上 下
220 / 248
第三章

27.帰ってきた!

しおりを挟む
「グ、グリちゃん!? 戻ってきてくれたんだ! 頭なんて下げないで~、お願い!」

【あ、うん。戻る言うかずーっとポーチの中におったけどね】

「⋯⋯あのぉ、考え事って終わったりした?」

【うーん、終わっとらんけどひとりで悩んどっても答えが出んけんグロリアと話した方がええかなぁって思ったんよ】

 いつになく気弱そうな声のグリモワールが『よいしょ』と言いながらグロリアの膝に登ってきた。

【グロリアはわしのこと怒っとらんの?】

「へ? 怒る理由なんて思いあたんない。それどころか感謝ばっかりだよ」

【⋯⋯失われたはずのルーン魔術の知識をわしがもっとったけん、グロリアはこの世界のアレコレに巻き込まれたとは思わんの?】

「うーん⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯思わない。ぜんっぜん思わない。ここに来る事になったのはヒュンドラが決めた事だし、グリちゃんがいてくれなかったら何にもできないままで『役立たず』って言われても諦めるしかなかったと思う。
少しずつでも前に進めたのはグリちゃんがいてくれたからだと思ってるもん」

【そのせいでこの世界を壊す役割を押し付けられても?】

 グリモワールが悩んでいたのはその一点。

【わしの存在が残っとったけん⋯⋯ルーン魔術をより効果的に活用して世界を壊せるグロリアが巻き込まれたのかもしれんとは思わん?】

「それを言うなら逆もあるよ? 世界を壊す為にグリちゃんの知識が必要で、私がフレイヤを連れてくるまで長い間待たされてたとか」

【難しい問題じゃねえ、どっちが先かは考えても答えが出んのよ】

「そこはどっちでもいいかも。この世界に来ることになった理由には腹が立ったけど、グリちゃんからルーン魔術を教わったのは楽しかったし嬉しかったもん。
他のメンバーも全員大切だけどグリちゃんは別格なんだ」

【ほ~、ジェニより?】

「あ、えーっとそれは種類が違う⋯⋯と言うか。グリちゃんは父さんとかの立ち位置で、ジェニは⋯⋯ゴニョゴニョ⋯⋯だから」

【男の趣味が悪いのはアレじゃけどええ感じになったねえ】

「グリちゃんが相談に乗ってくれたって言ってたよ。ありがとう」

 ペコリと頭を下げたグロリアの膝でグリモワールがちょっぴりのけぞって顔を見上げた。

【あれ以上にストーカーされたらキモいけんねえ、今までもキモかったけど⋯⋯。あの頃のロキは手に入れたもんを奴らにどんどん奪われ続けとったんよ。ほんでラグナロクの時には全部無くした思うて真っ青になっとったけん、手に入れるのを怖がっとったんじゃろうね。
ヘタレのビビりで変態のストーカーとか、天邪鬼な嘘つきでカッコつけで陰湿な意地悪を思いつく奴とか⋯⋯どこをとっても嫌われる要素しかないんじゃけど『蓼食う虫も好き好き』じゃもんね】

(ま、まあ⋯⋯鏡でずっと見てた発言は私もちょっとヤバいって思ってひいたかも)

【なら、これからも宜しくって言うてもええんかねえ】

「勿論! こっちから言いたいくらいだよ、これからも見捨てず宜しくです!」



【んじゃ、作戦立てんとね。ミーミルは賢者だの言われよるけど単なる『知識オタク』なんよ。
オーディンらが人間を作った時の話を覚えとる?】

「うん、オーディンは命と魂でヴィリは動く力と知性を与えてヴェーが言語・聴覚・視覚を与えた」

【うん、お利口さん⋯⋯大正解じゃね。つまり人間に器を与えたオーディンと頭の中身を作ったヴィリと運動機能やらを器にくっつけたヴェーじゃね。
オーディンは3兄弟の中で一番アホの子じゃったけん中身のない器しか作れんかったんじゃけど、ヴィリが3人の中では一番利口じゃったけえ考える力やらなんやらを作れた。
因みに魔法オタクのヴェーもかなりアホの子じゃったねえ。『脳筋』ならぬ『脳魔』じゃね。
ヴィリは外向きのお利口さんじゃから⋯⋯持ってる知識でチェスのプレーヤーになりたがるタイプ。
ミーミルは観戦者になって知識を溜め込みたいタイプじゃね。溜め込んで溜め込んで溜め込みまくるのが生き甲斐じゃけど、頼まれたら教えるのは構わんの。聞かれりゃ教えるけど聞かんなら気にもせんで知らん顔する】


