前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第三章

18.今頃聞かれるとは

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 今世で使われている魔術とグロリアの使う魔術の違いかもしれないが、町の入り口の魔法陣は魔術に反応しなかった。

「もしもの時はすぐに転移すればいいし、戦いになっても護符も揃ってるしブロックに貰った短剣もあるから⋯⋯やっつけるとか捕まえるんじゃなければ大丈夫だと思う。
非常時の転移先はジェニの屋敷を使うつもりだったけど、念の為に別の地点にするね」

 転移の訓練でたまたま辿り着いた場所は全てマークをつけてある。魔物の巣か滝壺か⋯⋯岩山や噴火口も使えるかもしれない。

「お前、ほんと色んなとこに飛んでたもんなあ」

「⋯⋯何で知ってるの? は! まさかつけてたとか?」

「ちげえし! あんなダイナミックに飛び回るのをついて回れるわけねえだろうが」

 グロリアが無言で睨みつけるとジェニが頭を掻きながら目を逸らした。

「⋯⋯グリモワールに位置情報をちょっとな」

「ああ! だからグリちゃんはいつもポーチから出てたんだ。不思議だったんだよね」

「グリモワールのミサンガにちーっと細工を⋯⋯だってよお、マジ心配だったんだぜ? 異世界に飛んでったらとか、この世界の果てまで飛んでったらとか」

「まさか、異世界までは飛ばないよ~」

「飛んでくんじゃなくて飛んで来させたんだもんな」

「⋯⋯ごめん」

「そういやあ昨日からグリモワールの嫌味を聞いてねえな、奴には貸しが2個もできたから大人しくしててくれりゃ助かるぜ」



【全く、めんどくささがマシマシだよ】

 ヘルとエイルはグロリアとジェニの話し合いを見物しながら優雅にお茶を楽しんでいた。

「蜜月ってやつ? こうやって見てる分には楽しいねえ。元神族達のドロドロネチョネチョしたいやらしさもないし、距離を測り間違えて急接近した時とか⋯⋯念写いる?」

 エイルがピラっと本日の戦利品を見せびらかした。


 昼食を済ませてから出かける事に決まったグロリアの前には⋯⋯。

「こ、これって母さんのカレーだよね! ああ、お米⋯⋯炊き立てのツヤッツヤがぁ」

 大きな人参やジャガイモがゴロゴロ入ったあまり辛くないカレーにはゆで卵とブロッコリーがトッピングされていた。

(父さんが辛いの苦手だから、うちはいつも甘口のカレールーを使うんだよね~)

 ゆで卵は定番だが追加の野菜は季節によって変わりブロッコリーは春先に登場する。

(エビや魚のフライだと父さんのお代わり攻撃が⋯⋯)

 足元ではエルが巨大な肉をもらってほくそ笑んでいた。

【うまぁ~、仕事の後は最高だにゃ】




 感動のカレーを完食したあと、出発前のまったりタイムにエイルが少し身を乗り出してきた。

「前から気になってたんだけどさ、アレってどうやったの? 数理部でユピテールの付与が消えたやつ⋯⋯聞いちゃマズイなら言わなくていいんだけど前々から気になっててさ」

「雷魔法とかって室外と室内で威力が違うなぁって気になってたんです。で、思いついたのが部屋を密閉して水分をなくしたら面白そうだなあって」

「は?」【⋯⋯】「へ?」

「空にうかんでいる雲は地上の湿った空気が太陽の光で暖められて、空で水滴になって集まったものなんですけど、空は高くなるほど寒くなるんです。
で、高い空にのぼっていくに従って氷晶って言う氷のつぶが冷えてどんどん大きくなって⋯⋯その重さで落下しはじめるんです。
落下する氷晶と上っていく氷晶がぶつかり合って、静電気が発生して雲の中にどんどん電気がたまる。
で、それが限界を超えると雷が発生して『ドーン』って落ちてくる。それが落雷という現象なんです。
雷魔法はこの原理を一気に加速させて実行して、バーンと拡大させたものかなぁと推測しましてですね。アルの周囲にある全ての水分を吸収してみました。そしたらフロディの水魔法も使えなくなったしで結構楽しかったです。
自身の周りには結界を張っておいて密閉した部屋の水分を完全吸収したんです。『元神族は丈夫そうだからいけるかな~?』って⋯⋯生きてる間にカタをつけられたんで助かりました」

