前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第二章

59.久しぶりに全員集合!

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「わあ、凄い! 予想以上の展開になったね~」

 ラプスが『ブヒン、ブルル』と嘶き歯を剥き出して威嚇するとドヴェルグ達が飛び上がり、マーナとイオルが悠然と歩きながらあちこちの匂いを嗅ぎディルス達をチラ見すると、尻尾を丸めて『キュンキュン』と泣きはじめた。

 見事な銀色の尻尾をフサリと揺らしたヴァンが我関せずと向かったテラスにはヘルが艶然とした笑みを浮かべて立ちグロリアに手を振っていた。

「じいちゃん⋯⋯ドベユクドヴェルグちらいだからなぁ。むかちかちられ齧られたんだって」

 ドヴェルグのはじまりは巨人ユミルの死体から湧いたウ◯虫。神々によって人間の姿と知恵を与えられた。

「その途中経過? 右往左往してた奴が昼寝してたラプスのケツに噛みついたらしいんだよな~。おーい、いつまでもしつこい事言ってっとグラネに嫌われるぞ~」

「(ムキッ)グラネは僕のこと嫌わないもんねーだ!」

 推定年齢4桁の四男坊(ラプス)は相変わらずジェニに上手に甘えられず突っかかっているらしい。

「ディルスやカニスは少しの間ヘルヘイムで暮らしてたでしょ。だから、あんなに怯えるのは予想してなかったなぁ。マーナやイオルには耐性ついてるかと思ってた」

「あっちにいる時も逃げ回ってたぜ? たま~にマーナがヴァンの振りして背後から吠えかかってよぉ、したらちびって泣き叫んでやんの。イオルはディルスが寝てるとこにニョロっと巻きついて起こしてたし。
ヴァンはデカくなって何気に近付いてよお、パシって尻尾で吹っ飛ばすんだぜ。んで、『いたのか』みたいな顔でニヤッて笑うんだ。タチ悪いだろ?
アイツら3匹はディルス達に恨みがあるからまだまだ甚振りそうだな」

「意地悪なのは父親譲りだね」

【ちんまいちゃん、おじゃぶちょんいちまいでちゅ】

 グラネがヘルから聞いた知識でディスってきた。

(私の前世のアレだよね~。山◯君、座布団一枚持ってきてぇ!)

 迫力満点で敷地内を闊歩しながら時折ディルスとカニスに牙を剥いたり真っ黒な口を開けて威嚇しているイオルとマーナ。

 ブロック・エイトリ兄弟は既に白目を剥いて立ったまま気絶している。

「あれ、絶対楽しんでるよね」

「帰る前に、どっちの姿でやるか楽しそ~に作戦練ってたぜ」

 パタンパタンと尻尾を揺らしているヴァンもなんだか機嫌が良さそうで、珍しくヘルの足元に寝そべっている。



 ジェニが変身を解こうとすると首を横に振ったグラネは両手を前に差し出した。

「チョコくだたい。このままのほーがたべやちゅいでちゅ」

「お、詳しいじゃん。さーてーはーいつもヘルに貰ってるな?」

「テヘヘ、グラネはいーこでちゅからね~。ひいじいちゃんとちあう違うでちゅよ」

 チョコを持ってヘルの元へと駆け出したグラネは⋯⋯芝の上で躓いて⋯⋯こけた。

「ひぃぃぃ! グ、グラネ~!!」

 心配性なラプスがゴオッという音と風を撒き散らしながら空を駆け、その勢いでブロック・エイトリ兄弟が吹き飛んだ。

「まだ人間体にゃ慣れてねえからなぁ」

 漸く目が覚めたドヴェルグ達が⋯⋯。

【おで、食われるだにぃ! あんちゃん、だずげでだにぃ】

【お、おでもだずげでぇだにぃ】



「お仕置きが終わったら仲良しになれるといいね。ペットが3匹から5匹になるなんて羨ましい~、私も頑張る!」

「⋯⋯泣き叫んでるドヴェルグ達はいいのか?」

「ちょっとだけお仕置きしたかったから丁度いいよ⋯⋯マルデルに脅されたにしてもあんな恐ろしい道具を作っちゃダメだもん」

 彼らの作った道具は今でもティウ達に影響を与え、この国の重要人物の子供達が理由も分からず目を覚まさないのは大変だと大騒ぎが続いている。

「ブロック&エイトリ兄弟の事は守るつもりだけど、被害を受けた当事者の一人としてはすこしお仕置きをしたいなーって思ってたんだ」

 グロリア達とジェニはヘルの方に向かって歩きながら騒ぎを楽しんでいた。

【グロニャァ⋯⋯だじゅげでだにぃぃー!】

 叫び声を聞いたカニスがエイトリの脚に飛びつき、ブロックを咥えたディルスと一緒に必死の形相で走って来た。

「ただいま~」
 
【や、奴等が来ただにぃ⋯⋯追い出されるだにぃ】

【グロリアァ、たしゅけてだにぃ】

「うーん、どうしようかなあ⋯⋯二度と他の人が困るような道具は作らないって約束できる?」

【おら、約束するだにぃ。良い子のドヴェルグになるだにぃ】

 ディルスに襟首を咥えられたままのブロックがブンブンと首を縦に振り、カニスに逆さ吊りにされたエイトリが涙と鼻水を撒き散らしながら叫んだ。

【しゃんぷ頑張るだにぃ⋯⋯おではローズちゃんよりグロリアの方が好きだにぃ~】

 ピキリとジェニの顳顬に青筋が立ちディルスの口からブロックが、カニスの口からエイトリがポロリと落ちた。

【ロ、ロキ⋯⋯こあい】

 カニスは尻尾を脚の下に丸め込んでプルプルと震えはじめ、エイトリはロキに襟首を掴み上げられた。

「ほう、てめえ喧嘩売ってんのか!? 買ってやんぜ~」

【ヒィ! ロ、ロキだにぃ⋯⋯こ、この嘘つきやろうめぇ! もっかい口を⋯⋯あ、フードが⋯⋯縫い付けてやるだにぃ!】

 ブラブラ揺れながら短い足を蹴り出すエイトリだが、揺れるたびに脱げそうになるフードに気を取られ明後日の方に足が向いている。



「へー、ここの家主が誰か知ってっか? 不法占拠やら住居侵入罪はなぁ、れっきとした犯罪ですがぁ?」

【おで達はその、グロリアが連れてきてくれてだにぃ?⋯⋯だから、えっと】

「ほほう、てめえらの作った道具で迷惑かけて住処を世話してもらって責任も押し付けるんだ。ほ~、最近のドヴェルグは益々悪質になってんなぁ。へえ~、ほお~」

【おでが作っただにぃ!⋯⋯おでが責任取⋯⋯ゴニョゴニョ】

 ディルスの前足にしがみついて涙と鼻水だらけの顔になったブロックがヤケクソで叫びはじめたが最後の言葉は小さすぎて聞こえなくなっていた。

「よーし、言質とった! キリキリ働けよぉ⋯⋯勿論エイトリもな」

【は! やられた⋯⋯ロキはやっぱりひどい奴だにぃ】

 ジェニの策にハマったと気付いたドヴェルグ兄弟が虚な目で空を見上げた。

(ジェニの目が据わってる、もしかしてエイトリの事嫌ってた?)



「ヘル、ただいま~」

【お帰り? まあ、いいか⋯⋯ボッチの学園生活はどうだい?】

「あー、もしかしてエイル先生から何か聞いたの? それなら全部バレバレだね、テヘ」

【エイルとなんか話すもんかね、アイツは自分の気が向いた時しか来やしないんだからさ。グロリアが学園に入る前にちょ~っと話したきりさね】

「でも、頼んでくれたって聞いたよ?」

【そりゃまあ、うちの意気地なしが放置プレイするって息巻くからさぁ】

 キョトンと首を傾げたグロリアの前に久しぶりのアレが出てきた。

「うわぁ、母さんのコロッケ!」

【アンタの母ちゃん、また山盛り作ってたからね】

「山盛り? じゃあ剣道習いに来る生徒さんにコロッケパンを出すつもりだったのかも」

 小学生以下の生徒には夕食に差し支えないくらいのちょっとしたおやつを出すが、中学高校の食べ盛りの生徒には惣菜パンを出すことが多かった母親を久しぶりに思い出した。

『幾つ食べても構わないけど、家で晩ごはんを残したら次からなしだからね』

『はい!』

(もう、顔もぼやけてきちゃった⋯⋯)



「さてと、食いながらこれからの予定でも相談するか」

 ジェニがグロリアの頭をグシャグシャと弄り倒しながら景気よく宣言した。

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