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15.伯爵家のためじゃありません
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「伯爵夫妻が望んでおられるように『大勢の前でフォルスト公爵様への挨拶』をグレッグにさせようとしたら醜聞になる可能性があると思うの。グレッグがパニックになって癇癪を起こすかもしれないし、礼儀がなってないと笑われるかも」
「⋯⋯口を開かず頭を下げるだけであれば。人見知りのひどい子だとお伝えすればご理解いただけるかもしれません。
緊張しないよう誰かに抱えてもらっておくのも良いでしょう。年齢的に許されるのではないかと」
「王家の血を引く方の前に庶子を連れ出してお咎めはなく済むのかしら?」
「⋯⋯」
「ステファン様のお話し通りならグレッグ達が庶子だと言うことくらいご存知なのでは?」
「⋯⋯」
「フォルスト公爵様がどのような方なのかわたくしは知りません。大勢の前でわざわざ庶子に挨拶をされて不敬だと言われる方なのか、パーティーの余興のようなものだと寛大な心で見逃してくださる方なのか。
いずれにせよマーベル伯爵家は貴族のルールを無視する礼儀知らずだと思われてしまうのではないかしら」
「⋯⋯わたくしの命に替えてもお許しを頂くつもりでおります」
エマーソンの額に汗が滲み目を硬く瞑ってしまいました。膝に置いた手が少し震えているように見えます。
「エマーソンに提案がありますの。フォルスト公爵様へのご挨拶を別室とか⋯⋯個別で行うよう伯爵夫妻を説得してはどうかしら?」
「⋯⋯それにはどう言う意図があるのでしょうか?」
「戦争から無事に帰還することができ愛する子供達と一緒に暮らすことができるようになったのはフォルスト公爵様のお陰だと感謝をお伝えするの。
表舞台には出せない庶子だけれどお礼をお伝えしたいので無礼を承知で連れてきたと言えば⋯⋯余程の堅物でなければお許しくださるのではないかしら?
周りの詮索する目がなければお許しくださる可能性は高くなるでしょうし、不快になられても平身低頭謝るのも容易いでしょう?
伯爵夫妻の狙い通りではないけれどフォルスト公爵様とグレッグ達の面識は一応できるのだし、マーベル伯爵家の名に傷をつけずに済むわ」
「確かに⋯⋯それであればなんとか」
「別室が一番だけれど、せめて大勢の前ではなく人目につきにくい庭の隅でお声をかけさせてもらうようにしようって伯爵夫妻を説得してもらいたいの。わたくしの言葉は伯爵夫妻には届かないけれどエマーソンなら出来るんじゃないかしら」
「若奥様⋯⋯マーベル伯爵家の為にありがとうございます。若奥様の仰る方法であれば被害は最小限で済むと思います」
エマーソンは膝につきそうなほど頭を下げました。マーベル伯爵家を守りたいエマーソンならなんとしてでも伯爵夫妻を説得してくれると信じましょう。
「若奥様がこれ程マーベル伯爵家のことを考えてくださるとは思いませんでした。ステファン様がビビアン様をお連れになられ子まで成しておられて⋯⋯伯爵家には見切りをつけてしまわれたと」
「あら、わたくしはマーベル伯爵家の為を思って考えたのではなくて、グレッグ達の為に考えましたの。
グレッグ達の幸せがたまたまマーベル伯爵家に関係していただけです。エマーソンとは前提条件が違ってますのよ」
「しかし、若奥様はマーベル伯爵家の次期当主の正妻ではありませんか!?」
「わたくしが次期当主の正妻として扱われていると本気で思ってますの?」
「いや、しかし⋯⋯ステファン様も無事にお戻りになられましたし、これからは少しずつ良い方に変わっていくと」
エマーソンは執事として尊敬しておりましたが、人としては⋯⋯あまり関わらない方が良さそうです。今までの状況と現在の状況を知っていながら『良い方に変わっていく』と言う台詞を堂々と言えるのは噴飯物ですわ。
「ステファン様はわたくしの名前さえ覚えておられませんのに?」
「え? まさか、そのような事は! 流石にそれはあり得ません」
「では是非ステファン様に聞いてみてくださいませ。今の所リリアーナとリリアンが候補のようですわ」
「そんなまさか!」
リリアーナと呼ばれた時はエマーソンも近くにいたのですが気付いていなかったようです。ステファン様だけでなくエマーソンも覚えていないとか⋯⋯それはないと思いたいです。
