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28.覚悟を決める時
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「うーん、今日は特別サービス。わたくしのお膝でご飯を食べる?」
こっくりと頷いたグレッグを横抱きにして椅子に座りました。グレッグ用の料理を側に寄せてもらいスープをひと匙口元に運びます。
「さあ、グレッグのお口はどこかしら? はい、あーん」
ご飯を食べさせてもらった記憶はなさそうですが、わたくしが大きな口を開けるとグレッグの口も開きました。
「美味しい?」
「ん」
漸く小さな声が聞こえました。そのまま少しずつ口に運ぶとゆっくりとですがそれなりの量を食べてくれた気がします。
クロワッサンはかなり気に入ってくれたようです。見たことのない形に首を傾げながら手についた生地に悩み、クンクンと匂いを嗅いで⋯⋯。食べはじめると美味しかったのでしょう、自分でクロワッサンに手を伸ばしていました。
「明日の朝はクロワッサンにハムやチーズを挟んでもらおうかしら。グレッグはどう思う?」
「ハム?」
「ええ、グレッグはハムは好き?」
「わかんない」
「じゃあ試してみなくちゃね」
「うん」
グレッグの顔を拭いているとこっくりこっくりと居眠りをはじめました。チェイスは既に着替えも済ませて夢の中です。
メイサにグレッグを運んでもらいターニャを連れて自室に戻りました。一脚だけある椅子に座って疲れ果てた腕を揉みほぐします。
「様子を見に行かなくて良いんですか?」
「ええ、あれ以上聞く価値もないわ。伯爵夫妻とステファン様の言い訳と罪のなすりつけあいなんてうんざりですもの」
パーティーの片付けを手伝う元気はありませんが寝るのには早過ぎます。ターニャが淹れてくれた紅茶でひと息つきましょう。
ケニス先生用の苦いお茶ではなく美味しいお茶に心もほっこりです。
ターニャの苦いお茶はケニス先生専用⋯⋯ターニャとケニス先生は間違いなく両思いなのですが中々進展しないのです。何か前に進むきっかけがあればいいのですけれど。
「それにしてもグレッグ様達をリリスティア様の実子として届けるなんて頭悪すぎですね」
「あれでバレないと思ったのかしら。偽造した書類が見つからなくても同じ部隊の方達はみんな知っているのに、社交界で会った時になんで言い訳するつもりだったのか」
せめて養子縁組にしてあれば少しはマシだったでしょうにと思わずにいられません。
「あ!」
いい事を思いつきました。
「リリスティア様、またおかしな事を思いついてます?」
「今現在、法律上は2人の子持ちなんだなぁって感動しているところなの」
「⋯⋯そこはへこむとこだと思いますよ」
夜着の支度をしていたターニャが手を止めて大袈裟に溜息をついた。
「ねえ、わたくしの子供なら離婚する時連れて行っても問題ないんじゃないかしら」
「リリスティア様、ポジティブを超えて危険ゾーンに入ってます。偽造だってバレてますから無理です」
「そうなのよね。でもほら、それを逆手にとれば毒親から引き離せそうじゃない?」
伯爵夫妻は平民の子は嫌だと言いステファン様は孤児院に入れる気満々でした。ビビアン様も虐待するくらいですから引き取りたいと言えば文句は出ないかもしれません。
お金を請求されそうですけれど虐待の証拠を出せば⋯⋯。
「至急相談したいことがあるのでお時間を下さいって、フォレスト公爵様に声をかけてきてくれない? マーベル一家には内緒でお会いしたいの」
「いいですけど⋯⋯リリスティア様が無茶をしないと約束してくださるならって条件付きです」
「あら、わたくしは無茶なんてした事ないわよ?」
「最近は⋯⋯ってつけてください」
ターニャが出て行った部屋で今日の出来事を日記を認めます。昨日と今日の情報量の多さに自分でも驚いてしまいました。
いつもよりかなり早い時間にベッドに入りました。フォレスト公爵様とは明日の午後お会いすることになったのでしっかり身体を休めておきたいと思うのですが頭が冴えてしまい中々寝付けずにおりましたが、真夜中を過ぎた頃ドアをノックする音がして飛び起きました。
「誰?」
「ハンナです」
大変! 子供達だわ!!
