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2.あまりにも堂々としすぎの
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夕闇が迫る頃ステファン様がお戻りになられましたが、使用人達と並んでお出迎えしたわたくしはポカンと口をあけた間抜けな顔をしてしまいました。
「ただいまリリアーナ、元気そうだな」
部屋に置いてある絵姿は5年前のものですからステファン様は随分と様変わりしておられました。短く刈った金髪が日焼けした肌と良く合いとても精悍な面持ちになっておられました。どちらかと言うとほっそりとした文官タイプの方と言う印象だった気がしておりましたが、肩幅が広く背まで高くなられたように感じられます。
5年も経てば雰囲気も変わっておられるはずだと心の準備をしていたつもりでしたが少しばかり威圧感を感じてしまいました。それに⋯⋯ わたくしの名前はリリスティアですけど?
「お、お帰りなさいませ?」
しかも何故赤ちゃんを抱いておられるのでしょう。あ、足元にしがみついている男の子がわたくしを睨んでいます。
後ろのピンクブロンドの女性はどなたでしょうか。義妹のアリシア様とはとても仲が良いようで小声でヒソヒソとお喋りをしながら薄笑いを浮かべておられますね。
まさか⋯⋯いえ、多分そう言う事なのだとは思いますけれど⋯⋯でも、随分と堂々としておられるのがなんというか不思議でなりません。
「まあ、気が利かないわねえ。ステファンは疲れてるのよ。そこを退きなさい」
満面の笑みを浮かべているお義母様が舌打ちされました。礼儀作法には厳しい方だったはずでは?
「申し訳ありません」
お義母様はご機嫌を損ねると怖いですから取り敢えず頭を下げて後ろに下がりました。
「荷物をお預かりしてね」
顔を上げた後呆然としていたメイド達に向かって声をかけるとわらわらと動きはじめ、従者達と一緒に荷物を運びはじめました。
「若奥様、荷物はどちらに⋯⋯?」
「えーっと、あの女性の物は客間にお待ちしてくれるかしら」
紹介がないのでなんとも言えませんが客室にご案内すれば問題はないでしょう。大量のトランクを馬車から降ろされたので恐らく直ぐにお帰りになられるとは思えませんし、玄関ホールに置いておくわけにもまいりません。
赤ちゃんを片手に抱いたステファン様は紹介も説明もないまま義両親様達を引き連れてわたくしの前を通り過ぎて行かれましたが、この様子だと間違いなくピンクさん用のお部屋が必要ですね。
「先ずは風呂に入りたいな、準備出来てる?」
「はい、勿論でございます。そちらのご婦人やお子様方はいかがなされますか?」
この状況に全く動じていないのはこの伯爵家に先代から仕える執事です。『流石!』と感心しつつ、ついでにピンクさん達が誰なのか聞いてくれたら助かるのにと思いました。
「お風呂? 私もお風呂入りたーい。子供達のことはぁ、リリアーナさん、よろしくねー」
執事の問いかけに答えたステファン様は赤ちゃんと幼児をメイド長に預け、ピンクさんの腰に手を添えて階段を上がりはじめました。
慌てて客室に向かうメイドとピンクさん用の湯を準備に走る者を横目に見ながら声をかけるタイミングを伺っておりましたが、ステファン様にとって勝手知ったる我が家ですからピンクさんをエスコートしてさっさと階段の方に向かわれました。
「ビビアンは取り敢えず客間でいいだろう?」
やはり客室で合っていたようで安心しました。もしかしたら主寝室と言い出されるのではないかとドキドキしておりましたから。
え? ピンクさんが主寝室を使うのは嫌か?
別にノープロブレムですわ。と言うよりどうぞ遠慮なく⋯⋯です。年に2回ある長期休暇に一度も帰って来られずお手紙もなかった旦那様が子供を2人と女性を連れて帰られたのですよ?
離婚確定案件です。
主寝室はステファン様のお部屋と繋がっております。わたくしは一度も使ったことがありませんので空いていると言えば空いておりますが、今日のところは客室で良かったようで安心しました。荷物の運ぶ先が合っていた安心感ですね。
「えー! ステファンと別の部屋なのぉ? それって寂しいかもぉ。一緒にお風呂入ろうよぉ」
「のんびり湯浴みしたいから今日は無理」
ケチだと口を尖らせて抗議しているピンクさんをステファン様がエスコートしている間にお義母様達は居間に行ってしまわれました。
「若奥様⋯⋯あの方達はいったい」
「多分⋯⋯ターニャの予想通りだと思うわ」
一人玄関ホールに取り残されたわたくしは心配そうな顔をした侍女のターニャを連れて居間に向かう事にしました。
「ただいまリリアーナ、元気そうだな」
部屋に置いてある絵姿は5年前のものですからステファン様は随分と様変わりしておられました。短く刈った金髪が日焼けした肌と良く合いとても精悍な面持ちになっておられました。どちらかと言うとほっそりとした文官タイプの方と言う印象だった気がしておりましたが、肩幅が広く背まで高くなられたように感じられます。
5年も経てば雰囲気も変わっておられるはずだと心の準備をしていたつもりでしたが少しばかり威圧感を感じてしまいました。それに⋯⋯ わたくしの名前はリリスティアですけど?
