前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

との

文字の大きさ
上 下
131 / 248
第二章

33.いいこと思いついたグロリアは超危険

しおりを挟む
「教授、後ろに下がって生徒達のとこへ」

「グロリアはどうするんだ」

「大丈夫、ただでやられたりなんかしない。絶対に勝つ!」

「私も魔法は使えるから、加勢するよ」

「ダメです、アイツらは同じ人間だと思って戦ったら絶対に勝てない。後ろにいるリーグの動きは止めるから生徒達を守って。私一人なら勝機はある」

「しかし君は魔法が使えんのに」

「魔法は万全じゃない。ほんの僅かな衝撃でも氷ができるように、世界にはいろんな方法があるから」

 小声で囁いたグロリアの横で手を握ったり開いたりしていたオリー教授が『すまん』と呟きじわりじわりと下がりはじめた。

「へ! センコーにも捨てられてやんの。なっさけねえなあ」

 アルの持つ偽レーヴァテインにパチパチと静電気が走りはじめた。

(やっぱり雷を纏わせた、多分見た目より強いはずだけど⋯⋯私の予測が正しかったらそれはかなりの愚策だと思う)

「どうした、『レーヴァテイン改』が怖いか? コイツはなあ、昔お前が刺されたダーインスレイブ魔剣よりよく切れるぜ。
ごめんなさいって泣き叫ぶまでじわじわと切り刻んでやる。マルデルを傷つけてごめんなさいって土下座するまで終わりにはしねえから覚悟するんだな」

 ティウはマルデルの前に立って腕を組んで高みの見物を決め込んでいるように見える。

(ティウが動いたらタイムアップになるはず。殺されるならもう隠す必要なんてないから、盛大にやってやる!)

 グロリアがポケットから出したフリをして『四郎ちゃん』を握りしめた。

「ウケる~、俺のレーヴァテイン改とダガーで戦うってか? そんなショボい剣で俺様に勝てるわけねえだろうがよおー!」

 アルが剣を大きく振りかぶった瞬間。グロリアはリーグに向けて《固まれ》を発動した。生徒達の前には《防御結界》と《土壁》を、部屋全体に《特殊結界》を張った。自分には勿論《身体強化》と《結界》

(さあ、これで4対1。部屋は完全密閉で水分を吸収⋯⋯水魔法と雷はじきに使えなくなる。あの時のジェニの強靭さから考えたら元神族は人族よりうんと強いはず⋯⋯殺さずやっつけるのは骨が折れそうだけど、やってやる!)

 スレイプニルと戦って全身骨折していても平然としていたジェニを思い出したグロリアは小さく頷いて四郎ちゃんを握り直した。



 アルの巨大な身体から力任せに振り下ろされた剣を左に受け流しながら《超完全吸収》で、アルとフロディのいる場の水分を全て奪い取り続けた。余裕をかましているティウとマルデルに《酩酊》

(あ、ティウに防御された。すご、気付かれるとは思わんかった。なら、マルデルにだけもう一回《酩酊》)

「な、なんだ!?」

 ティウの後ろから覗いていたマルデルがぐにゃりと床に座り込んでヘラヘラと笑いはじめた。

「マルデルー! フロディ、マルデルがヤバい。早く回復を!!」

 ティウの叫び声が聞こえ、フロディが手を翳した瞬間ティウとマルデルを《結界》で包んだ。

(回復はこーとーわーる!! フロディの足元に《魔法キャンセル》《腰抜け》の魔法円で、動けない・魔法出せないにして。
これで3対1)

 部屋が乾燥していくに従いアルの剣に付与した雷魔法がどんどん抜け落ちていく。

(ビンゴ~! 実験成功!!⋯⋯この世界には『漏れずに安心超吸収』のアレがなかったのよね。吸収しすぎて使い物にならなかったけどまさかこんな時に役に立つなんて、失敗は成功の元ってね)

 完全に雷魔法が消えて頭に血が上ったアルがレーヴァテイン改を振り上げてグロリアに切り掛かった。

「どりゃー!」

 力任せの攻撃でグロリアの首に向けて袈裟懸けに切り込んで来たがギリギリで躱したグロリアは、勢い余ってたたらを踏んだアルのケツを後ろから思い切り蹴り付けた。

「ごふっ!」

 本棚に頭から突っ込んだアルが膝をつきレーヴァテイン改が床に突き刺さった。

(制限時間内にかたをつけなきゃ!)

