上 下
155 / 248
第二章

56.お悩み解決は、超吸収漏れずに安心⋯⋯

しおりを挟む
 エグエグと泣き続けるブロックに大量の林檎をお供えして許可をもらいネックレスにルーン文字を刻んだ。

【おでの力作がぁ⋯⋯エグエグだにぃ】

【あんちゃん、壊されるよりいいだにぃ。堪えるだにぃ】

 抱き合って泣く2人の前にグロリア特製の『超吸収漏れずに安心オムツ』をそっと置いてきた。

(これでもうお漏らししても大丈夫だよ)

 ティウ達4人の護符も準備した。それぞれにぴったりな『プチざまぁ』

(仕返し⋯⋯美しい言葉ですね! なんちゃって)



 いつもと変わらない朝、ホームルーム前の教室はワイワイがやがやと騒がしい。仲の良いグループで集まり楽しそうな笑顔を浮かべていたり、宿題を見せあったり⋯⋯。

 話の輪に入れないグロリアはいつもの席からポヤッと窓の外を眺めていた。クラスの誰かと目が合えば何を言われるか分からないし、楽しそうな人を見たら羨ましくなる。

 中庭にはいつも妖精とエルフが楽しそうに飛んでいるから、見ていると『私は一人じゃない』と勘違いできる。

(どうやるかが問題だよね。私が行くわけにはいかないっていうか、絶対面会したくないし)

 ぽやっと悩みながらいつまでも窓の外を眺めていると背の高い少年を連れてエイルが入ってきた。

(幻惑魔術でこっそり忍び込めないかなぁ。それとももっと長い《時間停止》ができるようになればいけるかも)

 椅子がガタガタと音を立て慌てたような嬌声が聞こえた後、ザワザワと生徒達が騒ぎはじめた。

「カッコいい! 転入生?」

「見たことない奴だな、誰か知ってる?」

(やっぱりエイル先生に話すのが一番早いとか)

「はい静かに! ホームルームをはじめます。今日から隣国からの転入生が来ました。自己紹介してくれる?」

(でもなぁ、この世界の誰かを信用するとか自信ないなぁ)

「隣国カルマール王国から来たゲニウス・L・ドールスファケレと言います。父は公爵家ですが次男なので呑気にしています。魔法は火がメインで他にも少し。ペットは犬が2匹と猫⋯⋯こんなところかな」

「凄い、他にもってことは多属性持ちかよ」

「カッコよくて公爵家で多属性持ち⋯⋯最高!」

(今、近くにいて確実に信用できるのってグリちゃんだけだよね。多分)

「席は自由だから空いてる席ならどこでも構わないから座って。教科書は準備できるまで隣の人に見せてもらってね」

 転入生が部屋をぐるりと見回すと女子生徒が頬を赤らめながら隣の席が空いているとアピールしたり、ライバル出現だと肩に力を入れた男子生徒が目を細めた。

「エイル先生、マーウォルス様達の席はキープしなくて良いんですか?」

 リーグの隣の席の女子生徒が手を上げた。

「先ほども言った通り席は自由だから、特に問題はないわ」

 あからさまにソワソワとしはじめた生徒が目線と仕草で猛アピールをはじめた。いつマーウォルス達が帰ってくるか分からない今、こんなチャンスは逃せない。

「先生、休んでいる生徒の席はどこですか?」

 エイルが3つの席を示すとそれ以外にすると言った転入生がスタスタと歩きはじめた。転入生の動きに合わせてクラスメイト達の顔が動いていく。



「ここ空いてるよな」

 ぼんやりと外を眺め一人脳内会議に勤しんでいたグロリアの机を転入生がコンコンと叩いた。

「へ? う、うわぁ!! な、なん、なん」

「転入生のゲニウス・L・ドールスファケレ。ファミリーネームは長すぎるからゲニウスで」

 声をかけられるまで全く気付いていなかったグロリアは、口をパクパクとさせながら固まっていた。

(な、なんでジェニがここにいるの!? まだ一年経ってないし!)