「婚約の申し込みも多分人違いだと思っておりますしね」
「⋯⋯はあぁ!?」
バタンと大きな音を立てて立ち上がったエマーソンが叫びました。
「い、痛え!!」
脛をテーブルにぶつけたみたいです。
「⋯⋯口を開かず頭を下げるだけであれば。人見知りのひどい子だとお伝えすればご理解いただけるかもしれません。
緊張しないよう誰かに抱えてもらっておくのも良いでしょう。年齢的に許されるのではないかと」
「王家の血を引く方の前に庶子を連れ出してお咎めはなく済むのかしら?」
「⋯⋯」
「ステファン様のお話し通りならグレッグ達が庶子だと言うことくらいご存知なのでは?」
「⋯⋯」
「フォルスト公爵様がどのような方なのかわたくしは知りません。大勢の前でわざわざ庶子に挨拶をされて不敬だと言われる方なのか、パーティーの余興のようなものだと寛大な心で見逃してくださる方なのか。
いずれにせよマーベル伯爵家は貴族のルールを無視する礼儀知らずだと思われてしまうのではないかしら」
「⋯⋯わたくしの命に替えてもお許しを頂くつもりでおります」
エマーソンの額に汗が滲み目を硬く瞑ってしまいました。膝に置いた手が少し震えているように見えます。
「エマーソンに提案がありますの。フォルスト公爵様へのご挨拶を別室とか⋯⋯個別で行うよう伯爵夫妻を説得してはどうかしら?」
「⋯⋯それにはどう言う意図があるのでしょうか?」
「戦争から無事に帰還することができ愛する子供達と一緒に暮らすことができるようになったのはフォルスト公爵様のお陰だと感謝をお伝えするの。
表舞台には出せない庶子だけれどお礼をお伝えしたいので無礼を承知で連れてきたと言えば⋯⋯余程の堅物でなければお許しくださるのではないかしら?
周りの詮索する目がなければお許しくださる可能性は高くなるでしょうし、不快になられても平身低頭謝るのも容易いでしょう?
伯爵夫妻の狙い通りではないけれどフォルスト公爵様とグレッグ達の面識は一応できるのだし、マーベル伯爵家の名に傷をつけずに済むわ」
「確かに⋯⋯それであればなんとか」
「別室が一番だけれど、せめて大勢の前ではなく人目につきにくい庭の隅でお声をかけさせてもらうようにしようって伯爵夫妻を説得してもらいたいの。わたくしの言葉は伯爵夫妻には届かないけれどエマーソンなら出来るんじゃないかしら」
「若奥様⋯⋯マーベル伯爵家の為にありがとうございます。若奥様の仰る方法であれば被害は最小限で済むと思います」
エマーソンは膝につきそうなほど頭を下げました。マーベル伯爵家を守りたいエマーソンならなんとしてでも伯爵夫妻を説得してくれると信じましょう。
「若奥様がこれ程マーベル伯爵家のことを考えてくださるとは思いませんでした。ステファン様がビビアン様をお連れになられ子まで成しておられて⋯⋯伯爵家には見切りをつけてしまわれたと」
「あら、わたくしはマーベル伯爵家の為を思って考えたのではなくて、グレッグ達の為に考えましたの。
グレッグ達の幸せがたまたまマーベル伯爵家に関係していただけです。エマーソンとは前提条件が違ってますのよ」
「しかし、若奥様はマーベル伯爵家の次期当主の正妻ではありませんか!?」
「わたくしが次期当主の正妻として扱われていると本気で思ってますの?」
「いや、しかし⋯⋯ステファン様も無事にお戻りになられましたし、これからは少しずつ良い方に変わっていくと」
エマーソンは執事として尊敬しておりましたが、人としては⋯⋯あまり関わらない方が良さそうです。今までの状況と現在の状況を知っていながら『良い方に変わっていく』と言う台詞を堂々と言えるのは噴飯物ですわ。
「ステファン様はわたくしの名前さえ覚えておられませんのに?」
「え? まさか、そのような事は! 流石にそれはあり得ません」
「では是非ステファン様に聞いてみてくださいませ。今の所リリアーナとリリアンが候補のようですわ」
「そんなまさか!」
リリアーナと呼ばれた時はエマーソンも近くにいたのですが気付いていなかったようです。ステファン様だけでなくエマーソンも覚えていないとか⋯⋯それはないと思いたいです。
「婚約の申し込みも多分人違いだと思っておりますしね」
「⋯⋯はあぁ!?」
バタンと大きな音を立てて立ち上がったエマーソンが叫びました。
「い、痛え!!」
脛をテーブルにぶつけたみたいです。
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