前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第三章

54.俺の危機管理能力がビンビンに反応してるにゃ

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「後2つ教えて欲しいんだけど⋯⋯。あの短剣って幾つくらい能力を吸収できるの?」

【全部で4つだにぃ。溜め込んでる間は効果はでないけど、切り替えて使えるだにぃ。おで達が別の器に移せばカラになるだにい】

「そっか、じゃあもうひとつの質問ね、アレって人の能力にも使える?」

【人は無理だにぃ、構造が違うだにぃ】

「だよね~。あ、ごめん後もうひとつ。例の眼球の靄って吸収できるかな?」

【あれは無理だにぃ。アレは結果だにぃ】

 エイトリは考え込んでいるグロリアの手から短剣を受け取り、嬉しそうに調べはじめた。

【ふっふふんふ~ん、上手くいってるだにぃ。あんちゃんに自慢するだにぃ】



(結果? 結果かぁ⋯⋯結果? 使われてる魔術自体は簡単なものなんだよね。あ~、解除できない理由がなんとなく分かったかも。確かに精神に関与するグラネちゃんの攻撃が効くはずだ。となると⋯⋯はぁ、解除は厳しそうだなぁ)

 エイトリの話から予想したのは、起点と終点を指定するタイプの転移の魔法陣のイメージ。起点のオーディン側に術式があり終点である眼球は単なる受け手。起点側にほぼ全ての術式があり、終点側にはごく簡単なバインドルーンがあれば良い。

 グロリアが学園で、なくなった文房具が返ってくるようにしていたのと同じ仕組み。

(プログラムは起点側にあるんだから、終点をいくら調べても構造なんてわかんないはずね。グラネちゃんの『がちん』はその途中のルートをブチって強制的に切ってる感じかな)

「うーん、どうしよう。やっぱり中身だけの入れ替えを研究するのが早道かな?」

【ほうじゃねえ、ニブルヘイムに行くのは危険じゃけん、入れ替えの魔術はええかもね。この間は大きくなりすぎたけど使えるようになりそうじゃもんね】

「あ⋯⋯面白いことに気付いたかも」

【ダメダメダメ! グロリアの面白い事はぜーんぶ禁止じゃけんね。昨日叱られたばかりなんじゃけん、大人しくせんと監禁されるよ?】

「まさか! ないない、大丈夫だよ~。もしやるとしたら、ちゃんとジェニに説明するしね。多分」

【それにそれに、昨日わしをぐるぐる巻きにしたのを忘れとらんけんね!】

「あ、ごめん。グリちゃんってほら、自由にポーチを出入りするからさぁ。安全のため? ちょっとエルにゃのとこに行ってこよ~」

 そのまま部屋を飛び出そうとしたグロリアに向かってグリモワールが跳躍し、すたっとポーチに飛び込んだ。

(うっ! 置いてこうと思ったのに。飛距離がまた伸びてるじゃん)