「大げさ~」

「白々しいんだから」

 教室内に嫌味が飛び交っているがグロリアにとっては日常茶飯事すぎて、虫が飛ぶ音以上に耳に入ってこない。

「ほ、他にもいっぱい空いてますから」

(ぜんっぜん聞いてないんだけど!? そばに来んな!! 先に聞いて色々準備してからじゃないとダメなんだから!!)

「教科書見せてくれよ、宜しくな」

「むむ、無理ですから! 別の席におねまいします(も、もう! 噛んだじゃないかぁ)」

「おねまいされません⋯⋯ぷぷっ」

 椅子を近付けながらゲニウスが耳元で囁くと真っ赤な顔になったグロリアが耳を抑えてのけぞった。

(ジェニの低音ボイス、凶器じゃん!)



 エイルが教室を出た途端一人の女子生徒が立ち上がった。

「あの、良かったら別の席にしませんか? 教科書もですけど、わたくし達なら構内の案内とかもできますし」

「あれ、この席って空いてなかった?」

 とぼけた顔で首を傾げたゲニウスが女子生徒に微笑み返した。ポッと顔を赤らめた女子生徒が胸を押さえて一歩後ずさった。

「いえ、空いてはいましたけどもっと前の方がいいと思いますわ」

「どこでもいいって言われたし、ここが気に入ったんでね。問題があるならはっきり言ってもらえるかな?」

 ジェニの声のトーンが少し下がった。



 女子生徒がグロリアを睨んだあと渋々引き下がり、授業がはじまると椅子をすぐ横まで移動させたゲニウス⋯⋯ジェニが念話で話しかけてきた。

(俺が入ってきたの見てなかっただろ)

(ちょ、ちょっと考え事してたんだもん)

(相変わらずぽやっとしてんな)

(⋯⋯嘘つき! 一年後って言ってたし、連絡もなしとか驚くじゃんか)

(寂しかった?)

(ば、バッカじゃないの!? だだ、誰がささ、寂しいとか⋯⋯ああ、あるわけないじゃん!)

(えー、俺寂しかったんだけどな~)

(へ?)

(頑張ったじゃん)

(⋯⋯⋯⋯と、当然! プラス20歳だもん、ふんっだ)

(俺はえーっと⋯⋯いくつだ?)



 1時間目が終わると早速女子生徒が押し寄せ、グロリアを睨みつけた女子生徒がシナを作ってゲニウスの方に顔を寄せて自己紹介をはじめた。

「アメリア・チチェスターと言いますの。是非カルマール王国のお話をお聞きしたくて⋯⋯良かったらお昼休憩をご一緒しませんか? カフェテラスにご案内させて下さい」

「あら、わたくしも是非ご一緒させて下さい」

 私も私もと生徒達が騒ぐ後ろから男子生徒も参戦してきた。

「お昼は僕達と行きましょう。学園の事を説明するのなら同性の方が聞きやすいでしょう?」

「君は?」

「申し遅れました、リデル・ソーニャと言います」

「ソーニャはここ暫くクラスのまとめ役をやってくれているんですよ」

 ソーニャの取り巻きの一人が横から口を挟んだ。

「まとめ役だなんて大袈裟だなあ。このクラスは今、3人休んでいるんだ。僕なんて彼らが出てくるまでの繋ぎみたいなものだから大したことなんてないよ」

 胸を張って誇らしげに言ったソーニャがみんなに向かって小さく手を振った。

「席も僕の近くにするといいよ。その方がなんでも教えてあげられるからね」

「いや、このままで構わないよ。それに昼はシビュレー嬢に頼んだから」

 しんと静まりかえった教室にソーニャの冷ややかな声が響いた。

「またお前か! なんでそんなに出しゃばりなんだ!?」

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...