前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第三章

5.シャーシャー言われた仕返しじゃないよ?

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「ただいま~、全然いい場所なかったから今晩はここでいいにすることにした」

【⋯⋯グロリア、途中でなんかあったじゃろ? なんでそんなに普通なんか、おじちゃん不思議】

「うん、豹だと思うんだけどお腹空いてるみたいだったから干し肉あげたんだ。大丈夫だったかな?」

【あんなんほっときゃええんよね。なんか言っとった?】

「さあ? シャーって威嚇してるみたいだった。モッフモフだったけど野生の子だから我慢したんだよね~、すっごいモフモフだったけどね」

【モフモフねえ、できるかもしれんよ? グロリアはドヴェルグ兄弟といい変なもんを呼び寄せるねえ。今日は『珍獣ハンター』の名前をつけたげるね】

 ものすごく残念そうな顔をしていたグロリアが気配を感じて振り返ると、薄暗闇の中で真っ赤に燃える瞳が輝いていた。

【シャー!(すっげえ塩辛かったぞ! 水、水をよこせ)】

【⋯⋯はぁ、水が欲しい言いよるで?】

 グリモワールの通訳で急いで水を出したグロリアが⋯⋯。


 バシャーン⋯⋯ザブーン⋯⋯ピチョンピチョン⋯⋯

「あっちゃ~、ふわもこがペションって! この子まだ子供なのかなぁ⋯⋯嵩増ししてなかったら『ちんまいちゃん』だね」

【ブハッ! ひ、久しぶりに見たわい、グロリアの暴走護符の威力。いや~、涼しゅうなったねえ】

【シャ、シャー!(なに、こいつって何者?)】

【グロリア、コイツは雪豹みたいな見た目じゃが鑑定してみたら面白いと思うよ?】

「うん⋯⋯《チェック鑑定》⋯⋯異世界の悪魔で召喚獣って出てる。そうか、召喚者と逸れちゃったんだね。フラウロス君は迷子だからお腹空いてたんだ」

【シャー!(迷子じゃねえ、貴様が召喚したんだろうが! せーっかくかわい子ちゃんとラブラブしてたのに、みょーんて変な力で引っ張りやがって)】

 召喚者の前に強壮で恐ろしい豹の姿で現れるフラウロス。燃えるような目をした恐ろしい表情の男に変化する事もできるが、豹の顔を持つ毛むくじゃらの獣人の姿になる。
 三角形(トライアングル)の魔法円の中にいる時だけは『過去・現在・未来』にまつわるあらゆる問いに対して真実な回答をするが、普段はあらゆることに関して必ず嘘をつき騙してくる。

【グロリアが呼んだって言い張っとるけど、言葉が通じんとこをみると上手いこといっとらんのじゃろうね。しっかし、異世界転移かもって心配しとったけど異世界転移とは思わんかったねえ。
グロリアはやっぱり予想の斜め上をいく子じゃった】

「えー、それって冤罪でーす。呼んでない召喚なんかしてないから、お家に帰っていいよ?」

【シャー!(異世界だぞ!? 簡単に帰れるか!)】

【うん、帰れんねぇ。嘘つき悪魔じゃけど使い道はありそうじゃけ、契約したげたら? その方が安全になるしね。コイツ用の魔法円を準備しといて、いつでも放り込めばええし】

 魔法円の中でなら神聖な事柄や天地創造などの全てを喜んで語り、召喚者から求められればその敵を燃やし破壊する。他の精霊たちからの誘惑を被らないようにできるという。 彼に対抗する天使の名はメフリエル。

「契約かぁ。家に帰れないんだったらその方が良いかもね。じゃあ、名前は⋯⋯エル。メフリエルのエルに決定!!」

 フラウロスの身体が柔らかい金色に光り、血のような真っ赤だった眼が琥珀色に変わった。

【とんでもにゃい名前をつけて⋯⋯酷いにゃ、えぐっえぐっ。ララちゃんに聞かれたら捨てられちゃうかもにゃ】

「えー、可愛い名前だと思ったのになぁ」

【威嚇されまくったけんねぇ。グロリアは無自覚でやり返す特技持っとるけん、早めに諦めた方がええよ】

 フラウロス改めエルが涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔でさけんだ。

【ララぢゃーん、ずでにゃいでぇぇぇ!!】

【なんとも騒がしい悪魔じゃねぇ。しかも『にゃ』とか言いよるし?】

「グリちゃん、エルにゃは豹なのになんで『にゃ』って言うの?」

【ユキヒョウは元々は発声器官をもたんのよ。なのに無理やり喋っとるからじゃないかねえ。豹に変身して召喚されとったら違ったかも】

【ガーン! 豹より雪豹の方がかっこいいにゃってララちゃんにおねだりされたにゃ】

「確かに雪豹のモフモフは病みつきになりそうな予感がするね」

(落ち着いたらモフモフさせてくれるかなぁ?)

 ワキワキしそうになる手を押さえたグロリアがニンマリと笑い、すぐに羊皮紙を取り出した。

(名前は何にしようかなぁ⋯⋯『エルにゃ』は呼び名にして、専用の魔法円は⋯⋯)




 翌朝、朝食を終えグリモワールを前にしたグロリアがエルに向けて満面の笑みで微笑んだ。

「エルにゃ、ちょっとこっちに来てくれるかな~」

【にゃ? その呼び方はなんだにゃ?】

「気にしないで良いよ、それよりこれを着けて?」

 グロリアの手にあったのはポーチに放り込んでいた端切れで作った首輪で、中に魔法円の描かれた護符が仕込まれている。

【無器用なグロリアにしてはカッコようできとるね】

【そんな、首輪なんて嫌にゃ】

「ふーん、今日のお昼はソーセージの予定だったんだけど~エルにゃにはキャベツ?」

【ソ、ソーセージって⋯⋯にゃに?】

(ぐはっ! グラネちゃんに続いて⋯⋯萌える! 堪んない)

「町とかに入った時にこれがないと保健所の人に連れてかれちゃうんだ~(この世界に保健所があれば)他の動物とかと一緒に檻に入れられて⋯⋯」

【す、するにゃ。俺、その首輪気に入ったにゃ】

 素直に首を差し出したエルに首輪を結んで四郎ちゃんを構えたグロリアがニンマリと笑った。

「ではでは、今日初の実験ターイム!」


 《ララちゃんのおねだり~!》


【は?】【ブハッ】

「さて、エルにゃに幾つか質問ね。この世界に来て嬉しかった?」

【ふん、嬉しいわけないにゃ!】

「私たちに会えてお喋りできるようになって嬉しかった?」

【う、嬉し⋯⋯かったにゃ。置いてかれるかと思って不安だったにゃ⋯⋯あわわ! な、なんにゃ。なんでにゃ!?】

【上手く動いとるね。ネーミングセンスは問題じゃけどね】

「んじゃ、出かけようか。今日はもうちょっとリフィアの町の近くに行きたいよね」

 さっきのはなんだったのかと騒ぎ立てるエルを連れてグロリアは転移の実験をはじめた。



 学園から飛び出して10日目のお昼前、グロリア達はリフィアの町に向かう街道に近い雑木林に転移してきた。

「わぁ、馬車が結構走ってるね」

【リフィアに向かう病人やら怪我人を乗せとるんかもね】

「なんか感無量って感じ。漸くリフィアに辿り着きそうだね」

 転移実験を繰り返しかなり精度は上がってきたが、予定をかなりオーバーした上に食客が増えたので食材がかなり怪しくなっている。

 肉食獣で小動物・鳥・爬虫類・節足動物・魚などを捕食するはずなのだがエルは狩りを嫌がる。

(グルメだからって意味がわかんない。まあ、兎とか鳥を捕まえてきて『捌いて』って言われても困るけど)

「あの地図で大まかな方向と大まかな距離が分かるようになったんだから大成功だよね」

【ほうじゃね、グロリアのその前向きな姿勢はええねぇ】

【大成功じゃないにゃ! あっちこっち飛びすぎにゃ、グロリアはへっぽこ魔術師にゃ】

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