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第一章

94.無限ループする総攻撃

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「あっ、それ俺も知りてえ。あー、漸く建設的な話になって父ちゃんほっとしたぜ」

 頭の中で『ビキニは分かる。ベビードールも多分。花魁とベリーダンスがなにかは聞いたらヤバい気がする』とモヤモヤしていたジェニが満面の笑みを浮かべた。

【チッ! セティはほんと空気読めないねぇ。もうちょっとでジェニがアワアワしそうだったのにさ】

 ジェニの笑顔とヘルの眉間の皺の理由が分からず首を傾げていたグロリアの横からハニちゃんが立ち上がり、身体強化してヴァンに突撃して行った。

(ハニちゃんの診断ではあの中でヴァンが一番強いんだね。うん、わたしもそう思うよ~)

「グロリア、どうしたの?」

「ああ、ごめん。えーっと、あれはねグリちゃんが教えてくれたんだ。魔力には属性がないって侯爵が言ってたけど本当は微弱の属性があるんだって。魔石とかって属性があるでしょ? で、それに魔力を入れる時って同じ属性持ちが入れるのが効率的なんだって」

「魔力に属性かぁ。初めて聞いたな」

「完全に解明出来てる訳じゃないって言ってたけど、侯爵が言ってたのと違って胸の器官は魔力の属性を増幅するのが役目じゃないかって」

 以前、役に立てなかったと落ち込んでいたグロリアにグリモワールが教えてくれた魔法のあれこれ。

「それで考えてみたんだけど、全く使えないか弱い魔法しか使えない理由は『属性』がないか弱いのが原因だけど、その『属性』の決定はどんな仕組みで成り立っているのか⋯⋯それが分かれば今より強い魔法や別の属性魔法も使えるようになるかもしれない」

「確かに『属性』についてって知らないかも。使える使えないとかも考えたこともなかったけどね」

 セティは生粋の元神、使えないものは使えないと言う神界での常識で考えているが、それはそれで間違いではないのだとグロリアは思っている。

「今回は『Cessiōne』に複数の人の魔力が蓄積してる可能性があるから、その属性を『増幅』するだけで色んな種類の魔術が出るはずだって思ったの」

「それでか。メジャーな属性は全部出たらしいからな。4大属性が一番多いのは当然だが、一回だけ闇魔法が出たらしい。
それでビビって実験が終了になったみたいだな」

「魔力に属性があるなら⋯⋯使う魔法の種類を決めて呪文を唱えるとそれに対応した適正値を第3の目が計算。魔力溜まりから必要量の魔力抜いて胸の器官が属性を増幅して魔法になる。
魔術なら護符が魔力の属性を強化すればその魔力が持っている属性の魔術がでる。
これが合ってるなら、恐らく魔力溜まりにある魔力は無差別に使われるんじゃない気がする。より効率的に魔力を使う為には必要な属性を持った魔力を使えるようにならなきゃだもの」

「となると、魔導具の使用で魔力の合う合わないが絶対にないとは言い切れない」

「うん、低い確率だけどあると思う」

 少し前までは『実りや成熟』は攻撃力や防御力を強化させるのだと勘違いしていたが、攻撃魔術を強化するのではなく魔力の属性を強化して魔力の正常利用またはスムーズな魔術の発動に繋げる。攻撃力に関しては使用する魔力の属性が正しく強化されているのと使用する魔力の量の違いではないかと推測している。



「因みにだけど新フサルクには《ヤラ》はあるけど《ユル》はないの。
《ヤラ》はコツコツと積み重ねる収穫・実り、努力とか継続とかのニュアンスがある。
《ユル》は死と再生の象徴の意味合いが強くて、再生する時期が来たとか復活・変化する時を知らせてくれる。そう言う意味での成熟って言うのがいいかも」

