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第二章
64.臆病者にはあげない
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【ヒャズニングの戦いなら見てたに決まってんだろ? アタシはいつだって見てるだけ⋯⋯暇ならいくらでもあったからねぇ】
ヒャズニングの戦いはフレイヤが強引に手に入れた首飾りを手放したくないためだけに策を弄してはじめさせた戦い。
その戦いを終わらせない為にダーインスレイヴは魔剣にされたが、永遠に終わらないその戦いを起こすようフレイヤに命じたのはオーディンだった。
「なら分かるだろう、俺達が奴等を放置してたせいでアレは魔剣になったんだぜ?」
【だからって、ロキのせいじゃないだろ?】
「あん時、もっと早く決断するべきだったんだよなぁ。終わらせるのがマジで遅すぎた」
【だからティルヴィングを手に入れたってのかい?】
「⋯⋯」
【昔はさぁ、ロキってただの武器マニアかと思ってたんだよね。ティルヴィング見つけた途端探し物をやめちまってさ、ああそう言うことかって⋯⋯】
ダーインスレイヴは片手持ちの両刃剣。一度鞘から抜かれると血を吸うまで鞘には戻らず、決して癒えることのない傷で死に至る。
ティルヴィングは黄金の柄で錆びることなく鉄をも容易く切り裂き狙ったものは外さない魔剣。
鞘から抜くと闇の中でも輝きを放つこの剣は、悪しき望みを3度叶えた後に持ち主に破滅をもたらす呪いがかけられている。
「なんのことを言ってんのか、さーっぱりわかんねえ。頭にウジでも湧いたか?」
【2人でやめときなよ、アタシ達を捨てるのは一度だけで十分だ⋯⋯ソレとも嫁さんが恋しくなったのかい?】
「⋯⋯はあ! アレをどうやったら恋しがるんだよ!? 喧嘩売ってんなら買ってやんぜ!?」
【あらあら、世間一般じゃ良妻だって言われてるのにねぇ】
ヘルが『プッ!』と吹き出した後我慢できなくなったようにゲラゲラと笑いはじめた。
「あの女とは無理やり押し付けられて渋々だったってのはあるが⋯⋯ モラハラって知ってっか? 俺があちこち逃げ回ってたのはそう言うわけだったってこと」
【でも、捕まってる時毒蛇の毒液を洗桶で受けて助けてくれただろ?】
「ああ、むかーし昔のことまで持ち出してずーっとぐちぐち文句を言い続けながらな。すんげえ嬉しそうな顔して俺を拘束してる鎖を撫でてるのが超怖かった~。
んで、『あらやだ、一杯になっちゃった』とか言っていなくなりやがんの。代わりの桶が近くにあるんだから、ソレを渡してきゃいいのにギリ手が届かねえとこに態と置いてくんだぜ?
そんで、これがまたいつまで経っても帰ってこなくてよお。『お友達にあったからお喋りしてたのよ~』なんてニマニマしやがる。
なあ、アレが良妻か?」
【プッ! アッハッハ⋯⋯ご、ごめん。あん時のロキの情け無い顔を思い出したら⋯⋯グッ⋯⋯ブハッ! み、見てた。すんごい顔で怒鳴ってるロキとニマニマやらし~顔で鼻歌とか歌ってるシギュン⋯⋯。
元からヤバい女だって知ってたけどさ、イカれてるって感じだったねえ。
でも、ちょいざまぁって思ったのさ。アタシらを放置して何してんだよ! ってずーっとずーっと思ってたからさぁ。
ああいう女をメンヘラ女って言うんだろ?】
「父ちゃん可哀想⋯⋯ありゃメンヘラどころじゃねえ、サイコパスって言うんだ」
お腹を抱えて笑うヘルを見ながら項垂れたジェニの目はグロリアの部屋のある方に向けられていた。
【んで、マジな話どうすんの? 可哀想で見てらんないんだけど?】
「⋯⋯鏡越しで初めて見た時はヘンテコな服を着てすんげえ怒ってるからめんどくせえ奴だろうなぁって⋯⋯んでも、真っ直ぐこっちを睨む目がその見たこともねえほど⋯⋯ゴニョゴニョ⋯⋯で」
【おやおや、そんな初めから気になってたとはねえ。一目惚れってやつかい?】
「煩え、俺は何も言ってねえからな! 勝手に話を作るんじゃねえよ! 兎に角だ、しばらくは関わるのやめといた方がいいって思ったわけだ。
あいつ、5歳になっても真面に喋れなくってよお。『おうむにゃんにゃん』に『ちぇにゅーちゅ』だぜ?」
【人間は話しかけられて返事をするから言葉を覚えるんだってさ。異世界から無理やり転移させられたのもあったかもだしねえ】
「何度も『ゲニウス』って教えてたら『ちぇに』から『ジェニ』になったんだよな~」
【そろそろロキも前に進んだらどうなのさ】
「⋯⋯⋯⋯俺は転生を拒否した巨人族だ。今回転生したのは奴らを殺る為だけだし、理由がなけりゃ二度とどこにも転生しねえし年も取らねえ。
アイツは年をとって新しい人生がはじまって、今度こそ幸せになんねえとな⋯⋯二度と俺達とは関わることはねえし、次ん時は目の前にいても見えねえんだぜ?」
【それが寂しいから距離を置くってのかい?】
「⋯⋯」
ラグナロク以降狙ったお宝⋯⋯ ティルヴィングを探しながらずっと鍛錬を続けていたロキ。
(確実に復讐を果たす為には必ず敵を殺れるティルヴィングがいる)
世界中を探し回る途中で様々な武器・防具や魔導具を手に入れ、ロキの懐には溢れんばかりの危険物が集まった。
魔力を上げ魔法を鍛え剣を振る。勇者や賢者と呼ばれる者の戦術を盗み見して知識を蓄えながらの旅。
(俺の狙いはフレイヤとオーディン。それにはこれじゃ足りねえ、もっともっと上に登らねえと! 正攻法は俺にはできねえが悪知恵なら自信がある。あとは知識と戦略と⋯⋯魔法や剣術ももっとだ!!
邪魔する奴も全部殺ってやる! 覚悟しやがれ!!)
ラグナロクの前は誰よりも優秀な魔法使いだったオーディンの弟ヴェー。自信に満ち溢れ傲慢な態度で周りを見下すのは過去も今世も変わらない。
魔法の腕も知識もトップクラスのヴェーはロキなど歯牙にもかけていなかったし、己の力を過信し努力など無用と考えて今に至った。
相反する考えで長い時を過ごしてきた二人⋯⋯。
実力の差は当然だと余裕をかますロキと俺様に勝てる奴などおらんと豪語するヴェーが理解し合える日は永遠にこないだろう。
(守りたい者が増えりゃ弱点になってソイツが狙われる。考える脳のないクソビッチを殺った後はオーディンを殺る。そん時、俺と距離を置いてりゃグロリアが狙われることはねえ。だから俺は⋯⋯今の中途半端が一番なんだ)
【トリックスターが聞いて呆れるよ。情けなさすぎて、見ちゃいられないね】
ヘルが捨て台詞を残してヘルヘイムに戻って行った。
【二度とおやつを食いにくんなよ、来たらフルボッコにしてやるからね!!】
「ええ! マジか~。こないだの湖◯屋のポテチくすねとくんだったな~」
翌日、学園にバナディス伯爵が怒鳴り込んできてグロリアを出せと騒ぎ立てた。
「マルデル嬢が詳しい内容を話されたのであればお話しいただけますか? その内容によってはシュビレーとの面会も考慮いたします」
「心に傷を負った娘が酷く泣いている、それで十分だろうが! 犯罪者を守り被害者を追い詰めようとするなど貴様らは何を考えておるんだ!」
憤慨してテーブルを叩くバナディス伯爵の右手には杖が構えられていた。
「我々はその場にいたオリー教諭から話を聞いています。その内容はご存知のはずですし、仮にシビュレー嬢が攻撃していたとしても正当防衛にあたると正式に決定が下りているのもご存知ですよね。
それ以上は関係者が全員揃うまで詮索してはならないと陛下に言われたはずでは?」
「常日頃あの娘から虐めを受けていたと言う噂を聞いておるから、そのせいで繊細なマルデルは過剰反応してしまったに違いないんだ。オリーとやらは高等部の教師だからその経緯を知らなかっただけだろう」
ヘニルは前回に続き騒ぎ立ててばかりいるバナディス伯爵にうんざりしていた。
ヒャズニングの戦いはフレイヤが強引に手に入れた首飾りを手放したくないためだけに策を弄してはじめさせた戦い。
その戦いを終わらせない為にダーインスレイヴは魔剣にされたが、永遠に終わらないその戦いを起こすようフレイヤに命じたのはオーディンだった。
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「⋯⋯」
【昔はさぁ、ロキってただの武器マニアかと思ってたんだよね。ティルヴィング見つけた途端探し物をやめちまってさ、ああそう言うことかって⋯⋯】
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ティルヴィングは黄金の柄で錆びることなく鉄をも容易く切り裂き狙ったものは外さない魔剣。
鞘から抜くと闇の中でも輝きを放つこの剣は、悪しき望みを3度叶えた後に持ち主に破滅をもたらす呪いがかけられている。
「なんのことを言ってんのか、さーっぱりわかんねえ。頭にウジでも湧いたか?」
【2人でやめときなよ、アタシ達を捨てるのは一度だけで十分だ⋯⋯ソレとも嫁さんが恋しくなったのかい?】
「⋯⋯はあ! アレをどうやったら恋しがるんだよ!? 喧嘩売ってんなら買ってやんぜ!?」
【あらあら、世間一般じゃ良妻だって言われてるのにねぇ】
ヘルが『プッ!』と吹き出した後我慢できなくなったようにゲラゲラと笑いはじめた。
「あの女とは無理やり押し付けられて渋々だったってのはあるが⋯⋯ モラハラって知ってっか? 俺があちこち逃げ回ってたのはそう言うわけだったってこと」
【でも、捕まってる時毒蛇の毒液を洗桶で受けて助けてくれただろ?】
「ああ、むかーし昔のことまで持ち出してずーっとぐちぐち文句を言い続けながらな。すんげえ嬉しそうな顔して俺を拘束してる鎖を撫でてるのが超怖かった~。
んで、『あらやだ、一杯になっちゃった』とか言っていなくなりやがんの。代わりの桶が近くにあるんだから、ソレを渡してきゃいいのにギリ手が届かねえとこに態と置いてくんだぜ?
そんで、これがまたいつまで経っても帰ってこなくてよお。『お友達にあったからお喋りしてたのよ~』なんてニマニマしやがる。
なあ、アレが良妻か?」
【プッ! アッハッハ⋯⋯ご、ごめん。あん時のロキの情け無い顔を思い出したら⋯⋯グッ⋯⋯ブハッ! み、見てた。すんごい顔で怒鳴ってるロキとニマニマやらし~顔で鼻歌とか歌ってるシギュン⋯⋯。
元からヤバい女だって知ってたけどさ、イカれてるって感じだったねえ。
でも、ちょいざまぁって思ったのさ。アタシらを放置して何してんだよ! ってずーっとずーっと思ってたからさぁ。
ああいう女をメンヘラ女って言うんだろ?】
「父ちゃん可哀想⋯⋯ありゃメンヘラどころじゃねえ、サイコパスって言うんだ」
お腹を抱えて笑うヘルを見ながら項垂れたジェニの目はグロリアの部屋のある方に向けられていた。
【んで、マジな話どうすんの? 可哀想で見てらんないんだけど?】
「⋯⋯鏡越しで初めて見た時はヘンテコな服を着てすんげえ怒ってるからめんどくせえ奴だろうなぁって⋯⋯んでも、真っ直ぐこっちを睨む目がその見たこともねえほど⋯⋯ゴニョゴニョ⋯⋯で」
【おやおや、そんな初めから気になってたとはねえ。一目惚れってやつかい?】
「煩え、俺は何も言ってねえからな! 勝手に話を作るんじゃねえよ! 兎に角だ、しばらくは関わるのやめといた方がいいって思ったわけだ。
あいつ、5歳になっても真面に喋れなくってよお。『おうむにゃんにゃん』に『ちぇにゅーちゅ』だぜ?」
【人間は話しかけられて返事をするから言葉を覚えるんだってさ。異世界から無理やり転移させられたのもあったかもだしねえ】
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【そろそろロキも前に進んだらどうなのさ】
「⋯⋯⋯⋯俺は転生を拒否した巨人族だ。今回転生したのは奴らを殺る為だけだし、理由がなけりゃ二度とどこにも転生しねえし年も取らねえ。
アイツは年をとって新しい人生がはじまって、今度こそ幸せになんねえとな⋯⋯二度と俺達とは関わることはねえし、次ん時は目の前にいても見えねえんだぜ?」
【それが寂しいから距離を置くってのかい?】
「⋯⋯」
ラグナロク以降狙ったお宝⋯⋯ ティルヴィングを探しながらずっと鍛錬を続けていたロキ。
(確実に復讐を果たす為には必ず敵を殺れるティルヴィングがいる)
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魔力を上げ魔法を鍛え剣を振る。勇者や賢者と呼ばれる者の戦術を盗み見して知識を蓄えながらの旅。
(俺の狙いはフレイヤとオーディン。それにはこれじゃ足りねえ、もっともっと上に登らねえと! 正攻法は俺にはできねえが悪知恵なら自信がある。あとは知識と戦略と⋯⋯魔法や剣術ももっとだ!!
邪魔する奴も全部殺ってやる! 覚悟しやがれ!!)
ラグナロクの前は誰よりも優秀な魔法使いだったオーディンの弟ヴェー。自信に満ち溢れ傲慢な態度で周りを見下すのは過去も今世も変わらない。
魔法の腕も知識もトップクラスのヴェーはロキなど歯牙にもかけていなかったし、己の力を過信し努力など無用と考えて今に至った。
相反する考えで長い時を過ごしてきた二人⋯⋯。
実力の差は当然だと余裕をかますロキと俺様に勝てる奴などおらんと豪語するヴェーが理解し合える日は永遠にこないだろう。
(守りたい者が増えりゃ弱点になってソイツが狙われる。考える脳のないクソビッチを殺った後はオーディンを殺る。そん時、俺と距離を置いてりゃグロリアが狙われることはねえ。だから俺は⋯⋯今の中途半端が一番なんだ)
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