前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第二章

45.板だけど使い方はかなり違うと思う

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 イライラしたまま教室に戻ったら何をしでかすか分からないと思ったグロリアは、いつも教室から眺めている中庭にやってきた。

(ほんとムカつく~! 手を出すのはやめさせたいなんて偉そうなこと言ってたけど、マルデル達を目覚めさせる方法を調べてただけなんじゃないの? 隷属ってなってたけど教えてなんてやるもんか!?
世界を作るほどのお偉い元神ならその程度の事分かってるだろうし、隷属なんて簡単に解除するだろうしね。って事は『戦いが終わった後にお前がやったんだろ!? 吐け!』って事じゃん。
明日あたりティウ達が出てきて偉そうに歩き回ってても驚かないから! 私がやったんじゃないし、こっちは純粋なる被害者なんだからね!)

 中庭の花壇や植え込みには相変わらず妖精もエルフもおらず、風に揺れる花が寂しそうに首を傾げている。

「ねぇ、ここでしょっちゅうチラチラしてる黒い靄の子、隠れてないでさっさと出てきなさいよ! 待つのは今日と明日だけ、出てこなかったらお正月の羽子板勝負の時みたいに真っ黒く◯すけにしてやるんだからね」

 完全な八つ当たりでストレスを発散したグロリアは意気揚々と教室へ向かった。

【あ、あんちゃん⋯⋯】

【羽子板ってなんだにぃ⋯⋯板でボコボコにされるだにぃ】

【真っ黒んなるまでされたら、おでたち死んじゃうだにぃ】

【拷問は怖いだにぃ】

【あんちゃん、あのお宝は諦めようだにぃ】

 グロリアを見つめる靄はワナワナと揺れてふっと消えた。



 その頃学園長室では⋯⋯。

「き、嫌われた。僕の癒しが僕の癒しがあぁ⋯⋯」

「いい年して泣くんじゃねぇ、俺様の方が恥ずかしくなるだろうが!!」

 机に突っ伏してさめざめと泣くヘニルを眉間に皺を寄せたロズウェルがゲシゲシと蹴っていた。

「だって、あんなちっこいのに大人みたいなの知識と行動力だよ? も~、僕の理想にぴったりなんだもん。知性的な小動物⋯⋯ちょこチョコ動くのに頭の中は優秀なんて。最弱で最強とか凄くない?
あんなちっこいのに一人でテュール達をコテンパンにしたんだよ! テュールの戦略・ヘイムダルの知略・トールの戦力・フレイの回復と馬鹿力、それをぜーんぶ一人で!!
フレイヤがセイズを使えないって言っても、相手は5柱。最強の元神族5柱を相手にサクッと⋯⋯ああ、見たかったよお。
超絶ミニマムな小動物がドラゴンをやっつけるとこ、見たかったのにぃ⋯⋯捨てられた~」

「いい年して『もん』とか『にぃ』とか言ってんじゃねえ。それよりこれからどうすんだよ?」

「時期早々だったと言うことでしょうね。我々は今までグロリアに信頼される行動をとったわけではありませんから、時間をかけて知り合い話し合っていくべきでした」

「僕達の過去を聞いても驚いてなかったから理解はしてたと思うんだ。その上で拒絶されたんだよ! 僕もう生きてけないかも」

 グスグスと鼻を鳴らすヘニルを放置した3人が話し合いを続けた、

「あれほど高度なルーン魔術を今世で見ることができるとは思わず舞い上がっていました。前世の知識と融合したルーン魔術は洗練されていて奇想天外で⋯⋯私の中の常識を覆されました。
古フサルクの知識をどうやって手に入れたのか、アレの資料は全てラグナロクで燃え尽きたはずなのに。
それに加えて体術と剣術もかなりの実力だと思われます。手にしていたルーン杖はかなり特殊な能力を持っているように思いましたが、画像だけでは判明しませんでした」

 学園や国には報告していないがグロリア達の戦いは魔導具で全て記録してある。学園が設置していた魔導具のスイッチを切りアカデミーで特許を持っている、より高機能な魔導具をオリーが秘密裏に設置していた。

「グロリアは人間不信・神不信に陥ってますから仕方なかったのかも。テュール達が目覚める前に一刻も早く保護したいと思い過ぎてしまったのが敗因ね」

 グロリアなら元神族だと話してもすんなり受け入れるはずだと予想していた4人は内心かなり慌てていた。

 保護したいと言うのが一番の理由ではあったが、高度なルーン魔術を行使できるなら一日も早く仲間に引き入れたいと思ったのも事実。

「それでも保護してやらなけりゃヤバいだろうが。お前らが回りくどい言い方なんかしてっから失敗したんじゃね? 素直に『助けてやるから助けてくれ』って言やぁ良かったのによお」



(私はそれなりに信頼されてると思ってたんだけどな⋯⋯)

 担任として常に公平に扱ってきた自信があったエイルはかなり落ち込んでいた。

(グロリアが不当な扱いをされるたびに口を出して、不利益を回避できるよう立ち回ってあげていたのに⋯⋯まさか目も合わせずに席を立つなんて。それほどあからさまに守っていたわけではないけど、あの子には伝わってると思ってた)

 オリー教授はあの日グロリアとの間に連帯感のようなものが生まれたはずだと考えていた。

(戦いでは守られるだけだったがその後の処理は全て担当してグロリアが不利にならないよう立ち回ってあげたはずなのに⋯⋯まさか一言も声をかけず部屋を出るなんて)



「なあ、アンタらの考えてる事の予想がついてマジうぜえんだけど? やってあげたとかしてあげたとか思ってんだろうが、グロリアって結局のとこずーっと一人で戦ってきてるんじゃねえの?
まあ、聞いた話だけしかしんねえけどよ。
魔法や魔導具を使われてもバトルで勝ったのはグロリアの実力で、スプラウトに退学を迫られても実験を成功させたのはグロリアの知識だっただろ?」

 不機嫌になったロズウェルが大切な杖で床をドンと叩いた。

「マルデル達から完全勝利をもぎ取ったのだって本人だけの力だけだろ? ぼっちで戦って殺すどころかほとんど怪我もさせてねえ。被害が玉一つって奇跡に近いと思うんだけど?
俺様達が魔法を使うのと違って、ルーン魔術はそう簡単に覚えられるもんじゃねえよなあ。しかもグロリアは間違いなく生粋の人間だぜ。魔力量が異常なのは生まれつきのモンだが、魔術は相当な努力で覚えたんだと思う。
今12歳なら勉強と訓練の期間なんて知れてるはずだろ?」

「どんなに早くからはじめようとしても7歳か8歳くらいが限界でしょう。しかも古フサルクは現時点でほぼ資料が残っていないはずなんです」

 セイズやルーン魔術を使っていたものの殆どはラグナロクを生き延びることができなかった。転生した者は記憶をなくし、資料はスルトの放った炎で燃え尽きた。

「一体どうやって覚えたのか⋯⋯それにあの魔力量、真面じゃねえ」

「バルドルの気配がした」

 3人が話している間もメソメソと泣いていたヘニルが呟いた。

「は?」

「ムカつくけど、アレはバルドルの加護だと思う。僕のチビちゃんに勝手に加護を与えるなんて酷いよ⋯⋯。いや、加護とは言えないな。鑑定しても加護ありだとは出ないはず。でもバルドルに間違いないんだ。
人間に魔力を与えたのって僕なんだよ! それなのにチビちゃんに特別サービスしたのが別の奴だなんて」

「⋯⋯ヘニル、まともに説明してくれないか。間抜けバージョン封印で頼む」

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