42 / 99
42.無駄な抵抗
しおりを挟む
「幼児虐待! 何かの間違いです!! 誰がそんな事を言ったのか知りませんが、俺はそんな馬鹿な事なんかしたことありません。軍務についていた時も時間を作っては遊んでやりましたから!!」
「アタシだって食事とか着替えとか全部ひとりでやってたのに!」
「ビビアンさんの住んでいたアパートから男女の罵声や物が壊れる音、子供の泣き叫ぶ声が聞こえていたいたとの証言が複数得られています。それら全てが偽りだと仰られますか?」
「べ、別の部屋よ。あのアパートには他にも子供が住んでたもの!!」
「虐待がないのであれば呼んでこられては?」
蔑んだようなコナー秘書官の冷たい声が応接室に響きました。
異様な静けさの中で我慢できなくなったのかビビアン様が口を開きました。
「それはまあ⋯⋯傷はあるけど⋯⋯あの子達が転んだりどっかにぶつけたりした跡だし。アタシじゃないもん。
ねえ、あんな子のことで時間を潰すよりさぁ、もっと楽しい時間の使い方があんじゃん! ほら、アタシと⋯⋯」
虐待した覚えもあるでしょうし着替えなどの時に傷が残っているのも見て知っているのでしょう。ビビアン様は話を誤魔化そうとされていたようですが、フォレスト公爵様達の軽蔑するような目を見て言葉に詰まったようです。
その上、ひとりで逃げ出すつもりなのかジリジリと後退りをはじめました。
「お、俺。私も知りません! 怪我とか傷とか見た事もありません」
「埒が開かないようです。閣下いかが致しましょうか」
「マーベル中尉、貴様はまだ我が部隊に籍を置いている筈だが、上長である私の命令は不服か?」
「いえ、その。そのような事はありませんが、これは」
「ではもう一度だけ言おう。子供達をここへ」
このような緊迫した場所に子供達を連れてきたら怯えてしまいます。わたくしは必死でフォレスト公爵様に合図を送りました。
「⋯⋯そこにいる執事に頼むとしよう。子供の世話をしているメイドをここへ。これ以上の譲歩が必要なら私が子供達の元に行くとしよう」
指名されたエマーソンが諦めたように部屋を出たのでわたくしは後を追いかけました。
「エマーソン、わたくしも同行します。そんな顔で子供達の前に出たら怯えてしまいます」
「⋯⋯若奥様のそのご様子では、本当に虐待があったのですね」
「なかったと思うの?」
「⋯⋯マーベル伯爵家は終わりです」
「メイドを呼びに行きましょう。フォレスト公爵閣下をこれ以上お待たせしないほうがいいわ」
階段を急ぎ足で上がり青の間のドアを少し開けてハンナを手招きしました。
おんぶしていたチェイスをケイトに預けてやって来たハンナには予想がついているのかもしれません。
「一緒に応接室に来てくれるかしら」
「はい、私ひとりでいいですか?」
「ええ、大人数が移動したら子供達がますます不安がると思うから」
しっかりと頷いたハンナを連れてエマーソンと3人で応接室に戻りました。
「メイド見習いのハンナと申します。お子様達がこのお屋敷においでになられた日からお世話させていただいております」
深々と頭を下げたあと挨拶をしたハンナはこの緊迫した状況の中でも怯えず、しっかりと背を伸ばしてフォレスト公爵様の目を見つめています。
「雇い主に忖度することなく答えてください。子供達の着替えを手伝ったことはありますか?」
「あります。私の担当はチェイス様ですがグレッグ様とチェイス様のお召替えを手伝ったことがあります」
「傷やあざはありましたか?」
「あります。お腹や背中と足にたくさんの古い傷と叩かれたようなあざがあります」
ハンナの証言の途中でステファン様が顔をハンナに向けて何か言いかけましたが、横からマーベル伯爵に袖を引かれ再び俯いてしまいました。
「それからこの間フォレスト公爵様がお越しになられた日の午前中、ステファン様がグレッグ様の座っている椅子を2回蹴って髪を掴んで頭をぐらぐらさせるのを見ました。
助けようとしたメイドのメイサはお腹を蹴られて吹っ飛んでしまいました!」
「ギルティだな⋯⋯中尉、何か言い訳はあるか?」
「⋯⋯そ、その時は少し⋯⋯でもそれ以外は知らないと言うか」
「子供は家畜と同じで身体で覚えさせるしかないそうだな。顔さえ避ければどこを殴ってもバレない⋯⋯部下の証言なんだが、他にも聞きたいか?」
「⋯⋯」
「この屋敷は危険だと判断して一時保護致します。ハンナ、子供達の荷物をまとめてもらえますか? 最低限必要なもの⋯⋯子供にとって大切なものがあればそれだけで構いません」
「保護ってそんなことされたら俺は⋯⋯」
最後まで自分のことばかり⋯⋯謝罪や反省の言葉もないのはステファン様らしかったです。
