【完結】子供を抱いて帰って来た夫が満面の笑みを浮かべてます

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7.ハイスペックな使用人達に助けられて

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「若奥様、イシスです」

 イシスはこの屋敷のメイド長です。子爵家からついてきてくれたターニャ程ではありませんがかなり信用のおける人物です。ノックの音と人の声に青褪めたグレッグの背中に手を当てて返事をします。

「どうぞ」

 そっとドアが開き顔を覗かせたイシスでしたが、落ち着いた様子のグレッグを見て口元に笑みを浮かべて部屋に入ってきました。

 イシスも子供の癇癪には慣れていないようなのでそこは早急に説明しておかなくては⋯⋯。執事と同様にイシスを味方につけられたら今後のグレッグ達は心配ないでしょうから。

「グレッグ様達のお食事はどちらにお持ちすればよろしいでしょうか」

「ビビアン様とは別のお部屋にしましょう。今夜はわたくしも側について世話をするので小さな子供に慣れたメイドを2人呼んでくれるかしら」

「⋯⋯では青の間ではいかがでしょうか?」

 青の間はこの部屋から一番近い客室ですから、メイド長はグレッグ達をわたくしに丸投げする気満々のようです。

「そうね、グレッグ達と青の間にいます。チェイスは起きそうにないからグレッグとわたくしだけ先にいただきましょう」

「若奥様は食堂に行かなくてよろしいのですか?」

 食堂ではマーベル一家が美味しい料理に舌鼓を打っているでしょうがわたくしの居場所にはビビアン様がいるはず。

 笑顔でこき下ろすお義母様達の口撃を受けるよりグレッグ達のお世話の方が有益ですわ。

「ええ、今はグレッグ達が落ち着くことが最優先だと思うからそのようにお義母様達には伝えてくれるかしら。
それと⋯⋯何か気になる事があれば後で教えてくれると助かるわ」

「畏まりました。若奥様の優しさに使用人一同頭が下がる思いでございます」

 深々と頭を下げたメイド長が退出すると俯いていたグレッグがモゴモゴと小声で何か呟きました。

「⋯⋯る?」

「ん? もう一度言ってくれるかしら」

「おこる?」

「怒らないわ。でもちょっと驚いたかな」

「ごめんなさい」

 ちゃんと謝れるのはお利口さんです。

「次に物を投げたくなったら『投げるよー』って教えてくれる?」

「へ?」

「そうしたらこうやってガードできるでしょ?」

 枕を頭の上に乗せてにっこりと笑うと、キョトンとしていたグレッグがプハッと吹き出しました。なんて可愛い笑顔⋯⋯いえいえ、そうではなくて⋯⋯孤児院の小さなお友達に教えてもらった最強防御なのですけど笑われちゃいましたね。



 チェイスを抱いてドアを開けて欲しいと頼むとグレッグが嬉しそうに天使の笑みを浮かべました。

「ありがとう。お腹すいたからご飯食べに行きましょうね」

 わたくしが部屋を出た後グレッグは静かにドアを閉めて横に並びました。見上げてきた顔に『えらい?』と書いてあるのが堪りません。間違いなく尻尾振ってますよね。両手が塞がっていて頭を撫でられないのが残念ですがにっこりと微笑むと再び天使の笑顔を見られたのでラッキーです。

 青の間に入るとメイド長のイリスと一緒にいたのは伯爵家に来て間もないメイド見習いのハンナでした。ハンナには少し歳の離れた弟2人と妹がいたはずですから⋯⋯メイド長のチョイスは流石です、抜かりありません。

 子供用の椅子が準備されていますが少し古いのでマーベル兄妹の使っていた物なのでしょう。ベッドの近くには立派な彫刻が刻まれたベビーベッドも置いてあり、布団も準備済みでしたので安心してチェイスを寝かせる事ができました。

 ガチガチに緊張して入り口近くに立ち尽くすグレッグを手招きして椅子に座らせて食事をはじめました。

 パンとスープに温野菜。わたくしの前には鴨のローストですがグレッグには一口サイズに切った鶏のローストでしたから4歳の子供にはちょうどいいでしょう。グレッグのスープはベーコンと刻んだ野菜に変更されています。

 大急ぎで子供用の料理を準備してくれた料理長にもお礼を言っておかなくては。

 こんな短時間で色々準備してくれた使用人達には感謝しかありません。若奥様と呼ばれているわたくしが差配出来ていないのに全て準備をしてくれている使用人達のスペックの高さにいつも助けられています。

「いつもありがとう。短時間でここまで準備してくれるなんて、とても助かったわ」

「とんでもございません。この程度のことでしたらいつでも」



「グレッグ、苦手なものはあるかしら?」

「⋯⋯わかんない」

「じゃあ、とりあえずいただきましょう」

 食事の前に感謝の祈りをする事を知らないのは予想通りでしたので今日はそのまま黙って見ておく事にしましたが⋯⋯。

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