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第三章

28.器用なカニさん歩きは

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【あの研究施設の下はトンネルになってて、ドヴェルグ達の住処まで繋がってるみたい】

【イーヴァルディ達は洞窟が好きだにぃ、他のとこには住まないだにぃ。新作の剣は上手くいってなかっただにぃ、くっくっくだにぃ⋯⋯おでには原因が分かっただにぃ、教えてやんないだにぃ】

 話の最中に寝てしまったグロリアはテーブルに頭をぶつけて目を覚ました。

「うわぁ、ごめん⋯⋯なん、なん⋯⋯スヤア」

「まあ、この話は後で伝えとくからこのままほっとくか。で、原因はなんだったんだ?」

【メテオリックアイアンだにぃ。アレはどんな形にもなるしなんでも組み込めるけど、一度にいっぱい組み込むにはコツがいるだにぃ。それをイーヴァルディ達は知らねえだにぃ。間抜けだにぃ。クーックックだにぃ。
ミルラも均一にできてなかっただにぃ。あんちゃんが知ったら喜ぶだにぃ】

「マルデルご所望の薬はどうだ?」

【元々足りない薬草があるだにぃ、それがないと本物は作れんだにぃ。よく似た効果のを作ろうとしてたけど無理だにぃ】

「ネックレスの修理は?」

【ブロック怖えとかルーン文字じゃねえかとか言ってて、誰も触りたがらないみたいだったよ】

「なら、そっちはもうしばらく大丈夫そうだから、剣が仕上がりそうならなんか仕掛けて邪魔すればいいか。
変化が起きそうならすぐに連絡をくれ。こっちはそんなにかかんねえと思うが⋯⋯ミーミルの奴がどのくらいのコレクションを持ってるかとか整理整頓好きがどうかで変わってくるからなぁ⋯⋯どっこいしょっと」

 おっさん臭い掛け声と共にジェニがグロリアを抱き上げた。

「ヘル、少しの間警備が弱くなる。十分に注意しろよ」

【ヘル様の心配する暇があったらさっさと仕事を済ましてきな! もしもの時はラプスが頑張ってくれるさね】

【頑張る! 僕は姉ちゃんの護衛だよ】

【ぼくもいるでちゅ~、おじいちゃんをちっかりはたらかちぇるでちゅからね!】




 グロリアを抱き上げて王都の屋敷に転移したジェニの周りに妖精やエルフが一斉に集まってきた。

「よう、お前ら元気だったか~?」

【アカデミーじゃにゃいのにゃ?】

【きゃ、い縺�d縺√€∵が鬲斐′譚・縺溘€�】

 少し遅れて転移してきたエルを見た妖精とエルフが一斉に逃げ出した。

【(ガーン)逃げられたにゃ】

「エル、お前精霊から情報仕入れてんじゃなかったっけ?」

 ショックを受けて愕然としていたエルに向かってジェニが追い打ちをかけた。

【⋯⋯ほっとけにゃ! で、なんでここに飛んだにゃ!?】

「あー、ちょっとだけグロリアを寝かしてやりてえって思ってよお。ただ、この屋敷は安全じゃない可能性があるから、マーナ達の様子を見てくる間はお前が頼りなんだがな」

【仕方ないにゃ、許してやるにゃ】

 自室にグロリアを運びかけたジェニは足を止めた。

(アレはまずいよな~、ヘルの悪戯だって言っても聞いてくれるかどうか)

 客室のベットにグロリアを寝かせているとエルが『お前は変態にゃ』と言ってそっぽを向いた。

「アレは俺がやったんじゃねえって知ってんだろうが!?」

【剥がさず楽しんでたにゃ】

「くそぉおお! 俺のデリケートな心が、プライバシーがズタボロじゃねえかよ!」

 ジェニの自室には等身大のグロリアのパネルがいくつも置かれ、ベッドの置かれた真上にもグロリアの念写が浮かんでいる。

 一番見られて困るのは風呂場に浮かぶグロリアの念写だろうか。

(片付けても翌日には別バージョンが浮いてるんだから仕方ねえっての!)

