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36.お人好しにも程があります
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「離婚して私と結婚していただけませんか?」
「は?」
「離婚前の女性に結婚を申し込むのはルール違反だと承知した上で提案させていただいています。私ではリリスティア様の夫にはなれませんでしょうか」
思ってもいない提案でした。予想を上回るどころか奇想天外とでも言いましょうか⋯⋯。理由が全く分かりません。確か子供を引き取りたいという話だったはずで⋯⋯。
「前回お会いした時に離婚するつもりだと話しておられたので、結婚して子供達を引き取るというのはどうでしょうか」
わたくしが離婚する予定だとか子供達を引き取りたいとか言っていたので結婚を申し込んだ?
社交界で引く手数多のフォレスト公爵が、親切心でわたくしと子供達を拾おうとしておられるって事でしょうか?
フォレスト公爵は乗りかかった船が泥舟だと気付いても逃げ出せないお人好し⋯⋯情に熱いタイプなのでしょう。このようなことで自己犠牲を発揮されていたら『困ってます』の一言で簡単に利用されてしまいそうですもの。
コナー氏が心配そうにしておられる理由が分かりました。
「役不足だなどとんでもありません。フォレスト公爵閣下はとても魅力的な方ですし、社交界でもご令嬢やご婦人方の注目の的だと聞き及んでおります。
お忙しい中ご迷惑をおかけして申し訳無く思っておりますのに、これ以上ご親切に甘えるわけにはまいりませんわ」
「あ、いや⋯⋯親切とかではなく、その⋯⋯以前夜会でお見かけしたことがありまして、ずっとお会いしたいと思っておりました」
「夜会でございますか」
テンションが最低レベルまで下がるお言葉です。
先程ターニャの事を気に入られたみたいですし、全てがそこそこのわたくしではタイプが全然違います。
それに夜会なんて7年くらい前に一度しか出ておりません⋯⋯ステファン様と同じでどなたかと勘違いされているのでしょう。
「それもあってですね⋯⋯えーっと、離婚されるのであれば結婚して子供達を引き取るというのはどうかと」
「お気遣いいただいたのはとてもありがたく思いますが、結婚している理由がないのと同じくらい離婚しなければならない差し迫った理由もない状態ですから、子供達のことが落ち着くまで現状維持でも構わないくらいですの」
「離婚しなくても良い⋯⋯のですか」
「結婚していたい理由は皆無ですがそれと同じく急いで離婚しなければならない理由があるわけでもないのです。なんというか何もかもがすごく中途半端な感じですの」
伯爵夫妻やアリシア様から嫌味を言われる程度はスルーしておけば問題ありませんし、メイド扱いされていると言っても孤児院でやっていたお手伝いの延長と言う感じです。
「使用人達がとても良い人ばかりなので不満らしい不満を感じていないのもあって、離婚を延期してもやっていけると思っています」
「離婚を延期ですか⋯⋯それなら待てば⋯⋯いや、でも」
5年待てたのですから後数年伸びてもなんとかなるでしょう。運が良いのか悪いのか微妙なところですが子供達の心や身体に傷を負わせそうな人は排除できそうですもの。
「離婚するとステファン様から言われてしまったら仕方ありませんけれど、名前だけの正妻として子供達の養育をしている間には問題解決をできそうですから」
だって、子供達を危険な目に合わせそうな大人は全員排除できそうですものね。
ツカツカと苛立たしげな足音を立ててコナー氏がやって来ました。
「閣下、お話し中申し訳ありませんが、少々お時間をいただけますでしょうか」
「今?」
「はい、今だからこそです!」
「リリスティア様、少し席を外しても?」
「はい、わたくしの事はお気になさらず」
なんだかフォレスト公爵様はコナー氏に迫力負けしているように見えますが何かあったのでしょうか。親切な提案をお断りした辺りから元気がなくなられた気がするので申し訳ない気持ちでいっぱいです。
護衛達が待機しているのとは反対側の部屋の隅で頭を突き合わせるようにして何か話しておられますが、やはりコナー氏優勢に見えます。
コナー氏が一方的に話してフォレスト公爵様が時々口を挟んで⋯⋯不思議な主従です。あまりジロジロ見ないようにしなくては失礼に当たりますね。
ターニャがお茶を淹れ直してくれるようなので楽しみです。
フォレスト公爵様とコナー氏が時々こちらを目をやるのはわたくしの話をしているからなのでしょうか。それともターニャが側にいるから?⋯⋯ターニャのお茶は美味しいです。こっそりフィナンシェをいただきますね。
先程より肩に力が入ったご様子のフォレスト公爵様が戻ってこられました。
「お待たせして申し訳ありません」
「は?」
「離婚前の女性に結婚を申し込むのはルール違反だと承知した上で提案させていただいています。私ではリリスティア様の夫にはなれませんでしょうか」
思ってもいない提案でした。予想を上回るどころか奇想天外とでも言いましょうか⋯⋯。理由が全く分かりません。確か子供を引き取りたいという話だったはずで⋯⋯。
「前回お会いした時に離婚するつもりだと話しておられたので、結婚して子供達を引き取るというのはどうでしょうか」
わたくしが離婚する予定だとか子供達を引き取りたいとか言っていたので結婚を申し込んだ?
