してしまいました。

 その上、愛人と庶子を。


「旦那様達の勝手を受け入れるだけだった私達も同罪です。知ってて見逃していたんですからエマーソンも私も犯罪者です」

「帳簿を見ていた私とは違いメイド長は知らなかったでしょう?」

「真面なことをしておられない事くらい承知していましたとも。若奥様のお部屋と旦那様達の言動だけで簡単に気付けました。何もしなかったのだから偉そうに言うのは間違ってますけど」

「これから伯爵家はどうなるんでしょう」

「若奥様が漸く自由になられる⋯⋯それだけで良いんじゃないですか?
あんな扱いをされたのに使用人達の行く末に配慮してくださるなんて、リリスティア様になんとお詫びしたら良いのか想像もできません」

 虚偽の書類を作成し提出した私は旦那様達の共犯として逮捕されるでしょうが、コナー秘書官から『使用人達が希望すれば子爵家で仕事の斡旋をする』と聞きました。

 若奥様のお陰で後顧の憂いなく終われる事に感謝の言葉もありません。辞めていく使用人の大半は若奥様⋯⋯リリスティア様に会いにいくようですが就職の斡旋をしていただくのは二の足を踏んでいるようです。

「メイド長はどうされるのですか?」

「リリスティア様にお詫びした後で自分で仕事を探します。これ以上リリスティア様に甘えるなんて情けなくて出来ませんし、知り合いに声をかけたら何かしらの仕事が見つかると思いますから」


 もう二度とリリスティア様にお会いする事は叶わないと思いますが、本当に申し訳ありませんでした。

 心からのお詫びと感謝を⋯⋯どうかお幸せに。

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