 ブツブツと文句を言うジェニだが片付けたパネルを全て倉庫に保管しているのも、ヘルが新しい念写を部屋に飾るのを内心楽しみにしていたのもバレバレだとは気付いていなかった。




【ジェニ! ヘルは元気~?】

「ああ、ウザすぎるくらい元気だな。因みに俺も元気だぞ~。こっちの様子はどうだ?」

【うーん、俺っちの報告? まだそんなには分かってないんだよな】

 ティウ達は相変わらず医務室登校を続けロズウェルがその周りをブンブン飛び回っている。

【なんか、新しい魔法を構築したいとか言って実験台にされかけてる】

【奴等の親は資産隠しと養子の育成だな、息子達のことは見放しておる。捨てるに捨てれず持て余しておった】

【親子なのに酷いよな~、俺様はちょっと腹が立ったから齧ってやろうかと思⋯⋯】

「やーめーい! 齧るの禁止! ディルス、カニスの調教頑張ってくれ」

【バカだから毎日言い聞かせておる、寝るまでくらいは覚えられるようになったしな】

 ディルスの目に『可愛いだろ?』と書いてあるのを無視したジェニは眉間に深い皺を寄せた。

「⋯⋯先は長えな。こっちはグロリアとアカデミーに行ってこにゃならんくなった。んで、国王の動きにも注意しといてくれな」

【流石の俺っちでも手が足りないよぉ】

「なら、セティをこき使ってくれ。フロディ経由でティウ達の状況は聞き出せるから、その分他に回せるからな。
ヴァンが帰ってくるまでの辛抱だ。そんときゃ少なくともスルトをこっちに回せるはず」

(侵入の要はグロリアの魔術。敵はリンド達とクソビッチだが共闘するとは思えねえから、そこはグロリアと俺とエルにゃでなんとかするしかねえだろうな。
リンドが一番狙ってるのはヘルとエイル⋯⋯しかもブロックとエイトリもいるし。ラプスが働く気になりゃイオルでもなんとかなるかもしれんが、ヴァンをヘル達につけるしかないかもしれねえ。
本当ならスルトを編入させて学園やら貴族同士の繋がりやら覚えといてもらおうと思ってたんだが⋯⋯王都の地理さえほとんど分かってねえしなぁ。
くそ、ティウ達4バカの内のひとりでも覚醒してくれりゃ⋯⋯)



 ジェニが王都を飛び回っている間に爆睡したグロリアはスッキリと目覚めて久しぶりのジェニの屋敷を満喫していた。

「みんな頑張ってるのに申し訳ないことしちゃった」

【学園を飛び出してからず~っと爆走しとったけんねえ、疲れが溜まっとったんじゃ思うよ。ジェニにご飯食べさせてもろうても姫抱っこで移動しても起きんかったけんね】

 ぴたりと足を止めたグロリアが大声で叫んだ。

「いやあぁぁぁ!(恥ずかしすぎるぅ)」

 しゃがみ込んで頭を抱えたグロリアの周りでは妖精とエルフ達が花びらを振り撒いていた。

「よお、ねぼすけ。起きたならメシ食おうぜ~」

 ジェニの声にびくりと飛び上がったグロリアがそのままカニさん歩きで逃げ出した。

(器用だな~、アレってどうやんの?)

 よく見るとグロリアの身体は少し浮いている。

(ははん、ありゃあミニチュア転移って感じだな。全く面白い使い方をする)

 グロリアの頭の中にあったのはほんの少し足が地面から浮いているアニメのド◯え◇ん。前に出た足の位置に転移を繰り返していた。



 お昼過ぎにアカデミーのあるコリントス自治区へ転移して来たグロリアとジェニとエル。

 コリントス大学を中心に学生達の宿屋や食堂が軒を連ね扇状に広がっているこの街は、この世界の中でグロリアの知る限り最も多くの人が集まっているように見えた。

 大きな鞄を抱えて歩く学生や友達と議論しながら歩く学生、オープンテラスで本を片手にコーヒーを飲む男性や広場のベンチでパンを齧る男性。

「男だらけ⋯⋯エイルさんが見たら叫び出しそう」

【⋯⋯(プイ)】

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