「お、お帰りなさいませ?」
しかも何故赤ちゃんを抱いておられるのでしょう。あ、足元にしがみついている男の子がわたくしを睨んでいます。
後ろのピンクブロンドの女性はどなたでしょうか。義妹のアリシア様とはとても仲が良いようで小声でヒソヒソとお喋りをしながら薄笑いを浮かべておられますね。
まさか⋯⋯いえ、多分そう言う事なのだとは思いますけれど⋯⋯でも、随分と堂々としておられるのがなんというか不思議でなりません。
「まあ、気が利かないわねえ。ステファンは疲れてるのよ。そこを退きなさい」
満面の笑みを浮かべているお義母様が舌打ちされました。礼儀作法には厳しい方だったはずでは?
「申し訳ありません」
お義母様はご機嫌を損ねると怖いですから取り敢えず頭を下げて後ろに下がりました。
「荷物をお預かりしてね」
顔を上げた後呆然としていたメイド達に向かって声をかけるとわらわらと動きはじめ、従者達と一緒に荷物を運びはじめました。
「若奥様、荷物はどちらに⋯⋯?」
「えーっと、あの女性の物は客間にお待ちしてくれるかしら」
紹介がないのでなんとも言えませんが客室にご案内すれば問題はないでしょう。大量のトランクを馬車から降ろされたので恐らく直ぐにお帰りになられるとは思えませんし、玄関ホールに置いておくわけにもまいりません。
赤ちゃんを片手に抱いたステファン様は紹介も説明もないまま義両親様達を引き連れてわたくしの前を通り過ぎて行かれましたが、この様子だと間違いなくピンクさん用のお部屋が必要ですね。
「先ずは風呂に入りたいな、準備出来てる?」
「はい、勿論でございます。そちらのご婦人やお子様方はいかがなされますか?」
この状況に全く動じていないのはこの伯爵家に先代から仕える執事です。『流石!』と感心しつつ、ついでにピンクさん達が誰なのか聞いてくれたら助かるのにと思いました。
「お風呂? 私もお風呂入りたーい。子供達のことはぁ、リリアーナさん、よろしくねー」
執事の問いかけに答えたステファン様は赤ちゃんと幼児をメイド長に預け、ピンクさんの腰に手を添えて階段を上がりはじめました。
慌てて客室に向かうメイドとピンクさん用の湯を準備に走る者を横目に見ながら声をかけるタイミングを伺っておりましたが、ステファン様にとって勝手知ったる我が家ですからピンクさんをエスコートしてさっさと階段の方に向かわれました。
「ビビアンは取り敢えず客間でいいだろう?」
やはり客室で合っていたようで安心しました。もしかしたら主寝室と言い出されるのではないかとドキドキしておりましたから。
え? ピンクさんが主寝室を使うのは嫌か?
別にノープロブレムですわ。と言うよりどうぞ遠慮なく⋯⋯です。年に2回ある長期休暇に一度も帰って来られずお手紙もなかった旦那様が子供を2人と女性を連れて帰られたのですよ?
離婚確定案件です。
主寝室はステファン様のお部屋と繋がっております。わたくしは一度も使ったことがありませんので空いていると言えば空いておりますが、今日のところは客室で良かったようで安心しました。荷物の運ぶ先が合っていた安心感ですね。
「えー! ステファンと別の部屋なのぉ? それって寂しいかもぉ。一緒にお風呂入ろうよぉ」
「のんびり湯浴みしたいから今日は無理」
ケチだと口を尖らせて抗議しているピンクさんをステファン様がエスコートしている間にお義母様達は居間に行ってしまわれました。
「若奥様⋯⋯あの方達はいったい」
「多分⋯⋯ターニャの予想通りだと思うわ」
一人玄関ホールに取り残されたわたくしは心配そうな顔をした侍女のターニャを連れて居間に向かう事にしました。
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