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第二章

76.謎が判明した瞬間

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「で、私の自由や幸せはどこにありますか? 私目線で考えた時信用に値する誰かはいると思いますか?」

「グロリアの身の安全を保証する。この件でグロリアが不当な扱いをされないよう善処するし、それ以降も今のような不遇な対応をされないよう力のある限り全力で守る」

 自分の予定通りの流れになったと確信したらしいヘニルが『安心していいんだからね』と言いながらグロリアにデザートのケーキを勧めてきた。

「学園長って変態っぽくて二重人格で胡散臭くて、詐欺師とかが似合いそうですね」

「へ?」「ぷっ!」「ブハッ!!」

 硬直したヘニルがグロリアとジェニを交互に見遣りながらボソリと呟いた。

「どど、どゆこと?」

「善処って必ずしも相手の意向に沿う対応をするって約束したわけじゃないですよね。力のある限り全力でなんて『力不足でごめん』って言えるように前振りしてるだけだし。それ、詐欺師の常套手段ってやつ。
その程度のことさえバレてないと思うなんて詐欺師としてもあんまり優秀じゃなさそう。
ヴィリは人間に動く力と知性を与えたんでしたっけ? 低レベルの詐欺師が与えた知性で生きてる人間だからこんなにバカばっかりなのかもって溜息が出ます」

「は? えーっと、つまりその⋯⋯僕がバカだから人間もバカ?」

「ブハッ! ブフフッ、腹が痛え」

 歴史上最高神と言われているのはオーディンだが知性では自分が一番だと自負していたヘニルは、グロリアの『お前はバカな低ランク詐欺師』宣言にポカンと口を開けて呆然としてしまった。

「うーん、そうとも言うかな? テヘ」

 口を押さえて真っ赤な顔で笑いを堪えていたジェニはグロリアと繋いだままの手を無意識に引き寄せた。

(かか、考えることが多すぎてすっかり忘れてた! ジェニと手を繋いだままじゃん、なんてこった。おっ、奥ちゃんコレは不倫じゃないからねー!!)

(グロリア、お前やっぱ最高~!)

 グロリアの脳内の叫びに気付かないジェニが引き寄せたグロリアの手の甲にキスをして⋯⋯固まった。

「ひやぁ~!」「うっ!」

 驚きすぎて悲鳴を上げたグロリアと自分のしでかした事に気付いて固まったジェニ。
 
「あら、素敵⋯⋯ふふっ」

 記念すべき瞬間をこっそり念写したエイルは『ヘルに見せちゃお』と思いながら含み笑いをした。

「は! こ、これは⋯⋯えーっと、その。アレだ! そ、尊敬? うん、よく言ったって尊敬の意をだな」

「う、うん。かか、勘違いなんてしてないから大丈夫。よ、よくある事だよね、多分」

「へ? ああ、その通り。勘違いなんてあり得んよな、俺達の仲だもん」

「俺達の仲? (俺達の仲⋯⋯)」

 真っ赤になって目を逸らし合う二人だが繋いだ手はそのまま。



「ヘニル、もう気が済んだかしら? あんたの作戦なんて絶対上手くいかないって言ったでしょ? あんた達って人間は自分達の指示に従う生き物だって思ってるし女は男の下だと思ってる。
そんな考えでいる奴の作戦なんてダメダメに決まってるって。
偉そうなクソウェルが見抜けない隷属が見えてるグロリア、クソウェルの隠蔽魔法を見破るグロリア。
ルーン魔術の全盛期に誰よりもそれを使いこなしてたと言われるあのクソ野郎オーディンよりも完成されていてバリエーション豊かな術式とスムーズな術の行使だってミーミルが大絶賛してたグロリア。
そんな子が簡単に思い通りになると思う方がどうかしてる」

(あんたなんて目の前にいるのが天敵のロキだって事さえ見えてないのにさ!)

