前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第二章

67.どんな感じになったかな? ワクワクが止まらない

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 翌々週、マーウォルス家の馬車が正門前に停まりティウが降りてきた。

「マーウォルス様だ!」

「体調はもうよろしいのですか!?」

「心配しておりましたわ!」


 騒然とする生徒達に向かって穏やかな笑顔を向けたティウは小さく会釈をして足早に教室に向かった。

「はじまるかな?」

「どうかなぁ、アイツが自分の罪を素直に認めると思うか?」

「⋯⋯思わない」

 正門の騒ぎを避けるようにして教室に向かうグロリアとジェニの後ろで金切り声が響いた。

「なんで待ってないのよ!!」

「へ?」

 振り返った先には目を吊り上げて地団駄を踏んでいるマルデルの姿があった。

「なんてこった、示し合わせて出てきたってこと?」

「いや、マルデルからの手紙には返事をしてないし面会も断ってたってヴァンが言ってたぜ?」

「⋯⋯なのに今日学園に来るのを知ってた? それじゃあストーカーみたいじゃん、マルデル怖すぎ」


 
 グロリア達が教室に着くとティウの席の周りにはクラスメイトが集結していた。

「お元気なお姿を拝見できて安心しました」

「ああ、うん。しし、心配してくれてありがとう」

「あの、お休みの間のノート作っておきましたの。良かったらお使い下さい」

「そ、それは助かる。手間をかけたね」

「とんでもありませんわ! マーウォルス様の為ですもの。みんなで話し合って手分けしましたから全教科揃っておりますわ」

「そうか⋯⋯つつ、追試を受けなくてはいけないから、すすす、少し、しし、心配だったんだ」

「マーウォルス様ならなんの問題もありませんよ。次の試験では是非実力を見せつけて下さいね」

「えっ、ああ。そそそ、そうだね」

 以前より歯切れの悪いティウは並べられたノートを前に少し俯いたまま返事をしていた。

「どうかご無理なさいませ⋯⋯」

「ティウったら、どうして先に行っちゃったのよ!?」

 甲高い抗議の声にクラスメイトの声が途切れた。

「ティウ! 聞いてんの!?」

「あ、いや。ととと、特に約束もしてい、いな、いなかったし」

「嫌だわ、ちゃんとお手紙を送っておいたのに⋯⋯そっかぁ、届いてなかったのなら許してあげるね。でも、お昼は必ずお迎えにきてね」

「⋯⋯いや、おおお俺は」

 ティウの様子がおかしい事に気付いたクラスメイトが騒つきはじめた。

「どうしたのかしら? マルデル様の誘いを断るなんて」

「まだ本調子じゃないからかも」

「マルデル嬢、あの⋯⋯マーウォルス様はまだお加減がお悪いようですし」

「煩いわね、余計な口を挟まないでよ! ティウ、一体どうしたっていうの!?」

 膝に座りそうな勢いでマルデルが顔を覗き込んでくると『ひっ!』と悲鳴をあげたティウがマルデルを突き飛ばした。

「マーウォルス様⋯⋯」

「事件前はあんなに仲が良かったのに」

「ティウったらひどーい、わざとだったらマルデル泣いちゃうんだからぁ。でもぉ、立たせてくれたら許してあげるよ?」

 尻餅をついたままティウに向かって左手を差し出したマルデルは胸に手を当てて少し低い声で名前を呼んだ。

「ティウ、こっちを見なさいよ⋯⋯ティウ、アンタが今すべきことは何か分かるわよね?」

 マルデルの胸元がホワッと光るとティウが真っ青な顔になって口を覆い教室から逃げ出した。

「ぎゃあぁぁぁ、たたた、助けてぇぇぇ」

(いや~、よく効くねぇ。てか、まだあるんだけどね~。ふっふっふ、ここんとこ嫌な思いしたから⋯⋯《あっかんべー》はいい仕事してくれそうで、良き良き)

 グロリアの隣で一緒に小芝居を見ていたジェニがプルプルと震えはじめ腰を浮かしながら囁いた。

「奴の様子見てくる」

(笑いが堪えきれなくなったんだ⋯⋯続きのストーリー教えてあげないからね~)



