9 / 99
9.子供達の行く末とわたくしの立場の脆さ
しおりを挟む
スプーンやフォークの使い方を教えるのは簡単ですがずっとメイドとわたくし達だけで囲い込んでおくわけにはいきません。
お義母様は直ぐに家庭教師をつけて一年で伯爵家に相応しい子供にするつもりでおられますからかなりのスパルタになると思われます。
わたくしの感じたところではグレッグは周りの反応にひどく敏感ですし、感情のコントロールができません。地頭は良い気がしているので環境が整っていれば礼儀作法も勉強もすんなりと覚えそうですがお義母様の選んだ家庭教師がそれを理解してくれるかどうか⋯⋯。
わたくしの子供ではないので何の権限もありませんし、この家でのわたくしの立ち位置は酷く曖昧です。
執事やメイド長よりも立場が弱く『若奥様』と言う名の使用人に近いのです。今までは対外的には『不出来な嫁』扱いでしたがビビアン様が『家族から望まれている嫁』になるでしょうから今後は『不要な嫁』に格下げになると予想しています。
離婚したいわたくしにはチャンスなのですが『不要な嫁』ではグレッグの事について口を挟む事ができません。だからと言って『望まれている嫁』の地位をもぎ取りたいとも思いませんが。
婚約してあっという間の婚姻。
結婚式でステファン様にお会いしたのは顔合わせから数えて5回目でした。今までに花一輪いただいたことはなく、戦地へ送った手紙へのお返事もお送りした誕生日プレゼントへのお礼の手紙もありませんでした。
休暇に帰ってこられたことはなく、こちらから出向くのはお義母様経由で断られ⋯⋯。
5年ぶりにお会いしたと思えば第二夫人候補の愛人と2人の子供を連れておられ、それについての説明もありませんでした。
わたくしの名前さえ覚えておられないようですから、どれ程グレッグが心配でも離婚確定です。
使用人達が優しくなければお義母様達の言動でとっくに心が折れていたと思いますもの。
そんな状況ですがこのままグレッグを突き放すのも心が痛みます。こんな事ならステファン様が帰ってこられる前に離婚手続きをするべきだったと内心溜め息をついてしまいました。
食事が終わる頃に目を覚ましたチェイスにもご飯を食べさせ終わった頃、義妹アリシア様の指示だと言って青の間に来たのはアリシア様専属侍女のベスでした。
子爵家の三女のベスは王宮侍女の登用試験に落ちこの伯爵家に来たのですが、ここを足掛かりにより高位の貴族に仕えたいと公言している上昇志向の強い女性です。
優しく気遣う義妹を演出するためなのか子供達の現状を確認するためなのかわかりませんが人手が足りない今は猫の手でも助かると思っていました。
「ベスはアリシア様のお気に入りの侍女ですので明日以降は別の者が担当します」
「ハンナと気の合う人をお願いできるかしら。グレッグは周りの人の感情に敏感な気がするから」
「畏まりました。では」
忙しいメイド長が退出しグレッグ達2人を風呂に入れるよう指示をして料理長に会いに行くことにしましたが、風呂場から金切り声が聞こえてきました。
「きゃー!! なにすんのよ!!」
慌ててお風呂場を覗くと床に尻餅をついたベスが隅に蹲ったグレッグに罵声を浴びせていました。
「怪我はない? 何があったのか教えてくれるかしら」
「こ、この! 突き飛ばされたんです。服を脱がそうとしただけなのに⋯⋯平民のくせに⋯⋯汚くて臭い服を脱ぐように言ったら」
真っ赤な顔でグレッグを指差して睨みつけるベスと頭を抱えて蹲るグレッグの横には怯えてハンナにしがみついているチェイスの姿がありました。
「ベス、濡れた服を着替えていらっしゃい。グレッグは初めての場所で驚いたんだと思うわ」
「謝んなさい! 平民の癖に子爵家令嬢の私を突き飛ばすなんて、不敬罪で牢に入れてやるわ!!」
「黙りなさい! 身分を盾にするならグレッグはステファン様の実子。つまりマーベル伯爵家の子供だとわかって言ってるんでしょうね。ステファン様だけでなくお義母様とお義父様も認めておられると知らないわけではないでしょう!?」
「で、でも母親は⋯⋯」
「ええ、ビビアン様は平民だわ。でも伯爵家の第二夫人になられると聞いているの。アリシア様も賛成しておられたわ。そうなるとグレッグ達はマーベル伯爵家と養子縁組する可能性もあるんじゃないかしら」
わたくしの正論に何も言えなくなったベスがわたくしを睨みつけて立ち上がりました。
ベスの迫力にちょっと腰が引けたのは内緒です。
