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44.初めての⋯⋯
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「グレッグ、リリスティア様と一緒なら引っ越しできるか?」
「リィ、ずーっといっちょ」
グレッグが初めて文章で話しました! 単語を鸚鵡返しすることしかできなかったグレッグがほんの数日で文章を!!
息が楽になったら褒めてあげたいですから、手を緩めてください。ターニャ、横を向いていないでグレッグを捕獲して下さい。
「玄関の外に馬車が停まっているから、そこまでリリスティア様を連れて行けるか?」
「⋯⋯リィ、ちゅれてける!」
首から手が離れて漸く息ができるようになりましたが、今度は手を握って離しません。フォレスト公爵様はわたくしを餌にしてグレッグを馬車まで誘導するつもりなのですね。
「あの、私も一緒に連れて行っていただけませんか!?」
メイサもですか⋯⋯デジャヴです。
力を入れすぎて汗ばんだ小さな両手に引き摺られて馬車の横まで来たのでターニャに目で合図をしようと⋯⋯いません。ターニャは直ぐ後ろを歩いていたはずなのに、どこに行ってしまったのでしょうか?
「リィ、だっこちて」
はう! こんな時になんてことを言うのでしょうか。
わたくしの動揺をよそにグレッグが大きな目で見上げてきますが、抱っこなんてしたらまた首絞め⋯⋯チョークスリーパー⋯⋯離れなくなってしまいますよね。
わたくしがオロオロしながらターニャを探しているとフォレスト公爵様がやってきてグレッグの耳に何か囁きました。
嬉しそうに大きく頷いたグレッグが手を離してくれたので慌てて後ろに下がると、グレッグの後ろから両脇に手を入れたフォレスト公爵様がひょいっとグレッグを持ち上げてポイっと投げたのです。
わたくしに向かってポイっと。
「きゃあ!」
ガシッとしがみつくグレッグを抱きしめるしかなく⋯⋯再びのチョークスリーパーです。
「フォレスト公爵閣下、子供を投げるなんて!」
思わず抗議しましたがフォレスト公爵様はわたくしごとグレッグを抱え上げてしまわれたのです。
「きゃあ、なにを!!」
人生初の姫抱っこはお腹の上にはクツクツと笑う子供がひとり。
「ドアを開けろ」
ほんの数歩で1台目の馬車に辿り着いたフォレスト公爵様がそのまま乗り込んでしまわれました。
「ちょ⋯⋯降りなきゃ、グレッグわたくしは降りな⋯⋯」
バタンとドアが閉まると同時に馬車が走りはじめました。
「⋯⋯誘拐ですか? 誘拐ですよね」
馬車が動いてしまっては慌てても意味がありません。取り敢えずフォレスト公爵様の膝から降りなくては⋯⋯。
「おり、おります。下ろしてください」
グレッグの重みで身動きがしにくいのですが、わたくしを抱えたフォレスト公爵様の手が離れてくれません。
「ラングローズ卿と取引したんだ。例の資料と引き換えにリリスティアを連れて帰ると」
お父様のせいでしたか。それなら前もって教えていただければ、あれほど無様な真似は致しませんでしたのに。
「ラングローズ卿から『娘は頑固だから言っても聞かないだろう』と教えていただいたんで、強行突破することにしたんだ」
「ターニャやグレッグも共犯ですか?」
「ターニャは共犯だけど、グレッグは⋯⋯『やりたいようにやれ』と言うと言ってたな」
子爵邸までフォレスト公爵様の膝から降りる事もできず、グレッグの首締めも少し緩んだだけ⋯⋯。シワだらけでグレッグの汗まみれのデイドレスで我が家に帰還いたしました。
「もう歩けますから降ろしてくださいませ」
馬車を降りても姫だっこのままは流石に恥ずかしすぎます。重いのは2人分ですからと脳内で抗議していると2台目の馬車からターニャ・チェイス・ハンナ・メイサの4人が楽しそうに降りてきました。
「プロディートル!」
ニヤニヤと笑うターニャに向かって文句を言いました。プロディートルとはラテン語で裏切り者の事。孤児院の子供達に聞かせたくない言葉を誤魔化す方法です。
「ふふっ、ヴィクトス(敗者)」
玄関を入ると漸くフォレスト公爵様が降ろしてくれました。グレッグも降りてターニャと手を繋いで、庭を見に行ってしまいました。
「納得いきませんわ」
「何が納得いかないんだい?」
「お父様! ただいま帰りました」
上品なカーテシーをしようとしましたが両手を広げて待つお父様に遠慮なく飛びつきました。
「ふふっ、子供みたいで少し恥ずかしいです」
「5年ぶりだからな、私の中では17で止まってる。お帰り、リリス」
「お父様は少しお年を召したみたいよ」
「ほう、今日の午後のおやつはチョコレートのビスキュイだと聞いたが残念だったな」
「ごめんなさい! お父様はいつでもお若くてわたくしの自慢だわ」
料理長のサントスは料理も勿論ですがお菓子作りの名人です。特にチョコレートを使ったお菓子はわたくしの大好物です。
「フォレスト閣下、この後お時間はおありでしょうか。できれば娘のお仕置きに立ち会っていただきたい」
ん? お仕置きですか? 身に覚えがありません。
「リィ、ずーっといっちょ」
グレッグが初めて文章で話しました! 単語を鸚鵡返しすることしかできなかったグレッグがほんの数日で文章を!!
息が楽になったら褒めてあげたいですから、手を緩めてください。ターニャ、横を向いていないでグレッグを捕獲して下さい。
「玄関の外に馬車が停まっているから、そこまでリリスティア様を連れて行けるか?」
「⋯⋯リィ、ちゅれてける!」
首から手が離れて漸く息ができるようになりましたが、今度は手を握って離しません。フォレスト公爵様はわたくしを餌にしてグレッグを馬車まで誘導するつもりなのですね。
「あの、私も一緒に連れて行っていただけませんか!?」
メイサもですか⋯⋯デジャヴです。
力を入れすぎて汗ばんだ小さな両手に引き摺られて馬車の横まで来たのでターニャに目で合図をしようと⋯⋯いません。ターニャは直ぐ後ろを歩いていたはずなのに、どこに行ってしまったのでしょうか?
「リィ、だっこちて」
はう! こんな時になんてことを言うのでしょうか。
わたくしの動揺をよそにグレッグが大きな目で見上げてきますが、抱っこなんてしたらまた首絞め⋯⋯チョークスリーパー⋯⋯離れなくなってしまいますよね。
わたくしがオロオロしながらターニャを探しているとフォレスト公爵様がやってきてグレッグの耳に何か囁きました。
嬉しそうに大きく頷いたグレッグが手を離してくれたので慌てて後ろに下がると、グレッグの後ろから両脇に手を入れたフォレスト公爵様がひょいっとグレッグを持ち上げてポイっと投げたのです。
わたくしに向かってポイっと。
「きゃあ!」
ガシッとしがみつくグレッグを抱きしめるしかなく⋯⋯再びのチョークスリーパーです。
「フォレスト公爵閣下、子供を投げるなんて!」
思わず抗議しましたがフォレスト公爵様はわたくしごとグレッグを抱え上げてしまわれたのです。
「きゃあ、なにを!!」
人生初の姫抱っこはお腹の上にはクツクツと笑う子供がひとり。
「ドアを開けろ」
ほんの数歩で1台目の馬車に辿り着いたフォレスト公爵様がそのまま乗り込んでしまわれました。
「ちょ⋯⋯降りなきゃ、グレッグわたくしは降りな⋯⋯」
バタンとドアが閉まると同時に馬車が走りはじめました。
「⋯⋯誘拐ですか? 誘拐ですよね」
馬車が動いてしまっては慌てても意味がありません。取り敢えずフォレスト公爵様の膝から降りなくては⋯⋯。
「おり、おります。下ろしてください」
グレッグの重みで身動きがしにくいのですが、わたくしを抱えたフォレスト公爵様の手が離れてくれません。
「ラングローズ卿と取引したんだ。例の資料と引き換えにリリスティアを連れて帰ると」
お父様のせいでしたか。それなら前もって教えていただければ、あれほど無様な真似は致しませんでしたのに。
「ラングローズ卿から『娘は頑固だから言っても聞かないだろう』と教えていただいたんで、強行突破することにしたんだ」
「ターニャやグレッグも共犯ですか?」
「ターニャは共犯だけど、グレッグは⋯⋯『やりたいようにやれ』と言うと言ってたな」
子爵邸までフォレスト公爵様の膝から降りる事もできず、グレッグの首締めも少し緩んだだけ⋯⋯。シワだらけでグレッグの汗まみれのデイドレスで我が家に帰還いたしました。
「もう歩けますから降ろしてくださいませ」
馬車を降りても姫だっこのままは流石に恥ずかしすぎます。重いのは2人分ですからと脳内で抗議していると2台目の馬車からターニャ・チェイス・ハンナ・メイサの4人が楽しそうに降りてきました。
「プロディートル!」
ニヤニヤと笑うターニャに向かって文句を言いました。プロディートルとはラテン語で裏切り者の事。孤児院の子供達に聞かせたくない言葉を誤魔化す方法です。
「ふふっ、ヴィクトス(敗者)」
玄関を入ると漸くフォレスト公爵様が降ろしてくれました。グレッグも降りてターニャと手を繋いで、庭を見に行ってしまいました。
「納得いきませんわ」
「何が納得いかないんだい?」
「お父様! ただいま帰りました」
上品なカーテシーをしようとしましたが両手を広げて待つお父様に遠慮なく飛びつきました。
「ふふっ、子供みたいで少し恥ずかしいです」
「5年ぶりだからな、私の中では17で止まってる。お帰り、リリス」
「お父様は少しお年を召したみたいよ」
「ほう、今日の午後のおやつはチョコレートのビスキュイだと聞いたが残念だったな」
「ごめんなさい! お父様はいつでもお若くてわたくしの自慢だわ」
料理長のサントスは料理も勿論ですがお菓子作りの名人です。特にチョコレートを使ったお菓子はわたくしの大好物です。
「フォレスト閣下、この後お時間はおありでしょうか。できれば娘のお仕置きに立ち会っていただきたい」
ん? お仕置きですか? 身に覚えがありません。
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