前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第三章

52.慎重な戦い方したよ?

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『アイツだ! あのドヴェルグを連れて帰るぞ』

【ひぃ! お、おでが狙いだにぃ!】

 イオルは背中にしがみついたエイトリを見せびらかすように敵の中を駆け抜け、たまに毒を吐いて剣や槍を溶かしていく。

【イ、イオル~。おでは囮だにぃ】

【うん、楽しいでしょ?】

【た、楽しくないだにぃぃぃ! イオルのバカァァァ!】

 ちょこまかと走り回る猫を追いかけ敵同士でぶつかってこけたり、飛びつこうとして地面に倒れたり⋯⋯。

【そろそろ飽きてきた~!】

【おではずっと飽きてただにぃ! 帰るだにぃ】

 人の背丈ほどの大きさになったイオルが大きく口を開けて敵に大量の水を噴射すると、追いかけっこに疲れ果てていた敵は『ひぎゃあ!』と悲鳴を上げて流されていった。

【やっぱり猫のままだとあんまり威力が出ないね】

【じゅ、十分だにぃ。馬車が流されたのがバレたら叱られるだにぃ】

【あ、ヤバい!】

 屋敷の2階を見上げたイオルが見たのは中指を立てたヘル。真っ青になったイオルは猛ダッシュで流された馬車を探しに走り出した。

【おでは置いてけだにぃぃぃ!】



 ジェニ達が帰って来たのは裏庭の修復を終えたイオルがエイトリを慰めていた時だった。

「取り越し苦労ってやつだったな。グリーズがいる可能性も残ってたし、宿舎にいたのがリンドだった時点でこっちにグリーズが来てるかもって思ってたぜ」

【グリーズが残ってるならダーインスレイヴを守って、リンドがこっちに来るだろうさね】

「それにあんなショボいのが特攻チームとはなぁ。リンドの奴に先ずは強~い味方を集めろって教えてやりゃ良かったなあ」

 明け方近い時間だが全員起きていたので、テーブルを囲んで夜食パーティーを開いた。



「最初はさ、グロリアの結界じゃなきゃヤバかったのよね~。表も裏も魔法をガンガン打ってきて、『Movere』使って魔力の補給しながらやりまくりだもん。
魔力使い切るまで上位魔法の集中砲火って感じで屋敷がちょびっと揺れたんだよ」

【あれはちょっと綺麗だったさね。パチパチドーンって派手な音がして、火の粉が舞い散ってさ。はじまりの合図にしちゃあいい感じだったのさ】

 珍しくヘルが楽しそうな声を上げた。

「でも結局は魔力切れになりかけて終わった感じだよね~。魔法頼りの奴なんか魔力がなけりゃ薪割りもできないんじゃない?」

【くちょへぽなんただたちょこちはあたたをちゅただただとおなんだでちゅ】

「⋯⋯すまん、流石に今のは解析できん」

【簡単じゃないか。『クソへっぽこなんだから少しは頭を使ったらどうなんだ』って言ってるじゃないか】

「ヘルの言葉だからな、ヘルにしかわからねえよ! ガキの前では正しい言葉遣いに変えやがれ!」

かえあがえ変えやがれもだめでちゅ】

 グラネがビシッと前足でジェニを叩いた。

「グラネェ⋯⋯ダメってわかってんならさあ、止めようよ。ひいじいちゃん泣くよ?」

(そういやあ、グラネの攻撃はマジ痛くねえな。ラプスがめっちゃ痛がるから強力なんだと思ってたが⋯⋯痛がってるふりってやつか)