 アース側からの人質としてヘーニルに扮したヴィリと共にヴァナヘイムへ送られたミーミル。ヴァン神族が見目美しく口の達者なヘーニルを首領にしようとしている間にミーミルはヴァン神族の情報収集に勤しんでいた。

 ヘーニルは期待ハズレでミーミルがせっせと諜報活動に熱中していると知ったヴァン神族はミーミルの首を切断してアース神族の元へ送り返した。

【つまり、ミーミルは新情報の為ならなんでもする⋯⋯雷の発生原理なんて知らんけんすぐに食いついてくると思うんよ。ただ、今よりもっとしつこくなるかもしれんけんもっと楽なネタを準備しといた方が話が早いかもね】

「氷の作り方と雷の原理で合計2個⋯⋯こっちはお宝ゲットとプロフェッサーの防壁が希望。あと1個かぁ、なんかあるかなぁ。
前世でまだ学生だったから大した知恵なんて持ってないんだよな~」

【リンドの鼻を明かしてやりゃあええんじゃないかね。例の『Cessiōne』にはこんな危険があるゆうて教えたげたら食いつくと思うよ? ミーミル⋯⋯オリーの中でホットな話題じゃし情報はあんまり持っとらんはずじゃけんね】

「そうか、情報源は提案書に名前が載ってるフレイズマル侯爵だもん。これはいいかも! いちいち説明するのは面倒くさいから紙にまとめとく。それを渡せば楽ちんだよね、よ~し頑張るぞ~!」





「で、目の下にクマさんを育成したわけか」

「昔っからレポート作成苦手だったって忘れてて~」

 テヘッと笑うグロリアに拳骨を落とすジェニの周りでヘル達が生暖かい目をしていた。

「朝食を済ませたらイオルとエイトリの報告を聞いて出発するんだが、コレ起きてられんのか?」

「平気だよ~、一晩徹夜したくらいじゃ全然問題な~し! 例の赤い飴ちゃん持ってるし」

 以前護符の作成で数日徹夜した時にお世話になった強烈に目が覚める赤い飴ちゃんをポーチから出して口に入れようとしてジェニに取り上げられた。

「今から食うな! メシだメシを食え!」

 全員でテーブルを囲み食事をはじめた。

【あのジェニが!】

【パパもやればできるじゃないか】

「さっきから念写が忙しすぎて食べる暇が!」

【俺、人型ににゃれるにゃ⋯⋯スプーン持てにゃいけどにゃ】

【ちみっこめ!⋯⋯いいな~、僕も】

【おじいちゃんには、ぼくがいるでちゅよ。ちんまいちゃんのことはみないみない】

「⋯⋯⋯⋯だぁぁぁ! てめえら、黙って食えぇぇぇ!」

 ほんの一瞬でも目を離すとスープに顔をつっこみフォークでナプキンを刺そうとするグロリアの横で、せっせと親鳥宜しく世話をするジェニを揶揄うメンバー。

 鳥籠の中ではせっせとムニンの顔を拭くフギンの姿があった。

【ガァ~! ほら、溢してる⋯⋯あ、それはデカすぎて喉に詰まるから⋯⋯ほら、水飲め⋯⋯だからぁ、それはデカすぎて無⋯⋯】



「お間抜けファミリーが増えそうじゃない?」

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
転生者グレイボーンは、前世でシュールな死に方をしてしまったがあまりに神に気に入られ、【重弩使い】のギフトを与えられた。 しかしその神は実のところ、人の運命を弄ぶ邪神だった。 確かに重弩使いとして破格の才能を持って生まれたが、彼は『10cm先までしかまともに見えない』という、台無しのハンデを抱えていた。 それから時が流れ、彼が15歳を迎えると、父が死病を患い、男と蒸発した母が帰ってきた。 異父兄妹のリチェルと共に。 彼はリチェルを嫌うが、結局は母の代わりに面倒を見ることになった。 ところがしばらくしたある日、リチェルが失踪してしまう。 妹に愛情を懐き始めていたグレイボーンは深い衝撃を受けた。 だが皮肉にもその衝撃がきっかけとなり、彼は前世の記憶を取り戻すことになる。 決意したグレイボーンは、父から規格外の重弩《アーバレスト》を受け継いだ。 彼はそれを抱えて、リチェルが入り込んだという魔物の領域に踏み込む。 リチェルを救い、これからは良い兄となるために。 「たぶん人じゃないヨシッッ!!」 当たれば一撃必殺。 ただし、彼の目には、それが魔物か人かはわからない。 勘で必殺の弩を放つ超危険人物にして、空気の読めないシスコン兄の誕生だった。 毎日2~3話投稿。なろうとカクヨムでも公開しています。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。

あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。 オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。 そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。 【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。 よければ参考にしてください。

処理中です...