「あ、前に言ってた文字が増減して意味合いが変わったってやつだね」

「うん、微妙な違いなら力技で誤魔化せる場合もあるけど、全部が全部そうじゃないってやつ」

「俺やヴァン、ヘルがいないとこで実験したやつだよな~」

「(ギク)え? そうだっけ、忘れちゃったかな~」



 夕陽が庭を赤く染めはじめた。遊び疲れた者達はあちこちで呑気に寝そべり、スルトは『腹減ったっす』と言いながら厚切りの肉に齧り付いていた。

「スルト⋯⋯女子会⋯⋯巨人族って。夢が、販売ルートも」

 グロリアが小声でブツブツ呟いていた。

「スルト⋯⋯お前、スカート履いてみたくね?」

「ブハッ! ゲホッゴホッ。何すかそれ。タチの悪いイジメとか? あ、ウートガルザ・ロキに逃げられたせいっすか!? あれはしゃあないっすよ。ミュルクウッド王国は山だらけ、岩だらけっすからウートガルザ・ロキには最高のロケートンってやつっすから」

「ロケーションだろ? 脳筋が無理すんじゃねえよ」

「だってえ、ヘルとフェンリルがいるっす。俺のゆうえ⋯⋯え?」

「有益性かな?」

「そう、それっす。セティちゃんありがとうっす。有益性を示せば近くに置いてくれるはずだって、辺境伯が教えてくれたっす」

「なら、2択だな。今ならミュルクウッド王国かエスペラント王国の好きな方を選べるぞ?」

「⋯⋯ここで草むしりとかしたいっす。なんならヘルヘイムでギョッル川の掃除とかでもいいっす。ニヴルヘイムからゴミとか流れてきてそうっすからねぇ。
エリューズニルで雇ってもらえたら最高っすけどね。へへっ」

「ギョッル川はニヴルヘイムとヘルヘイムを隔ててるからなぁ。ゴミは⋯⋯ありそうな。
だがな、エリューズニルにはヘルが住んでるからお前は出入り禁止!」

【ニヴルヘイムに行ってクソ野郎オーディン退治でもしてくるなら考えなくもないさね。アレはマジでクソ邪魔でクソ目障りで⋯⋯さっさと消滅してくんないかねぇ】

 ヘルが『はぁ~』と色っぽく溜息をつくとスルトの日に焼けた顔が真っ赤になり顔がデレデレになった。

「うひょっ! 可愛い~、嫁に来て欲しいっす!!」

【フンっ! シンモラは元気にしてるかい?】

「あー、多分? あいつスヴィプダグルにフラれてからず~っと機嫌悪いっす」

【そう言やぁ英雄スヴィプダグルはフレイヤの愛人だっけねえ。グロリアの敵の愛人に懸想してるのがスルトの女房⋯⋯で、女房が守ってるのはロキがルーン文字を彫ったレーヴァテイン。
随分とややこしくて面白いねえ。ふふっ!
しかもスヴィプダグルはアタシの友達のエイルを男嫌いにしたクズだし?】

 ややこしい人間関係に首を傾げたグロリアに分かったのはスヴィプダグルとやらは敵で⋯⋯。

「ジェニはルーン文字が使える!」

「バーカ、あの時代の奴なら一文字彫るとか誰でも出来んだよ」

「そうなんだ。相談とかできるかもって期待したのに、残念」



「取り敢えず、当面は今まで通りの監視だな。クソビッチがダーインスレイヴを持ち出せば速攻で動くが、それまでは用心しながら泳がすしかねえ」

【ダーインスレイヴは厄介だよねえ、キラキラはヘルヘイムにいた頃からゆるゆるだったから、いつかやらかすんじゃないかと思ってたけど、よりによって魔剣を⋯⋯。
隣にいるヘズは残念な子⋯⋯頭の中が『カニスお間抜けでお馬鹿』だったし】

(うん、なんかすっごく分かる気がする。お間抜け仲間じゃないからね!!)

「スルトさん、浮気と二股は絶対ぜーったい禁止ですからね。ヘルには近づいちゃダメだから、接近禁止命令発動です。違反したらハニちゃんの無限ループする総攻撃仕掛けます!!」



 少しずつ仲間が増え一歩ずつ⋯⋯例えそれが亀の歩みでも着実に進んでいる実感にグロリアは小さく笑みを漏らした。


    

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