 居間のテーブルの下でうたた寝していたエルを見つけたグロリアは、モゾモゾと隣に潜り込んで耳元で囁いた。

「エルにゃ~、聞きたい事ともしかしたらお願いがあるの~」

【⋯⋯グロリアは俺を殺されたいのにゃ?】

「へ? 聞きたいことがあるだけなんだけど」

【俺にはグロリアと違って危機管理能力があるにゃ。今グロリアと関わるのは危険にゃ。しっぽの毛がビンビン危険を知らせて来てるにゃ】

「⋯⋯ララちゃんのおねだりしてないからだね。嘘はダメだよ~、聞くだけだからねっ!」

 嫌だと駄々をこねるエルの尻尾をズルズルと引き摺って居間を出て、階段に辿り着くと上から強烈な冷気が降ってきた。

【ひぃ!】

「ん? この気配はジェニだけど、何かあったのかなあ。エルにゃ、自分で階段登ってくれる?」

 見つかったらヤバいとばかりに階段を一足飛びに駆け上がったエルは、グロリアの部屋の前で腕を組んで仁王立ちしているジェニを見て急停止した。



【こ、これはだにゃ⋯⋯グ、グロリ⋯⋯】

 焦って後ずさるエルの後ろから呑気な声が聞こえてきた。

「やっぱりジェニがいる⋯⋯どうかした?」

 エルにゃの後から階段を登ってきたグロリアが不思議そうに首を傾げた。

「なんかまたグロリアが新しい事をはじめそうな予感がしたんでな」

「うーん、はじめるかどうかはまだ分かんなくて情報収集?」

「俺も聞いていいよな?」

 ジェニがドアにもたれて目を細めると、エルがグロリアの後ろに逃げ込んだ。

【お、俺はまだなにも知らにゃいにゃ。俺に罪はないにゃ! 俺は無実にゃ!】

「えーっと、意味がないかもだし⋯⋯無駄になりそうな気がするんだけど、それと怒らないって言うならいいけど?」

 ジェニの口元がひくりと引き攣り、暫くグロリアを睨みつけた後慇懃無礼な態度でドアを開け、わざとらしい仕草でグロリアを手招きした。

「では、お話を伺わせていただきましょうか」

「ジェニ、もしかしてまだ怒ってる?」

「まだじゃねえ! 今新しく怒ってるとかこれから新しく怒る可能性大!!」

「まだ話も聞いてないくせに」

 ぷっと頬を膨らませたグロリアがフンっと横を向いて部屋に入って行った。



 ジェニの視線を見ないふりしてそろりそろりと部屋に入ったエルは、ソファの近くにエジプト座り⋯⋯上半身を起こし前足を揃えた形で座りグロリアとジェニの顔をチラチラと見比べた。

 グロリアが座っているソファの向かいに座ったジェニが、お茶とお菓子を出してテーブルに並べた。

「わぁ、いつもありがとう。モンブランだ~」

 季節的には少し早いが『それもまた楽しいね』と言いながら、マロングラッセを美味しそうに頬張ったグロリアが幸せそうに笑った。

「いつもながら前世と今世のいいとこ取りだね、感謝感謝、テヘヘ」

【餌付けにゃ⋯⋯人間にも効くにゃ】

 思わず呟いたエルがジェニに睨まれて横を向いた。

「洋栗のモンブランにはアッサムティーが合うんだと。ヘルが蘊蓄を垂れてたぜ」

 カップを持ち上げたジェニが『へぇ、結構上手いな』と満足げな顔になった。

「ヘルはグルメだもんね。あんな大人になるのは何年くらいかかると思う?」

「ゴホッゲホッゲホッ! ア、アレは4桁の積み重ねがだな。それにちょい強烈過ぎると思うし⋯⋯まあ、その。んで、なんの話なんだ?」

「そうだ! 久しぶりのモンブランですっかり忘れてた。んじゃ先ずは、

 《ララちゃんのおねだり~》

でね、エルにゃにオセの事を聞きたいの」

【オセにゃ? 奴は今も職員用宿舎の最上階にいるにゃ。グリーズが帰ってくるのを待ってるにゃ。グリーズが王都のジェニの屋敷を襲撃に行く時、一緒に行くつもりにゃ】

「まだこの町にいるならラッキーなのかなぁ。前にオセはこの世界に来たけど召喚されたわけじゃないし、フレイヤとちょっぴり繋がってるだけの不安定な存在だって言ってたよね」

 エルがチラッとジェニを見てから答えはじめた。

【そうにゃ、オセとフレイヤの繋がりは契約できるほどの強さではにゃいにゃ。リンドとも契約できにゃいにゃ】

「今の状態って全てオセの気分次第でやりたい放題って事?」

【ある意味そうにゃ。でもオセにはこの世界の知識がにゃいにゃ。攻撃力もにゃいにゃ。大した事はできにゃいにゃ】

 リンド達との戦いの時、エルに壁際に追い詰められたまま身動きできないでいたオセを思い出した。

「オセにできるのは人を変身させてその人に完全にならせるけど、知識や記憶は教えられないんだよね。周りも錯覚するのかな?」

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