【ひいじいちゃんじゃなくて、ひいばあちゃんでちゅね。ジェニはおんなのこになってほられたからことも子供が⋯⋯】

 ジェニがガバッと立ち上がった。

「ヘル! てんめえ、ガキになに教えてやがんだぁ!」

【変身できる巨人族の謎と性教育? 今度グロリアにも教えなきゃねえ、百合遊びもできそうだって】

「やらねえし、ぜーったいに教えるな!!」



 大騒ぎしているうちにすっかり夜が明け、屋敷の外に人や馬車の気配がしはじめた。

「ちょいと寝ようぜ⋯⋯順調に進んでるし、次の予定は起きてからだな」

 それぞれが気に入った部屋や場所で微睡みはじめた頃、グロリアは再び机に向かっていた。

【寝た方がええと思うけど、その顔は気になる事があるみたいじゃねえ】

「うん、ちょっとね。今日エイトリの剣でダーインスレイヴの能力を吸い取ったでしょ?」

【あれは見事じゃったねえ。ドヴェルグの中でも昔からブロックとエイトリは優秀じゃったけんね。あの時代からずっと頑張っとったんじゃろうねえ。錬金オタクじゃね】

「剣の能力と魔法って仕組みは同じなのかな?」

【あー、目玉の事を考えよったんじゃね。そこは起きてからエイトリに聞いたらええと思うよ。剣に特別な能力をつけて仕上げるのと魔法を付与するのの違いじゃけん。もしエイトリの短剣がアレを吸収してくれたら楽に終わるねえ】

「うん、そうなんだよね⋯⋯明日聞くことにするけど⋯⋯ちょっと試したい事もあるし」

 ほんの数日前に実験で迷惑をかけたばかりのグロリアは全員が寝静まるのを待っていた。

(ダーインスレイヴから吸い取った能力がすっごい心配で⋯⋯ 鞘がいるとか考えてなかったからそのままポーチにポイって入れちゃったし。
次に使おうとしたらとか、うっかり取り出したらミニダーインスレイヴだったなんて怖すぎる⋯⋯そろそろみんな寝たみたいだし)

 机の上でポヤポヤと鼻歌を歌っていたグリモワールをシーツでぐるぐる巻きにしてポーチに放り込んだ。

【行くにゃ?】

 ラグの上でうとうとしていたエルが伸びをしてからグロリアの足に擦り寄った。

「エルにゃはお留守番しててね。もしものことがあってエルにゃに斬りつけたりしたら嫌だから」

【そんな未来はにゃいにゃ。グロリアは俺を傷つけにゃいにゃ】

「未来なんてすぐ変わるじゃん。つまり、真実だけど真実じゃないんだよ」

【俺は魔神で大公爵にゃ、グロリアにやられたりしにゃいにゃ。嫌にゃらジェニにチクるにゃ】

「え~、その言い方はずるいと思う⋯⋯じゃあ、エルにゃと一緒に行くけど、もしもの時は安全になるまで私から逃げててね」

【悪魔のにゃにかけて約束にゃ】



 グロリア達が部屋から転移した先は魔物達の巣の真上。木の枝が大きく手を広げびっしりと葉を茂らせているせいで薄暗く、地面は湿り苔やシダが落ち葉の間に生えていた。

【やっぱりここは獣臭いにゃ】

 突然現れたグロリア達に驚いた魔物達が木陰や木の上から牙を剥き唸り声を上げている。

「サクッと済ませるから」

 魔物を見るのは今回で3回目。1度目はエルが炎で追い払い、2回目は水の中でエルが戦うのを遠巻きに見ただけ。

(毎回エルにゃ頼りは情けないよね。今回は自分の手で戦うって決めてたんだから逃げずにやらなくちゃ!
前世でも今世でも生き物の命を奪った事はないなんて言ってられない、この世界で生きていくなら慣れなきゃ!)

 グロリアは自分に言い聞かせながらるんるんを構えた。

「エルにゃ、私が殺るから離れてて」

【初心者には数が多すぎるにゃ!】

「大丈夫、気合いと根性でいける⋯⋯多分」

 最初に飛びかかって来た猿に似た魔物の腹を打ち、背後から爪を振り上げた熊のような魔物に雷を落とした。バリバリと音を立てて木が倒れ、様子を窺っていた小さな魔物が逃げ出した。

 るんるんを片手持ちしたグロリアは、前後左右だけでなく上からも飛びかかってくる魔物に斬りつけ、左手に護符を出しながら弾丸のような水を撃ちまくった。

(身体強化万歳! 片手持ちで刀が扱えるなんてラッキーじゃん)

 次第に魔物の数は減ってきたが、残っているのは大型の魔物か群れをなす魔物ばかり。

 グロリアの背より大きく赤い目の野犬のような魔物3頭が唸りながら、グロリアの周りをゆっくりと回りながら少しずつ近づいて来た。

(やる、やってみる! ミニダーインスレイヴになるかどうかは血を見るまでわかんないからね)

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