お義母様は直ぐに家庭教師をつけて一年で伯爵家に相応しい子供にするつもりでおられますからかなりのスパルタになると思われます。
わたくしの感じたところではグレッグは周りの反応にひどく敏感ですし、感情のコントロールができません。地頭は良い気がしているので環境が整っていれば礼儀作法も勉強もすんなりと覚えそうですがお義母様の選んだ家庭教師がそれを理解してくれるかどうか⋯⋯。
わたくしの子供ではないので何の権限もありませんし、この家でのわたくしの立ち位置は酷く曖昧です。
執事やメイド長よりも立場が弱く『若奥様』と言う名の使用人に近いのです。今までは対外的には『不出来な嫁』扱いでしたがビビアン様が『家族から望まれている嫁』になるでしょうから今後は『不要な嫁』に格下げになると予想しています。
離婚したいわたくしにはチャンスなのですが『不要な嫁』ではグレッグの事について口を挟む事ができません。だからと言って『望まれている嫁』の地位をもぎ取りたいとも思いませんが。
婚約してあっという間の婚姻。
結婚式でステファン様にお会いしたのは顔合わせから数えて5回目でした。今までに花一輪いただいたことはなく、戦地へ送った手紙へのお返事もお送りした誕生日プレゼントへのお礼の手紙もありませんでした。
休暇に帰ってこられたことはなく、こちらから出向くのはお義母様経由で断られ⋯⋯。
5年ぶりにお会いしたと思えば第二夫人候補の愛人と2人の子供を連れておられ、それについての説明もありませんでした。
わたくしの名前さえ覚えておられないようですから、どれ程グレッグが心配でも離婚確定です。
使用人達が優しくなければお義母様達の言動でとっくに心が折れていたと思いますもの。
そんな状況ですがこのままグレッグを突き放すのも心が痛みます。こんな事ならステファン様が帰ってこられる前に離婚手続きをするべきだったと内心溜め息をついてしまいました。
食事が終わる頃に目を覚ましたチェイスにもご飯を食べさせ終わった頃、義妹アリシア様の指示だと言って青の間に来たのはアリシア様専属侍女のベスでした。
子爵家の三女のベスは王宮侍女の登用試験に落ちこの伯爵家に来たのですが、ここを足掛かりにより高位の貴族に仕えたいと公言している上昇志向の強い女性です。
優しく気遣う義妹を演出するためなのか子供達の現状を確認するためなのかわかりませんが人手が足りない今は猫の手でも助かると思っていました。
「ベスはアリシア様のお気に入りの侍女ですので明日以降は別の者が担当します」
「ハンナと気の合う人をお願いできるかしら。グレッグは周りの人の感情に敏感な気がするから」
「畏まりました。では」
忙しいメイド長が退出しグレッグ達2人を風呂に入れるよう指示をして料理長に会いに行くことにしましたが、風呂場から金切り声が聞こえてきました。
「きゃー!! なにすんのよ!!」
慌ててお風呂場を覗くと床に尻餅をついたベスが隅に蹲ったグレッグに罵声を浴びせていました。
「怪我はない? 何があったのか教えてくれるかしら」
「こ、この! 突き飛ばされたんです。服を脱がそうとしただけなのに⋯⋯平民のくせに⋯⋯汚くて臭い服を脱ぐように言ったら」
真っ赤な顔でグレッグを指差して睨みつけるベスと頭を抱えて蹲るグレッグの横には怯えてハンナにしがみついているチェイスの姿がありました。
「ベス、濡れた服を着替えていらっしゃい。グレッグは初めての場所で驚いたんだと思うわ」
「謝んなさい! 平民の癖に子爵家令嬢の私を突き飛ばすなんて、不敬罪で牢に入れてやるわ!!」
「黙りなさい! 身分を盾にするならグレッグはステファン様の実子。つまりマーベル伯爵家の子供だとわかって言ってるんでしょうね。ステファン様だけでなくお義母様とお義父様も認めておられると知らないわけではないでしょう!?」
「で、でも母親は⋯⋯」
「ええ、ビビアン様は平民だわ。でも伯爵家の第二夫人になられると聞いているの。アリシア様も賛成しておられたわ。そうなるとグレッグ達はマーベル伯爵家と養子縁組する可能性もあるんじゃないかしら」
わたくしの正論に何も言えなくなったベスがわたくしを睨みつけて立ち上がりました。
ベスの迫力にちょっと腰が引けたのは内緒です。
12
お気に入りに追加
2,747
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる