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第二章

43.なんか色々変わってく

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 前回チラリと見ただけなので自信はないが、これ見よがしに飾られていた賞状やトロフィーが消えて風景画が飾られている。部屋が明るい気がするのでカーテンや絨毯も新しくなっているのかもしれない。

「スプラウトは学園長と一緒に牢に滞在中なんだけどね、国王が問題だったんだ~。面倒だからプチってしてたら時間がかかっちゃったよ、ほんと子供みたいな奴で何やってんだかって感じだよね~」

(⋯⋯聞かなかったことにしよう。国王をプチって⋯⋯このパンめちゃ美味しい)

「それに研究室作るのはダメだのなんだのぬかしやがったんで、図書室の下をくり抜いて地下室作ってやったぜ。専用のドアもつけたから今度貴様にも教えてやるからな」

 チラリと皿から顔を上げたロズウェルがフォークを持った手で器用にサムズアップしていた。

(見ない見ない、地下室とか聞いてないし⋯⋯あ、チキン柔らか~い。レモン風味大好き)

「僕の研究室はね、作るのが面倒だったからこことアカデミーを繋いじゃった。だから、荷物運ばずに済んで超ラッキーなんだ。
グロリアちゃんのカップは両方に揃えたからね~。こっちのカップはうさぎさんで向こうのは猫さんだよ?」

(うさぎと猫は聞かなかった事にしよう。だけど、空間を繋いだ? 転移魔法じゃなくて繋いだ⋯⋯それ見たい、すっごく気になるじゃん、わざと? わざとだよね。)

 チラチラと横目でヘニルを見てみると顔に『後でね』と書いてあった気がして少しガッカリしていると、オリー教授とエイルが揃ってやってきた。

「お待たせして⋯⋯ませんね」

 嫌味を言うオリー教授と苦笑いを浮かべたエイルが席に着くと、ロズウェルが皿に顔を突っ込むようにして料理を食べながら杖を一振りして部屋に防音結界を張った。

(防音結界って! めちゃめちゃ不安になるじゃないですか、もう帰っていいかな? デザートは残念だけど逃げた方が良さそう。
心臓がバクバクで⋯⋯もうちょっとしたらクラクラしはじめるかも)

「グロリアは食べ方もちまちましてて小動物みたいで可愛いねえ⋯⋯グハッ」

 テーブルの下でロズウェルの蹴りが決まったらしくヘニルが涙目になりながら脛に手を伸ばした。

 エイルとオリー教授もスプーンを手にして不思議な昼食会がはじまった。

(なんの集まりなんだろう⋯⋯有名なアカデミーの代表とメンバーと学園の教師でしょう。その中に参加してる新入生ってどう見ても変だよね~。あ、この人参甘~い)



 食事の間は所謂軽い話題が続いていて、ヘニル達が何を考えているのかちっとも分からなかったグロリアは取り敢えず料理に集中することにした。変態モードのヘニルが千切ったパンを口元に差し出してきても無視し、ロズウェルの肩に突然梟が現れても気付いていないふり。

 勝手にグロリアを念写しようとするヘニルと無言でヘニルに攻撃を仕掛けるロズウェルやのやり取りなど見慣れているのか、エイルとオリーは全く動じていない。

 グロリアがデザートのプリンを目の前に引き寄せた時ロズウェルがエイルに向けて声をかけた。

「おい、飯食い終わったんだが?」

 ロズウェルを横目でチラッと睨んだエイルが口元をナプキンで拭うふりをしてグロリアの方に向き直った。

「突然呼び出してごめんなさいね。ここではグロリアって呼んでいいかしら」

 話の予想がつかないグロリアは小さく頷いてスプーンを置いた。

「先ずは自己紹介をさせてもらうわね。今世の名前はエイル・リュヴィヤで、遠い昔は『最良の医者』と呼ばれたアース神族の女神。その時の名前もエイルだったわ。
薬草に詳しいのは昔も今も同じで、ヘルほどではないけど昔は死者を蘇生させることもできたの」

 ヘニルがスプーンでプリンを食べさせようとするのが邪魔くさいので気付かないふりを決め込んだ。

 諦めたのかスプーンを置いたヘニルが椅子ごとグロリアの方に向いた。

「僕はアカデミーの所長で学園長になったヘニル・V・アーサランドで、昔の名前はヴィリ。
弟のロズウェル・V・アーサランドは魔法研究所所長で学園の魔法理論を担当する。昔の名前はヴェー。
オーディンは僕達の長兄でアース神族だけど母親は巨人族なんだ」

(ヘニルがヴィリでロズウェルがヴェー? 同じ兄弟でも私の中にあるオーディンのイメージとは全然違う)

「僕達3人が巨人ユミルを殺害して、海岸で見つけたトネリコとニレの木で人間を作った。
オーディンは命と魂を、僕は動く力と知性を、ヴェーが言語と身体能力を与えた。
それから随分後になってからだけど、僕は人間に魔力を与え弟は魔法を与えたんだ」

 生真面目な顔で背筋を伸ばして話を続けるヘニルの向かいに座っているロズウェルは、追加で出した料理の皿に顔を突っ込むようにして食事を再開していた。

「因みにアース神族とヴァン神族が休戦する時人質としてヴァン神族の国へ送られたのはヘーニルに扮した僕とミーミルで、間抜けで優柔不断な王になって追い出されたのが僕。ミーミルはその時首だけおじさんになって送り返されたんだよね」

「私は数理学の教師ブロック・オリーですが、昔はミーミルと呼ばれたオーディンの伯父にあたる巨人族です。
ここにいるヴィリ⋯⋯ヘニルと一緒に人質として送られた運の悪い男です。首だけになった私はミーミルの泉でラグナロクを迎えました」

「⋯⋯」

 4人の事は少しだけ信頼できるかもしれない、信頼できるといいなと思っていたグロリアはひどく残念な気持ちになった。

(なーんだ、元神族とか親戚とか⋯⋯もうお腹いっぱいだよ。過去の記憶のない純正の人間に会いたいなあ)

 エイルの薬草にグロリアは何度も助けられ、入学してからも公平な態度で接してくれた。クラブ見学会の時もどうやって戦ったのか追求された時助けてくれたのを覚えている。

(クラス担任として良い方にも悪い方にも特別扱いしない先生だったから好きだったんだけどなぁ。ヘルの友達だって聞いてたのもあるし⋯⋯でもあのオーディンの兄弟と一緒にここにいるんだよね)

 オリー教授との出会いはかなり強烈だったが、マルデル達との戦いの時にとても良い人だと感じたグロリアは高等部まで進学できたら良いなぁと思っていた。

 オリー教授の連絡ですぐに来てくれたアーサランド兄弟達も『この世界にも真面な人がいる』と思わせてくれた。

(純粋なる善意だと単純に考えてたけど違ったのかも⋯⋯なんかなぁ、あちこちに元神族やら元巨人族やらがウヨウヨしててこの世界嫌いだよ。ラスボス登場って気がして凹んだ)



「この間マルデル達の話を聞いていた時の様子からして、今世に私達のような存在がいる事を知っていたんじゃないかと思ったのですが?」

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