「よく分かんないけど⋯⋯魔法は自然現象を一気に再現してる感じだって事?」

「多分、そうなんだと思います。マルデルの話が長かったから考える時間があってラッキーでした~。リーグの動きを初っ端に止めとけたし、ティウが混乱してたからできたんですけどね」

「リーグと一緒にサッサと固めちゃおうとは思わなかったの?」

「リーグはポケットに何かを入れたのに気付いたから捕まえられるなって思ったけど、他の人は暴言だけだから捕まえられないって思ったんで。
で、アカデミーの監視用の魔導具が動いてたから隙だらけの今なら捕まえられるだけの証拠を残せるし、警戒された後だと勝つ自信がなかったんで。
十分な証拠映像が残せてから固めちゃいました」

【全く無謀な子だねえ⋯⋯そこまで追い詰めたのは無能な教師とヘタレ男だけど】

「そ、それはごめん」

「アタシも謝る、ごめんね」

 二人に揃って頭を下げられたグロリアは慌てて手を振った。

「そんな、謝らないで~。私の問題だったんだし、怪我もなく実験できたのは楽しかったし。無駄に丈夫な元神族相手だからできた方法だから、二度とできないのが残念なくらいなんで」

「あの氷を作る実験といいグロリアの前世は面白そうな世界だねえ」

「確かに、魔力とか魔法がないんでこの世界とは全然違ってますね」

【グロリアの記憶がなけりゃアタシだって行き着けなかったからねえ】

(ええ! そうなんだ~、ヘルが買い物とかしょっちゅうしてるから⋯⋯あ、そう言えばテレビとか車とか興味津々で聞いてきたもんね)



「それと、このミサンガありがとう。すごく綺麗で気に入ってるの」

「全員の分を作れて嬉しかったです。出来はまあ初心者だからアレだけど『気は心じゃけんね』ってやつで」

【色に意味があるんだよね】

 ヘルが意味ありげにミサンガを光に翳してからジェニを見た。

「水色と紫は美しさと才能でヘルとエイル用で、黄緑と緑は友情と癒しでヴァン達に。
ブロックとエイトリにはマルデルみたいな奴が寄ってこないようにっていう願いを込めて青と黒で、仕事の成功と魔除け。
ジェニのは⋯⋯ま、まあミサンガなんてお守りとかそういう⋯⋯護符じゃないからそんな威力はない『気は心』だし。
白は健康だから全員に入れたから、バランス的にも結構いい感じだと思う」

【ほっほう、グロリアのはどんなだい?】

「私用にはこれ! 黄色の金運のを作っておいたんだよね。だってこれからの生活がバリバリ心配なんだもん」

 テヘヘと笑ったグロリアは足首につけたミサンガを見せびらかした。

「⋯⋯グロリア、俺のミサンガの意味だけ何ですっ飛ばした? すっげえ気になんだけど。グリモワールから利き手につけろとかわけわかんねえ事言われたし」

「マジ? あー、それはその⋯⋯」

 期待に目を輝かせているヘルとエイルは予想がついているのだろうが、ジェニは眉間に皺を寄せてミサンガを弄っていた。

(ジェニって空気読めないよね! こう言う時は後でこっそり聞いてくるとか⋯⋯ヘルとエイルの『吐け!』って圧が凄いよぉ~)

「⋯⋯ピ、ピンクと赤とオレンジは⋯⋯そ、その⋯⋯モゴモゴ⋯⋯みたいな」

「聞こえんかった、もっかい言ってくれるか?」

「あーもー! ジェニのバカ! れ、恋愛と勇気と希望⋯⋯ゴニョゴニョ」

「あ、すまん⋯⋯そっか、れんあ⋯⋯」

【利き手の手首は恋愛で、反対の手首は勉強。利き足の足首は友情・勝負で、反対の足首は金運だったかねえ】

(やっぱ知ってんじゃん!!)

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