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第二章

79.挙動不審だった理由

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 翌日グロリアとジェニが学園に着くと職員室前の辺りは黒山の人だかりになっていた。

「掲示板を見に来たのかなぁ」

「多分な。それにしても凄え人数だな。とりあえず内容を確認していくか」

「うん」

 グロリアを見つけた生徒の態度は様々。目を逸らした生徒と腹を立てているような顔で睨みつける生徒は半々くらいで、申し訳なさそうな顔をしたのはごく僅かしかいなかった。

「なんとなくだけど結果が見えてきたな」

「うん、新しい噂がでたのと変わんない感じだね」

 グロリアとジェニが近付くと人並みが割れて掲示板まで真っ直ぐの道ができ、騒つく生徒達は横目でグロリアを見ながら友人と顔を見合わせてヒソヒソと話している。

「本当かしら?」

「正式発表だからほんとなんだろ?」

「ならなんであんな事が起きたの?」

 掲示板に張り出されたシグルドの停学理由は特定の女生徒に対する事実無根の噂を流し学内でのいじめを故意に誘発した事、学園内に混乱を招いた事となっていた。

 学園内に設置された魔導具で確認され、本人の自供もあったと言う内容。

 周りの興味津々の目を無視して教室に向かったグロリアとジェニは、付かず離れずで周りを取り囲む生徒に目を向けないように真っ直ぐ前を向いて歩き続けた。

「グロリア!」

 聞き覚えのある声がする方にチラリと目をやるとフットが満面の笑みを湛えて走ってきていた。

「アレ、フットだっけ」

「そう、フット侯爵家長男でシフの義兄」

「⋯⋯シフってアレか、ズラのシフ」

「ププッ、ジェニの悪戯でしょ?」

「ムカついたんだから仕方ねえじゃん。口を開きゃ自分が一番だってそればっかでよお。アイツはここがダメ、あの女はあれがダメって。うぜえのなんのって。んで、ちょっとでも気に入らねえ事があったらバンバン魔法打ってきやがるし」

「あ、それ今もおんなじ」

「グロリア、掲示板見たんだ。あの噂って嘘だったんだね、これで周りを気にせず話しかけられるよ」

 以前声をかけてきた時、妙に周りを気にしていた理由が分かってドン引きしたグロリアはフットを無視して横を通り過ぎた。

「あ、グロリア! 待って、今度フノーラと一緒にうちに遊びにおいでよ。きっと仲良くなれると思うんだ」

 慌ててグロリアの前に回り込んだフットが伸ばした手をジェニが払いのけた。

「婚約者でも家族でもないのに、軽々しく触るのは良くないんじゃないですか?」

「誰なのか知らないけど失礼だろ? そこをどいてくれ」

「私などの事はお気になさらず、きっとフノーラは楽しみにしていると思いますから」

「フノーラがね、グロリアと仲良くしたいのに嫌われてるからって悩んでたんだ。だから一緒においでよ。シフもグロリアと話したいって言ってるし、シフは結構頭がいいんだ。来年の入学だけど同学年になる可能性もあるんだろ? なら今から仲良くしておけばいいと思うんだ。
それと、例の事は誰にも言ってないんだけどさ、フノーラは勿論知ってるんだろ?」

 少し耳元に顔を寄せて聞いてきたフットがニヤリと笑った。

「それとも僕たちだけの秘密?」

「来年同学年になるかもってどう言う意味ですか?」

「ああ、ごめん。まだ学年が始まったばかりだからきっと挽回できるよ。なんだったら留年しないように勉強を教えてあげるからさ」

「プッ!」

 ジェニが吹き出し口を押さえた。

「私が留年しそうだと⋯⋯もしかしてフノーラが?」

「叱らないであげてね。すっごく心配してたからさ。妹と同学年になんてなったら可哀想だって涙まで浮かべてたんだ。だから僕が勉強を教えてあげるからね」

「⋯⋯ジェニ、行こう。馬鹿馬鹿しくて聞いてらんない」

「グロリア、恥ずかしが⋯⋯」

「フット様、よーく聞いていただけますか? 私は入学試験を満点の首席入学しました。新入生代表の挨拶は『役立たず』が首席なんて学園の恥だと言われ次席入学の方に変更になりました。
先日の中間試験も満点でしたが、留年する可能性はあると思われますか?」