「あの⋯⋯お願いがあります!!」
「アタシだって食事とか着替えとか全部ひとりでやってたのに!」
「ビビアンさんの住んでいたアパートから男女の罵声や物が壊れる音、子供の泣き叫ぶ声が聞こえていたいたとの証言が複数得られています。それら全てが偽りだと仰られますか?」
「べ、別の部屋よ。あのアパートには他にも子供が住んでたもの!!」
「虐待がないのであれば呼んでこられては?」
蔑んだようなコナー秘書官の冷たい声が応接室に響きました。
異様な静けさの中で我慢できなくなったのかビビアン様が口を開きました。
「それはまあ⋯⋯傷はあるけど⋯⋯あの子達が転んだりどっかにぶつけたりした跡だし。アタシじゃないもん。
ねえ、あんな子のことで時間を潰すよりさぁ、もっと楽しい時間の使い方があんじゃん! ほら、アタシと⋯⋯」
虐待した覚えもあるでしょうし着替えなどの時に傷が残っているのも見て知っているのでしょう。ビビアン様は話を誤魔化そうとされていたようですが、フォレスト公爵様達の軽蔑するような目を見て言葉に詰まったようです。
その上、ひとりで逃げ出すつもりなのかジリジリと後退りをはじめました。
「お、俺。私も知りません! 怪我とか傷とか見た事もありません」
「埒が開かないようです。閣下いかが致しましょうか」
「マーベル中尉、貴様はまだ我が部隊に籍を置いている筈だが、上長である私の命令は不服か?」
「いえ、その。そのような事はありませんが、これは」
「ではもう一度だけ言おう。子供達をここへ」
このような緊迫した場所に子供達を連れてきたら怯えてしまいます。わたくしは必死でフォレスト公爵様に合図を送りました。
「⋯⋯そこにいる執事に頼むとしよう。子供の世話をしているメイドをここへ。これ以上の譲歩が必要なら私が子供達の元に行くとしよう」
指名されたエマーソンが諦めたように部屋を出たのでわたくしは後を追いかけました。
「エマーソン、わたくしも同行します。そんな顔で子供達の前に出たら怯えてしまいます」
「⋯⋯若奥様のそのご様子では、本当に虐待があったのですね」
「なかったと思うの?」
「⋯⋯マーベル伯爵家は終わりです」
「メイドを呼びに行きましょう。フォレスト公爵閣下をこれ以上お待たせしないほうがいいわ」
階段を急ぎ足で上がり青の間のドアを少し開けてハンナを手招きしました。
おんぶしていたチェイスをケイトに預けてやって来たハンナには予想がついているのかもしれません。
「一緒に応接室に来てくれるかしら」
「はい、私ひとりでいいですか?」
「ええ、大人数が移動したら子供達がますます不安がると思うから」
しっかりと頷いたハンナを連れてエマーソンと3人で応接室に戻りました。
「メイド見習いのハンナと申します。お子様達がこのお屋敷においでになられた日からお世話させていただいております」
深々と頭を下げたあと挨拶をしたハンナはこの緊迫した状況の中でも怯えず、しっかりと背を伸ばしてフォレスト公爵様の目を見つめています。
「雇い主に忖度することなく答えてください。子供達の着替えを手伝ったことはありますか?」
「あります。私の担当はチェイス様ですがグレッグ様とチェイス様のお召替えを手伝ったことがあります」
「傷やあざはありましたか?」
「あります。お腹や背中と足にたくさんの古い傷と叩かれたようなあざがあります」
ハンナの証言の途中でステファン様が顔をハンナに向けて何か言いかけましたが、横からマーベル伯爵に袖を引かれ再び俯いてしまいました。
「それからこの間フォレスト公爵様がお越しになられた日の午前中、ステファン様がグレッグ様の座っている椅子を2回蹴って髪を掴んで頭をぐらぐらさせるのを見ました。
助けようとしたメイドのメイサはお腹を蹴られて吹っ飛んでしまいました!」
「ギルティだな⋯⋯中尉、何か言い訳はあるか?」
「⋯⋯そ、その時は少し⋯⋯でもそれ以外は知らないと言うか」
「子供は家畜と同じで身体で覚えさせるしかないそうだな。顔さえ避ければどこを殴ってもバレない⋯⋯部下の証言なんだが、他にも聞きたいか?」
「⋯⋯」
「この屋敷は危険だと判断して一時保護致します。ハンナ、子供達の荷物をまとめてもらえますか? 最低限必要なもの⋯⋯子供にとって大切なものがあればそれだけで構いません」
「保護ってそんなことされたら俺は⋯⋯」
最後まで自分のことばかり⋯⋯謝罪や反省の言葉もないのはステファン様らしかったです。
「あの⋯⋯お願いがあります!!」
19
お気に入りに追加
2,747
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる