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第二章

55.グロリアとグリモワールの密談

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「さっきのロズウェルの間抜けズラ⋯⋯スッキリしちゃった。アイツって魔法至上主義なとこがあるし今世では自分が一番優れた魔法師だって思ってるから」

「隷属って鑑定では分からないんですか?」

「ロズウェルに分からなかったということは、普通の隷属とは違うって事でしょうね。一体どんな方法を使ったのか予想もつかないわね」

「あの、一つ言っておきますけど⋯⋯私から情報を引き出すために来たのなら諦めて下さいね。口で上手く誤魔化されて後でショックを受けるのはいい加減うんざりしてるんです。だから、先に言っときます」

「ぷっ! グロリアは正直ねえ。大丈夫、何も聞かないから。
グロリアは間違いなく原因を知ってるはずだけど、それを口にしないのは何か理由があるんだと思ってるから聞かない。
さて、正門あたりには面倒な奴が集まってるから裏口に案内するわね。アイツらに見つかったら確実に拉致監禁コースが待ってる。
お迎えの馬車には裏口に回ってもらうか帰ってもらうかしましょう」

(もう、ここまできたらバレてもいいよね)

「エイル先生、伯爵家の馬車がきてるはずなんで御者にそのまま帰るよう伝えていただけますか? 私はここから転移して帰ることにします」

「私を信用してくれるって事?」

「いいえ、『コイツは転移できるんだぞ』って言いだしたら証拠を見せて下さいと言います。因みにこの部屋の魔導具はストップしてますから。ロズウェルさんの魔法でも聞き取れてませんし、エイル先生の魔導具もストップしておきました」

 エイルがソファの背にもたれて両手を小さく上げた。

「はぁ、降参。ネタを掴むためじゃなかったの。録音する気はなかったって断言するわ」




【エイルはええ子じゃったね】

「信用してもいいと思う?」

【それはグロリア自身が決めんといけんよ?】

「⋯⋯うっ! ちょっとあの子達のとこに行って来る!」

【その年から夜遊びはダメダメ! おじちゃんは許さんけんね】

「すぐ戻るって。どうせおじちゃん同伴だし」

 グリモワールをポーチに入れてジェニの庭に転移したグロリアは叫び声を上げて逃げようとしたブロックの襟首を掴んだ。

【グロリアか、驚かせるなだにぃ】

「ねえ、ドヴェルグの作った物で隷属になったのを元に戻すのってどうすればいいの?」

【えー、おではもうアイツらに関わるのは嫌だにぃ】

「でもさ、このままほっといてブロック達が関わってたってバレたら罪をなすりつけられちゃうかも」

 首を捻ってうーんと考え込んでいたブロックが頭を抱えた。

【あるあるだにぃ。アイツらは都合が悪くなるといつだっておで達のせいにするんだにぃ】

 ブルブルと震え出したブロックの足元に水溜りができた。

(この子達にオムツ作ったげようかなぁ)

【あんちゃん! 負けるなだにぃ】

 エイトリが声だけは威勢よく応援してきたが兄と同じくブルブルと震えている。

(やっぱりオムツ⋯⋯)



「なんで目が覚めないのか分かる?」

【多分マルデルとの繋がりが切れとらんからだにぃ。全権を手放した状態になっとるだにぃ】

「このままの状態でマルデルの目が覚めたらどうなるんだろう」

【運が良ければ引き摺られるだけだにぃ。繋がりの強さによって変わるだにぃ。運が悪けりゃおっ死んじゃうだにぃ】

「ネックレスがなくても支配できるってこと?」

【そうだにぃ。多分関わりが深すぎただにぃ。でなけりゃもうとっくに起きてるだにぃ】

(関わりが深すぎ⋯⋯うわぁ、意味分かりたくなかった~)

「⋯⋯もしかしてだけど、ネックレスを壊したらどうなる?」

【怖、めちゃめちゃ怖いこと言うだにぃ。一か八かの大勝負だにぃ。今の状態で壊したり修理したら、何が起きるかわからんだにぃ。
おでの、おでの最高傑作がぁ⋯⋯】

【あんちゃんしっかりするだにぃ、オムツはやだにぃ】



「壊すのも機能を変更するのもダメ⋯⋯マルデルが目を覚ます前にネックレスに反転魔術を刻んだら?」

【そっか、ルーン魔術なら⋯⋯でも⋯⋯ぶつぶつ】

(あ、だにぃって言わなかった)

【当分使い物にならんでもよけりゃ⋯⋯方法はあるけど、男としてはどうなんかなぁ】

「え、なになに?」

【神族の血と体液が関係しとるんじゃろ? なら、簡単じゃ思わん?】

「⋯⋯うーん、そうか! やってみる。ふふっ、ざまぁになったりして~。あー、それにもうちょっと追加しようかなぁ」

 その日からグロリアの部屋では毎晩遅くまでランプの灯りが灯されていた。

「グリちゃん、これって⋯⋯」

【グロリア、そっちのルーン文字は⋯⋯】


【あー、そこに入れたら効果が強うなるけん、男としての尊厳をゴリっと削れるんで】

「ふっふっふ、お主も悪よのう」

【へ?】

「あ、グリちゃんとじゃ『悪代官と三河屋さん遊び』できないかあ。友達も知らなくてさあ、父さんとしかできなかったんだよね。これはね⋯⋯」


「グリちゃんに悪代官は無理だね」

【えー、ワシ商人より代官の方が向いとる思うで?】

「そうかなぁ」


「ねぇ、フロディって元々女性恐怖症だったじゃん。だからさぁ⋯⋯」

【ふっふっふ、お主も悪じゃのう】

「⋯⋯30点」

【厳しすぎん?】


「グリちゃん、日本刀を光に翳しながら言うんだよ。あ、手がなかったか」

【わざとじゃろ? 今のぜーったいわざとじゃって知っとるけんね】


「ティウはすっごい偉そうだったよね~。ティウに学園入る許可もらったんじゃないっつーの」

【せっかくじゃけん、恨み晴らしたらええじゃん。たまにはスッキリせんとね】

「流石グリちゃん、心の友よー!!
リーグは知識欲バリバリで周りとかに『煩い』とか、俺の荷物に傷一つでも付いてたらって言われた時はムカついた」

【ほい、決まりじゃね】

「アルは殴られそうになったし、あの時も本気で切りかかってきた」

【男としても騎士としても最低じゃね。玉ひとつじゃ足りん】

「玉?」

【いや、なんでも⋯⋯次はフロディ?】

「見た目とかでディスってて超感じ悪かった。すっごい上から目線で『君なんかはさあ』って言うんだもん」

【決まりじゃね】

「問題はマルデルだよね。恨みがありすぎて決めきれないかも」

【前世の分もあるけんねぇ、悩んでもしょうがないじゃろ】

(そこが問題だよね~、うーん悩む)

【ん?】

「ここだけの話だよ。前世で樹里にされた事は許せないんだけどね、アレがなかったらジェニやグリちゃん達に会えてなかったんだって」

【⋯⋯グロリア】

「前世の家族と同じくらいみんなの事が好きって⋯⋯ねぇ。樹里に感謝はしないけどね」

【ワシらしかおらんのじゃけ、素直に言うたらええんで】




「⋯⋯初めて異性をね。す、好⋯⋯すっとこどっこいなグリちゃんには威厳が足りないと思うんだ」

【は? ルーン魔術の叡智を詰め込んだワシは威厳だらけじゃけんね。グロリアが厳しすぎるんよ】

「そうかなぁ、『じゃけんね』って言い方可愛んだもん」

【えっ? そうなん⋯⋯ちょっと照れるかも】


 グリモワールが年配者しか知らない『悪代官と三河屋さん遊び』をマスターした頃、全ての準備が整った。

「さて、後はどうしよっかなぁ」

【ざまぁ、言うちゃるんじゃろ?】

「⋯⋯今こそ悪代官になるチャンスだったのにねぇ」

【うわぁ、失敗してしもうたではないか! 今一度、今一度我に機会を与えてくださらぬかぁ!】

 すっかり時代劇にハマったグリモワールが本全体をヨジヨジとくねらせながらおねだりしてきた。

【ワン・モア・チャンス? プリーズなのじゃ~】

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