【完結】子供を抱いて帰って来た夫が満面の笑みを浮かべてます

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9.子供達の行く末とわたくしの立場の脆さ

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 スプーンやフォークの使い方を教えるのは簡単ですがずっとメイドとわたくし達だけで囲い込んでおくわけにはいきません。

 お義母様は直ぐに家庭教師をつけて一年で伯爵家に相応しい子供にするつもりでおられますからかなりのスパルタになると思われます。

 わたくしの感じたところではグレッグは周りの反応にひどく敏感ですし、感情のコントロールができません。地頭は良い気がしているので環境が整っていれば礼儀作法も勉強もすんなりと覚えそうですがお義母様の選んだ家庭教師がそれを理解してくれるかどうか⋯⋯。

 わたくしの子供ではないので何の権限もありませんし、この家でのわたくしの立ち位置は酷く曖昧です。

 執事やメイド長よりも立場が弱く『若奥様』と言う名の使用人に近いのです。今までは対外的には『不出来な嫁』扱いでしたがビビアン様が『家族から望まれている嫁』になるでしょうから今後は『不要な嫁』に格下げになると予想しています。

 離婚したいわたくしにはチャンスなのですが『不要な嫁』ではグレッグの事について口を挟む事ができません。だからと言って『望まれている嫁』の地位をもぎ取りたいとも思いませんが。

 婚約してあっという間の婚姻。

 結婚式でステファン様にお会いしたのは顔合わせから数えて5回目でした。今までに花一輪いただいたことはなく、戦地へ送った手紙へのお返事もお送りした誕生日プレゼントへのお礼の手紙もありませんでした。

 休暇に帰ってこられたことはなく、こちらから出向くのはお義母様経由で断られ⋯⋯。

 5年ぶりにお会いしたと思えば第二夫人候補の愛人と2人の子供を連れておられ、それについての説明もありませんでした。

 わたくしの名前さえ覚えておられないようですから、どれ程グレッグが心配でも離婚確定です。

 使用人達が優しくなければお義母様達の言動でとっくに心が折れていたと思いますもの。

 そんな状況ですがこのままグレッグを突き放すのも心が痛みます。こんな事ならステファン様が帰ってこられる前に離婚手続きをするべきだったと内心溜め息をついてしまいました。



 食事が終わる頃に目を覚ましたチェイスにもご飯を食べさせ終わった頃、義妹アリシア様の指示だと言って青の間に来たのはアリシア様専属侍女のベスでした。

 子爵家の三女のベスは王宮侍女の登用試験に落ちこの伯爵家に来たのですが、ここを足掛かりにより高位の貴族に仕えたいと公言している上昇志向の強い女性です。

 優しく気遣う義妹を演出するためなのか子供達の現状を確認するためなのかわかりませんが人手が足りない今は猫の手でも助かると思っていました。

「ベスはアリシア様のお気に入りの侍女ですので明日以降は別の者が担当します」

「ハンナと気の合う人をお願いできるかしら。グレッグは周りの人の感情に敏感な気がするから」

「畏まりました。では」



 忙しいメイド長が退出しグレッグ達2人を風呂に入れるよう指示をして料理長に会いに行くことにしましたが、風呂場から金切り声が聞こえてきました。

「きゃー!! なにすんのよ!!」

 慌ててお風呂場を覗くと床に尻餅をついたベスが隅に蹲ったグレッグに罵声を浴びせていました。

「怪我はない? 何があったのか教えてくれるかしら」

「こ、この! 突き飛ばされたんです。服を脱がそうとしただけなのに⋯⋯平民のくせに⋯⋯汚くて臭い服を脱ぐように言ったら」

 真っ赤な顔でグレッグを指差して睨みつけるベスと頭を抱えて蹲るグレッグの横には怯えてハンナにしがみついているチェイスの姿がありました。

「ベス、濡れた服を着替えていらっしゃい。グレッグは初めての場所で驚いたんだと思うわ」

「謝んなさい! 平民の癖に子爵家令嬢の私を突き飛ばすなんて、不敬罪で牢に入れてやるわ!!」

「黙りなさい! 身分を盾にするならグレッグはステファン様の実子。つまりマーベル伯爵家の子供だとわかって言ってるんでしょうね。ステファン様だけでなくお義母様とお義父様も認めておられると知らないわけではないでしょう!?」

「で、でも母親は⋯⋯」

「ええ、ビビアン様は平民だわ。でも伯爵家の第二夫人になられると聞いているの。アリシア様も賛成しておられたわ。そうなるとグレッグ達はマーベル伯爵家と養子縁組する可能性もあるんじゃないかしら」

 わたくしの正論に何も言えなくなったベスがわたくしを睨みつけて立ち上がりました。

 ベスの迫力にちょっと腰が引けたのは内緒です。

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