【完結】子供を抱いて帰って来た夫が満面の笑みを浮かべてます

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43.ハンナの願い

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「あの⋯⋯お願いがあります!! 私も連れて行ってもらえませんか!? お給料もお休みも要りませんからお子様達のお世話をさせてください、お願いします。
旦那様、短い間でしたがお世話になりました。今日で辞めさせていただきます。
で、本当にお給料いらないんで連れてってください。いえ、ついてきます!!」

「閣下、いかがされますか?」

「給与と休みについては後でコナー秘書官と話してもらうとして、直ぐに準備できるなら一緒に行けば良いだろう。時間がかかるならあとで迎えを寄越すが?」

「5分で準備します。荷物はまとめてあるんで、メイド服を着替えたら直ぐに出れます」

「準備してある?」

「はい、お子様達の怪我を見た時からこうなるんじゃないかと思ってました。それに私は子供が好きなんで、小さい子供にひどい事をするお屋敷には勤められません」

「わたくしの専用侍女のターニャもお連れください。ハンナ一人では二人の子供の世話は厳しいと思いますので」

「構わないのですか?」

「はい、よろしくお願いします。ハンナ、ターニャにそのように伝えて準備してきて」

 しっかりと頷いたハンナはフォレスト公爵とわたくしにだけ頭を下げて応接室を出て行きました。

「執事のエマーソン殿、ハンナの雇用契約書をお持ち下さい。荷物の準備が終わるまでに事務手続きを終わらせます」

 ハンナの後ろ姿を睨みつけていた伯爵夫妻はコナー秘書官の声でパッと振り返った。



「さて、ステファン・マーベル及びビビアンは前へ」

 フォレスト公爵の低い声でステファン様とビビアン様がワナワナと震えはじめました。

「貴様ら2人はこのまま逮捕、事情聴取を行う。それ以外の者のうち伯爵夫妻及びアリシア嬢は家宅捜索が完了するまで自室にて待機。部屋の前は第一騎士団が見張る、逃亡の他証拠の破棄の疑いがあれば即捕縛の許可が出ていると心得よ」

「そんな横暴な! 公爵と言えどそのようなことが許されるはずはありません。私達は虐待など関わっておりませんし、家宅捜査だなんて!」

 家宅捜索と聞いてマーベル伯爵が大声を張り上げました。

「公文書偽造だけであれば家宅捜査はあり得なかっただろうが、他にもあるのではないか?」

「⋯⋯と言いますと? わた、私には何の事だか⋯⋯何か誤解しておられると」

「罪を軽減させようとして随分と金をばら撒いていたのでその金の出所を調べた。随分と大胆な脱税と内職をしていると判明したが、この件に関しては私の管轄外になる為、表に第一騎士団が順番待ちしている」

 フォレスト公爵様の言葉でマーベル伯爵夫妻が膝から崩れ落ちてしまいました。

 昨日の打ち合わせではここまでやる予定ではありませんでした。脱税と人身売買は今後の調査が必要なはずだったので、何か起きたのかもしれません。
 この状況だとわたくしはしばらくここから離れられないのでターニャに伝えておかなくては⋯⋯。

 あれほど大勢の方は何のためなのか不思議に思っておりましたが、屋敷の外に待機していたのは第一騎士団の方達だったと聞いて納得しました。

 応接室に入ってきた騎士団長とフォレスト公爵様が和やかに握手し合っているのがなんだか不思議に思えてしまいます。



 ハンナの雇用契約が破棄されて今日までの給与の計算も終わりました。

 チェイスを抱いたハンナとグレッグの手を引いたターニャの後ろにメイサやケイトも並んでいます。キョロキョロと部屋を見回していたグレッグはわたくしを見つけると一目散に走ってきてぎゅうっと抱きついてきました。

 しゃがんでグレッグと目を合わせてゆっくりと説明します。

「グレッグ、これから少しお出かけしなくちゃいけないの。ターニャとハンナが一緒にいてくれるからチェイスと仲良くね」

「やだ」

「とっても楽しいところだし、お散歩もピクニックもできるのよ」

「やだ、いっしょ」

「少しだけしたら会いに行くからそれまで待っててね」

 ガシッと首にしがみつかれて息が止まりそうなほどです。仕方なくターニャに合図をすると⋯⋯え? そっぽをむかれてしまいましたけど、なんで?

 昨日も今朝もちゃんと確認しましたのに、なぜここのタイミングで? ターニャにグレッグを頼めないなら⋯⋯ハンナは両手が塞がっていますし。困りました。

「グレッグ、必ず会いに行くから」

「だめ」

 グイグイと首が締まっていきます。可愛いけど今は困ります。息が苦しい⋯⋯本当にヤバいです。



「グレッグ、リリスティア様と一緒なら引っ越しできるか?」

 フォレスト公爵様、なんてことを仰るのですか!?








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