社交界で引く手数多のフォレスト公爵が、親切心でわたくしと子供達を拾おうとしておられるって事でしょうか?
フォレスト公爵は乗りかかった船が泥舟だと気付いても逃げ出せないお人好し⋯⋯情に熱いタイプなのでしょう。このようなことで自己犠牲を発揮されていたら『困ってます』の一言で簡単に利用されてしまいそうですもの。
コナー氏が心配そうにしておられる理由が分かりました。
「役不足だなどとんでもありません。フォレスト公爵閣下はとても魅力的な方ですし、社交界でもご令嬢やご婦人方の注目の的だと聞き及んでおります。
お忙しい中ご迷惑をおかけして申し訳無く思っておりますのに、これ以上ご親切に甘えるわけにはまいりませんわ」
「あ、いや⋯⋯親切とかではなく、その⋯⋯以前夜会でお見かけしたことがありまして、ずっとお会いしたいと思っておりました」
「夜会でございますか」
テンションが最低レベルまで下がるお言葉です。
先程ターニャの事を気に入られたみたいですし、全てがそこそこのわたくしではタイプが全然違います。
それに夜会なんて7年くらい前に一度しか出ておりません⋯⋯ステファン様と同じでどなたかと勘違いされているのでしょう。
「それもあってですね⋯⋯えーっと、離婚されるのであれば結婚して子供達を引き取るというのはどうかと」
「お気遣いいただいたのはとてもありがたく思いますが、結婚している理由がないのと同じくらい離婚しなければならない差し迫った理由もない状態ですから、子供達のことが落ち着くまで現状維持でも構わないくらいですの」
「離婚しなくても良い⋯⋯のですか」
「結婚していたい理由は皆無ですがそれと同じく急いで離婚しなければならない理由があるわけでもないのです。なんというか何もかもがすごく中途半端な感じですの」
伯爵夫妻やアリシア様から嫌味を言われる程度はスルーしておけば問題ありませんし、メイド扱いされていると言っても孤児院でやっていたお手伝いの延長と言う感じです。
「使用人達がとても良い人ばかりなので不満らしい不満を感じていないのもあって、離婚を延期してもやっていけると思っています」
「離婚を延期ですか⋯⋯それなら待てば⋯⋯いや、でも」
5年待てたのですから後数年伸びてもなんとかなるでしょう。運が良いのか悪いのか微妙なところですが子供達の心や身体に傷を負わせそうな人は排除できそうですもの。
「離婚するとステファン様から言われてしまったら仕方ありませんけれど、名前だけの正妻として子供達の養育をしている間には問題解決をできそうですから」
だって、子供達を危険な目に合わせそうな大人は全員排除できそうですものね。
ツカツカと苛立たしげな足音を立ててコナー氏がやって来ました。
「閣下、お話し中申し訳ありませんが、少々お時間をいただけますでしょうか」
「今?」
「はい、今だからこそです!」
「リリスティア様、少し席を外しても?」
「はい、わたくしの事はお気になさらず」
なんだかフォレスト公爵様はコナー氏に迫力負けしているように見えますが何かあったのでしょうか。親切な提案をお断りした辺りから元気がなくなられた気がするので申し訳ない気持ちでいっぱいです。
護衛達が待機しているのとは反対側の部屋の隅で頭を突き合わせるようにして何か話しておられますが、やはりコナー氏優勢に見えます。
コナー氏が一方的に話してフォレスト公爵様が時々口を挟んで⋯⋯不思議な主従です。あまりジロジロ見ないようにしなくては失礼に当たりますね。
ターニャがお茶を淹れ直してくれるようなので楽しみです。
フォレスト公爵様とコナー氏が時々こちらを目をやるのはわたくしの話をしているからなのでしょうか。それともターニャが側にいるから?⋯⋯ターニャのお茶は美味しいです。こっそりフィナンシェをいただきますね。
先程より肩に力が入ったご様子のフォレスト公爵様が戻ってこられました。
「お待たせして申し訳ありません」
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