 ジェニの腕を掴んで歩き出したグロリアの後ろからフットの声が小さく聞こえてきた。

「満点? で、でもフノーラが」



「超ムカつく!」

 大勢の生徒が立ち止まり興味津々で見ている中で平然と約束を破って声をかけてきたフットに腹が立った。

(前回の突撃訪問といい今回といい無視し辛い方法を狙ってるのがすっごくムカつく。あの突撃訪問の時の状況を見てもあの言い草! 次にそばに寄ってきたら本当に吹っ飛ばしてやるから。
しかも私が留年? 20年分の下駄は伊達じゃないんだからね!)

「凄えバカな奴」

「あんな奴二度と顔も見たくない! あの人って『フット家の王子様』って呼ばれてるんだって。『バカ王子』の間違いじゃん。頭の中に花どころか虫が湧いてる!!」



 予想外の邪魔が入り頭に血が上ったグロリアは教室に向かわず中庭に足を向けた。

(今日も妖精とエルフは元気いっぱい)

「あそこまでフノーラに洗脳されるとかマジヤバくね?」

「フット家はあの人とシフが財産を使い切って没落確定かもね」

「ああ、奴が管理しはじめた途端終わる未来が見えたぜ」

 領地経営は順調で鉱山からの産出量も増えているらしいが、そのせいでまたしてもグロリアは魔力タンクに狙われているとは⋯⋯。

(なんの因果か、どこかから突然飛んくるから避け方がわかんないし)





「スッゲエめんどくさい書き方だったよな」

「個人名を出さないようにしたらアレで精一杯だとは思うけど、噂に燃料を追加したようにしか思えないね。あやふやと言うか曖昧と言うか、すごく危険な書き方」

「間違いねえ、益々騒がしくなるだろうよ。例の事件にも触れないんじゃあ、もっと関心持って騒げって言ってるようなもんだぜ」

 昨日ヘニルが言っていた『力の限り守る』と言う言葉を思い出したグロリアは苦笑いを浮かべた。

「どした?」

「いや~、今頃学園長室で『力不足だった』とか言ってるのかなぁって思ったらウケた」

「違いねえな。それか、さっきの生徒達の反応なんか見てねえで悦にいってるか」

「わあ、そっちの方がありそうでムカつく」



 時間ギリギリに教室に飛び込むといつも通りエイルが教壇に立ち朝会がはじまったが、生徒達はソワソワとして話を聞いていなかった。

「エイル先生、噂が事実無根だと言うのはどう言う事ですか?」

「ラッセルね、どう言うとは?」

「学園内で虐めてなくても入学前とか学園の外とかもありますよね」

「それらも含めて虐めはありませんでした。噂は全て事実無根です。
幼少期からシビュレーとバナディスに交流は一切なく、バナディスの才能が枯渇したことについてシビュレーは関係がありません。
また、婚約者候補から外れたのも全く別の理由です」

「なら、どうしてマルデル嬢はシビュレーを怖がっていたんですか?」

「何もなくても『怖い』と口で言うのは誰にでもできます。事実確認をしようとした途端体調不良を訴えた挙句逃げ出したバナディスの言葉に信憑性があるとは思えません」

 生徒達から質問が出るたびにエイルの声に苛立ちが滲んでいった。

「マーウォルス様達は何かご存知だから態度を変えたのではありませんか?」

「彼らへの最終確認が済んでいないので何も言えません」

「でも、実際マーウォルス様達はシビュレーに傷つけら⋯⋯」

 生徒からの質問の途中でエイルが『バン!』と教卓を叩いた。

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