「はっ! でかい図体がぜんっぜん活かせてないじゃん!」

「フロディ! 何やってんだ!!」

「う、うん⋯⋯でも、なんで?⋯⋯ 大気に潜む無尽の水、光を天に⋯⋯」

 ティウの指示で魔法を発動しようとしたフロディが全て不発に終わり、慌てふためいて詠唱をはじめた。

(なにもできないはずの女一人に⋯⋯一体どうなってるんだ!? 魔法は使えないし魔導具の気配もない⋯⋯なのに、さっきの気配はなんだ? どうするのが正確だ? こんな狭い場所では魔法が打てんじゃないか!!)

「ええい、邪魔くさい!!」

 ティウの伸ばした右手にホヴズに似た剣ブルトガングが現れ詠唱をはじめた。

『命に飢えて光を貪る死神よ、今ここに来たれ、彼の者の精神を喰らい、破壊せよ《ソールイーター》』

「ティウって詠唱いらずじゃなかったっけ? なっさけなーい!」

(こっちは完全防御だからね~。ヨルムガンドの攻撃を防御した護符の改良版《ヴァンにも勝ったちゃん》だよ~)

「何故だ! 俺の即死魔法がぁ!!」

(こっちはもう一回《鑑定》⋯⋯マルデルは火魔法の初級か⋯⋯なら《土壁》《解放・移動》《酩酊解除》)


 ゴブン、ゴブン、ゴブン⋯⋯


 分厚い箱の中にマルデルを完全に閉じ込め、ポーチに溜め込んでいた水を移動。水が渦を巻きはじめマルデルがパニックに陥った。

「きゃあ! ゲホッ、ゴホッ、だ、だずげでぇ」

(全自動丸洗い機の完成⋯⋯心の汚れも落とせたら良いのにねえ。
取り敢えずはこれで2対1)

「さっきのって詠唱ありの威力マシマシ即死魔法だよね、ティウって最低!!」

 床からゆらゆらと立ち上がったアルはブルブルと頭を振って床から力任せに引き抜いたレーヴァテイン改を構え直した。

「ちょこまかしやがって、今度こそ仕留めてやる!!」

「暗い暗い暗い! ひゃあ、なんなのよこの水は!! テ、ティウ! アルでもいいから助けなさいよ!!⋯⋯アンタ達なにしてんのよ、ゴフッ、さっさと助けろぉ!」

 マルデルが叫ぶとアルはグロリアから目を離し、レーヴァテイン改を振りかぶってマルデルを拘束している箱に叩きつけた。

「やめろ! 中にマルデルが!!」

 ティウの言葉を無視して何度も箱を切りつけるアル。

「やめろー!!」

「脳筋熊は危険予測もできないって? バカは死ななきゃ治んないって言うけどここで死ぬのはやめてよねっと!」

 グロリアの揶揄いの途中で切り掛かって来たアルの剣をバックステップでかわし、中指を立てて挑発した。

「アルの剣ってクッソショボいじゃん」

(《溶解》偽レーヴァテイン)



「なんだこの壁は! ツルツルで全然刃が立たんじゃないか! 魔法は⋯⋯ダメだ、マルデルに当たったら」

 ティウが焦っているのが手に取るようにわかる。ティウが両手を箱につけた瞬間を狙い、《氷結》ティウ。

マルデルの閉じ込められた壁に手をついたままパリパリと音を立てて固まっていく自分が信じられず、呆然としている間にティウを《麻痺》させながらアルの攻撃をかわした。

(これで1対1)



「くそー、殺してやる!!」

 ぐにゃりと曲がり溶けていく偽レーヴァテインを見たアルが叫んだ。

「俺のレーヴァテインがぁ!!」

 柄だけになった剣を放り出したアルがグロリアに殴りかかった。巨大な握り拳の下でしゃがみ込んだグロリアがもう一度《身体強化》《硬化》

 最大限に固くした拳をアルの股間に突き上げた。

「ぐへぇっ!」

 ブシャ!

 痛みでアルが硬直した隙に横に転がり出たグロリアの側で、どしんと大きな音を立ててアルが倒れ込み気を失った。

(へ? なんの音⋯⋯き、聞かなかったことにしよう。うん)

 倒れたアルの近くに刃先が溶けてなくなったレーヴァテイン改の柄だけが転がっていた。

(終わった?)

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...