ベッドから飛び出してガウンを着ながら部屋を飛び出しました。
「夜分に申し訳ありません。グレッグ様が泣いて⋯⋯若奥様を呼んでおられて」
「教えてくれてありがとう」
小走りで青の間に向かうとドアの外からでも泣き声が聞こえてきます。これはチェイスのような気がします。
「ハンナはチェイスをお願いね」
ベッドに近付くとグレッグが布団の中で丸くなっています。ぐすぐすと鼻を鳴らす音の合間に『リィ、リィ』と言う声が聞こえてきました。
「呼んでくれてありがとう」
ピタッと動きが止まったお布団団子の上からトントンと軽く叩きながら声をかけました。
チェイスはハンナに抱かれて寝はじめたようですが時折しゃくりあげるような音を立てていました。
「もし良かったらわたくしもお布団に入れてくれるかしら?」
返事はありませんでしたが布団の端が少しだけ持ち上がったのでモゾモゾと中に潜り込み、ホカホカのグレッグをしっかりと抱え込みました。
「グレッグは凄くあったかくて気持ちいいわ。このまま抱っこしていても良い?」
「ん⋯⋯しゅち」
「わたくしもグレッグが大好き。側にいるからもう大丈夫」
明日の予定が決まりました。
こっくりと頷いたグレッグを横抱きにして椅子に座りました。グレッグ用の料理を側に寄せてもらいスープをひと匙口元に運びます。
「さあ、グレッグのお口はどこかしら? はい、あーん」
ご飯を食べさせてもらった記憶はなさそうですが、わたくしが大きな口を開けるとグレッグの口も開きました。
「美味しい?」
「ん」
漸く小さな声が聞こえました。そのまま少しずつ口に運ぶとゆっくりとですがそれなりの量を食べてくれた気がします。
クロワッサンはかなり気に入ってくれたようです。見たことのない形に首を傾げながら手についた生地に悩み、クンクンと匂いを嗅いで⋯⋯。食べはじめると美味しかったのでしょう、自分でクロワッサンに手を伸ばしていました。
「明日の朝はクロワッサンにハムやチーズを挟んでもらおうかしら。グレッグはどう思う?」
「ハム?」
「ええ、グレッグはハムは好き?」
「わかんない」
「じゃあ試してみなくちゃね」
「うん」
グレッグの顔を拭いているとこっくりこっくりと居眠りをはじめました。チェイスは既に着替えも済ませて夢の中です。
メイサにグレッグを運んでもらいターニャを連れて自室に戻りました。一脚だけある椅子に座って疲れ果てた腕を揉みほぐします。
「様子を見に行かなくて良いんですか?」
「ええ、あれ以上聞く価値もないわ。伯爵夫妻とステファン様の言い訳と罪のなすりつけあいなんてうんざりですもの」
パーティーの片付けを手伝う元気はありませんが寝るのには早過ぎます。ターニャが淹れてくれた紅茶でひと息つきましょう。
ケニス先生用の苦いお茶ではなく美味しいお茶に心もほっこりです。
ターニャの苦いお茶はケニス先生専用⋯⋯ターニャとケニス先生は間違いなく両思いなのですが中々進展しないのです。何か前に進むきっかけがあればいいのですけれど。
「それにしてもグレッグ様達をリリスティア様の実子として届けるなんて頭悪すぎですね」
「あれでバレないと思ったのかしら。偽造した書類が見つからなくても同じ部隊の方達はみんな知っているのに、社交界で会った時になんで言い訳するつもりだったのか」
せめて養子縁組にしてあれば少しはマシだったでしょうにと思わずにいられません。
「あ!」
いい事を思いつきました。
「リリスティア様、またおかしな事を思いついてます?」
「今現在、法律上は2人の子持ちなんだなぁって感動しているところなの」
「⋯⋯そこはへこむとこだと思いますよ」
夜着の支度をしていたターニャが手を止めて大袈裟に溜息をついた。
「ねえ、わたくしの子供なら離婚する時連れて行っても問題ないんじゃないかしら」
「リリスティア様、ポジティブを超えて危険ゾーンに入ってます。偽造だってバレてますから無理です」
「そうなのよね。でもほら、それを逆手にとれば毒親から引き離せそうじゃない?」
伯爵夫妻は平民の子は嫌だと言いステファン様は孤児院に入れる気満々でした。ビビアン様も虐待するくらいですから引き取りたいと言えば文句は出ないかもしれません。
お金を請求されそうですけれど虐待の証拠を出せば⋯⋯。
「至急相談したいことがあるのでお時間を下さいって、フォレスト公爵様に声をかけてきてくれない? マーベル一家には内緒でお会いしたいの」
「いいですけど⋯⋯リリスティア様が無茶をしないと約束してくださるならって条件付きです」
「あら、わたくしは無茶なんてした事ないわよ?」
「最近は⋯⋯ってつけてください」
ターニャが出て行った部屋で今日の出来事を日記を認めます。昨日と今日の情報量の多さに自分でも驚いてしまいました。
いつもよりかなり早い時間にベッドに入りました。フォレスト公爵様とは明日の午後お会いすることになったのでしっかり身体を休めておきたいと思うのですが頭が冴えてしまい中々寝付けずにおりましたが、真夜中を過ぎた頃ドアをノックする音がして飛び起きました。
「誰?」
「ハンナです」
大変! 子供達だわ!!
ベッドから飛び出してガウンを着ながら部屋を飛び出しました。
「夜分に申し訳ありません。グレッグ様が泣いて⋯⋯若奥様を呼んでおられて」
「教えてくれてありがとう」
小走りで青の間に向かうとドアの外からでも泣き声が聞こえてきます。これはチェイスのような気がします。
「ハンナはチェイスをお願いね」
ベッドに近付くとグレッグが布団の中で丸くなっています。ぐすぐすと鼻を鳴らす音の合間に『リィ、リィ』と言う声が聞こえてきました。
「呼んでくれてありがとう」
ピタッと動きが止まったお布団団子の上からトントンと軽く叩きながら声をかけました。
チェイスはハンナに抱かれて寝はじめたようですが時折しゃくりあげるような音を立てていました。
「もし良かったらわたくしもお布団に入れてくれるかしら?」
返事はありませんでしたが布団の端が少しだけ持ち上がったのでモゾモゾと中に潜り込み、ホカホカのグレッグをしっかりと抱え込みました。
「グレッグは凄くあったかくて気持ちいいわ。このまま抱っこしていても良い?」
「ん⋯⋯しゅち」
「わたくしもグレッグが大好き。側にいるからもう大丈夫」
明日の予定が決まりました。
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