「あの、マルデル様⋯⋯大丈夫ですか?」

 近くにいた男子生徒が声をかけたがマルデルは爪を噛みながらぶつぶつと小声で何か呟きティウが走り去った方を睨みつけていた。

「あの、マルデルさ⋯⋯」

「なによ、煩いわね!⋯⋯もう、どうなってんのよ!」

 いつも明るく優しかったマルデルの変貌にクラスメイトが首を傾げ後ずさった。

「⋯⋯こわっ!」

「あんな人だったっけ?」

「なんかマーウォルス様に対しても偉そうだったし」

 ヒソヒソと話す生徒達の声が聞こえてきたマルデルがハッと我に返り、申し訳なさそうな顔ですぐ近くの生徒を見上げた。

「あ、ごめんなさい。ティウにこんな酷いことされて驚いたの⋯⋯手を貸してもらえる?」

 恐る恐るマルデルの手を取った男子生徒が美少女のアップに顔を赤らめたが、マルデルの変わり身の速さに女子生徒の目は冷ややかなままだった。



「ティウったらどうしたんだろう⋯⋯約束も破っちゃうしぃ⋯⋯もしかして誰かに何か言われたのかなぁ。『マルデルと関わったら痛めつける』って言われたとか⋯⋯なんでかわかんないけど、マルデルあの子に嫌われてるもんなぁ」

(うわぁ、なんか懐かしいやつがきたー! この後みんなが⋯⋯)

 目線を少し逸らしたマルデルが悲しそうに⋯⋯周りにはっきりと聞こえる声で独り言を呟くとクラスメイトの目が一斉にグロリアに集中した。

「そうか、朝からマーウォルス様のご様子がおかしいと思ったんだ」

「シビュレーを怖がっておられたなら納得だよ」

(やっぱり~、この後が想像できてため息しかでんわ)

「みんな! マルデルの事は心配しないで。マルデルにはみんなが優しくしてくれてるてしょう? だから、あの子は拗ねてるんだと思うの。関わったら私達みたいにされるかもって思っただけでマルデル悲しくなっちゃうから何もしなくていいからね」

「マルデル様、やっぱり優しい⋯⋯」

「大丈夫です。ここには大勢いますから何も出来やしません」

「でもね、とーっても恐ろしかったのよ? 今でも怖くって一人になるのが不安なの」

「安心して下さい、俺たちが守ります」

「私達も!」

(やっぱりそうなるかぁ。転生しても樹里は樹里のままだね、成長しないってある意味凄いよ)



「マーウォルス様に何を言ったのか知らないけど、ようやく出てこられたばかりの方に酷すぎるんじゃないか?」

「言ったのか言ってないのかも知らないのに非難するのはおかしくないですか?」

「言ったに決まってるでしょう? じゃなきゃあのマーウォルス様があんなに怯えられるなんてあり得ないわよ!」

 男子生徒の後ろからマルデルが怯えたような声で話しはじめた。

「みんな! あの子は本当に何も言ってないのかも⋯⋯いるだけで思い出しちゃうとか⋯⋯私もだからよく分かるの」

「そうだよな、こんなに長く休まなきゃいけないほどの事だったんだもんな」

「ウイルド様やガムラ様はまだ休まれてるみたいだしね」



「よう! お待たせ~、って何かあったのか?」

 白々しいセリフを吐きながらジェニが戻ってきてグロリアの隣の席に座った。

「ドールスファケレ様、ちょうど良いところに⋯⋯ちょうど我々の予想が確信に変わったところなんですよ」

「ほー、そりゃ良かったな。おめでとう」

 机に肘をついたジェニが興味深々の様子で少し身を乗り出すとソーニャが前に出てきて自慢げに説明をはじめた。

「数理学の研究室での事件についてお話ししたのを覚えておられますか? ここにおられるマルデル様は被害者のお一人なんですが、ハッキリとシビュレーが犯人だと断定されたんです」

「そうなんだ、その証拠が出てき⋯⋯」

「あの、初めてお会いした気がするんだけど⋯⋯貴方はどなたかしら?」

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