「⋯⋯僕が与えた知性⋯⋯物事を知り考えたり判断したりする能力が劣ってたから」

「あの、劣ってたと言うよりも生きる環境とか基本条件が違うのを考慮してなくて、神至上主義の前提で考えてる気がします。
詠唱なしで魔法を使うのが当たり前で、なぜそれができるのかとかもっとできるようになりたいとか考えない神族と、詠唱しなくちゃ魔法は使えないし訓練しないと使えるようにならないから訓練も研究もする人族の違いみたいな感じ?」

「はぁ、どうしよう。ちびっ子の言うことが正しすぎて」

 テーブルに肘をついたヘニルが頭を抱えた。

「ちびっ子の見た目に騙されちゃいけないのに⋯⋯そこが僕の萌えポイントなのに」



「⋯⋯⋯⋯グロリア、帰るか」

「そだね、話は終わったしね」

 グロリア達が立ち上がるとガバッと顔を上げたヘニルも慌てて立ち上がった。

「まっ、待って! お願い、待って下さい。僕達にはグロリアの助けがいるんだ。グロリアに会って初めて僕等に光明が見えてきたんだ。
それにこのままだと危険だからグロリアを守りたいって思ってるのもホントだから!」

 テーブルに手をついて必死な形相でグロリアに懇願するヘニルの横でエイルはニマニマとしながら手元の紙を眺めていた。

(ふっふっふ、コレと引き換えならあの薬草くれたりしないかな~? ヘルが喜ぶのは~⋯⋯これこれ。本音がダダ漏れして真っ青になってるロキ。
あ、コレ可愛いかも。グロリアの嬉し恥ずかしいが見え隠れしつつの驚いた顔⋯⋯ロキに高値で売りつけちゃおうかなぁ。ここんとこ素材の採取してないから欲しい物がいっぱいあるんだよね~。ロトスにモーリュに⋯⋯ミスルトーがあればフィロソファーズストーンができるしぃ、ミルラは大至急だよなぁ)

 必死のヘニルや無表情のグロリアとジェニを無視して脳内でひとり舞い上がる生粋の薬草マニアは、今日のティウ達4人の異常な様子を見てスイッチが入っていた。

「ヘニルとロズウェルの野望なんて知ったこっちゃないもんね。ルーン魔術の可能性を広げたグロリア⋯⋯あたしも負けてらんないわ」

 本音がとうとうダダ漏れしはじめた事に気付いていないエイルの肩を悲壮な顔のヘニルがガシッと捕まえた。

「エ、エイル~。見捨てないでぇ!」

「ちょ! 触んないでくれるかしら? 男って嫌いなのよ」

「知ってるよ~、だから奴はあんな回りくどい事をしてるんだもん」

「⋯⋯なによそれ」

「医師のボーウス・V・リンドに決まってるよ~。ヴァーリからのラブレターじゃん、リフィア山の事を思い出して~ってさあ」

「⋯⋯」

 ヴァーリが司法神だった頃、エイルは一時期リフィア山に住み物静かな賢母と言われるフリッグに仕えていた。

「あの頃はちょくちょく顔を合わせてたかも。でも、それ以来会ってないんだけど?」

「その頃から一途に思い続けてるってことだよ~。純愛? すっごいよね~。エイルが人間界に飛び出した直後にヴァーリも人間界に降りるって言い出したって知ってる」

「知るわけないじゃない! 興味もないのに」

「ヴァーリ、かわいそ~。あっちこっち彷徨いながらエイルの行方探してたのにさぁ。エイルって気紛れだから苦労してたよ?」

 新しい薬や薬草の情報を求めてフラフラと様々な世界を飛び回っていたエイルは、定住したり特定の友人を作る事に興味のない生粋の薬草オタク。

「エイルってヘルとだけは仲がいいじゃん。で、探ってたらなんでか分かんないけどこの世界に居座って⋯⋯ゲフンゲフン⋯⋯住み着いた。エイルの気を引きたくて医師になって上下水道を発案して病院作ったわけ」

「なんでそこに上下水道が出てくんの?」

「衛生問題ってエイルの気を引きそうだからじゃない? リンドって名前にしたのもエイルなら気付くはずとか思ったんだと思うよ~」

 意外なところで名前の謎が解明!

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