前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第二章

38.グリモワールとまったり

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【ヴェルンドの息子が作ったグングニルなんかよりブロック・エイトリ兄弟の作ったミョルニルの方が評価が高かったもんじゃけヴェルンドがヘソを曲げたんよ。
ほんで、腹を立てたヴェルンドはレーヴァテインを作った。おまけにロキがルーン文字刻んでしもうたけ、とんでもない武器になってしもうてねえ。慌てたロキがお片付けを頼んだんよ】

 グロリアは落としたネックレスに傷がついていないか確認しながら話を聞いていた。

「⋯⋯あ、分かった。それでまたへそを曲げたブロック・エイトリ兄弟がレーヴァテインを作ったんだね」

【多分じゃけど、そうじゃと思うんよ。あの兄弟は負けず嫌いじゃし、おんなじもん作って見せびらかすくらいの意地悪はしそうじゃね】

「それをアルが⋯⋯盗んだ?」

 剣の使い方がおかしかった今日のアルの動きを思い出しながら、グロリアは首を傾げた。

(普段の戦い方を知らないからなんとも言えないけど⋯⋯両手持ちで少し伸び上がるような全身の筋肉を伴った大きな動きとか、必要以上に腰を落としてるとか⋯⋯剣術と言うより重いハンマーを振り回してる方がしっくりくるような感じだったなぁ)

 ネックレスを握りしめて無意識にアルの動きを真似ていたグロリアの手の中でポワッと弱い光が煌めいた。



【マルデルが盗んでアルに渡したかもしれんよ? レーヴァテインは神器の中でも伝説じゃけ、アルの頭なら適当に誤魔化せるじゃろ】

「確かに、伝説の神器の改良版だといえば喜んで受け取りそうだね。まあ、溶かしちゃったけど」

【ひっ! ブロック・エイトリ兄弟が作った剣を? マジか~、グロリア強うなったねえ】

「そっかなぁ、グリちゃんに褒められるとめっちゃ照れるよ。んじゃ、ブロック・エイトリ兄弟を探してみようかな」

【へ?】

「今回の騒動に関係してるなら何か知ってる気がするもん。マルデルがどうやって接触したのかが気になるんだ。前にジェニがドヴェルグには簡単には会えないって言ってたでしょ? だから、どうやって居場所を突き止めたのかを知らなくちゃ」

【確かにそれは気になるよねえ。今日の様子ではフレイヤの記憶は戻っとるみたいじゃったけん。記憶だけならええけど女神の力が戻ったら危険すぎるもんねえ】


「うん、柄だけだけど回収してきたから、それを餌にしたら誘き出せるかなって。ネックレスもブロック・エイトリ兄弟の作の可能性があるでしょ?」

【⋯⋯グロリアが怖いもの知らずで、どうしよう⋯⋯おじちゃん、ものすご~い不安】

「ちょっと思いついた事があるんだ~」

【やめてぇ~、それそれロクなことにならん時のセリフ! グロリアが思い付くとなんかが必ず起こるんじゃけ】

 グリモワールが久しぶりにペラペラになって震え上がった。



「そう言えばロキってルーン刻めるんだったって今日思い出した」

【あの当時は一文字なら誰でもできたし、ダブルバインドくらいならできる子はよーけおったね】

「そっかぁ、それでも剣を最強にできたって事?」

【そやね。元々最強の武器じゃったけど、あの時のロキはなんか異常じゃったねえ⋯⋯ルーン魔術、怖いじゃろ】

 厚みの戻ったグリモワールがドヤ顔をしているような気がした。



「もう一個見てくれるかな、魔導具なんだけど⋯⋯害のない物って事はないと思うけど、問題ないならこっそり返そうと思うんだよね」

 ネックレスをポーチに片付けてマルデルのポケットから盗んだ魔導具を出すと、グリモワールが少しクネっとしたのは首を傾げたつもりらしい。

【相手を状態異常にする魔導具みたいじゃとは思うけど、魔導具はよう分からんねぇ】

「魅了っぽい気がするんだけどフレイヤ様には不要だろうし」

【試してみたら?】

「⋯⋯誰に?」

【うーん、学園生でグロリアを嫌っとる奴?】

「うっ、いっぱいいすぎて決めきれないと思う。解除できなかったら困るし」

【それなら魔導具売っとる店に持ってったら? それか、アカデミーとやらの人が来るなら魔導具に詳しい子もおるかもしれんよ】

「うん、そのどっちかにしてみる。なんかこれ気持ち悪いんだよね」

【⋯⋯なら、壊れとるんかも】

 怪しい魔導具を片付けて着替えをはじめたグロリアはネックレスが光った事も窓の外で黒い影が彷徨いていることにも気付いていなかった。

「さて、少し早いけど今日はもう寝ようかな。なんかすっごく疲れちゃったんだ」

【今までの中で一番魔術を使うたけんね。それでも魔力には余裕があるって凄い】

「ふふっ、それだけが取り柄ですから~」

【他にもええとこは沢山あるで? ないのは『ネーミングセンス』じゃね。『固まれ』『ねんねんね』とか、なんか聞いただけで脱力してしもうて笑いそうになるんよ。流石に『ヴァンにも勝ったちゃん』が鉄壁防御の魔術なんは止めようよ~。ルーン魔術の威厳とか神秘性が消えてなくなるけん】

「えー、アレは記念なんだもん。すっごく気に入ってる名前なのにぃ。『雪やこんこん』も不評だしなぁ」




 翌日、教室に着いたグロリアはいつもの席について窓の外を眺めた。

(闇の妖精ドヴェルグって人に似た姿と知性を持ってて地中とか岩穴で暮らすんだよね。太陽の光を浴びると石になったり体が弾け飛んだりするって言うから違うかも⋯⋯)

 中庭やフロディのそばにいた妖精やエルフを見かけなくなった日から、時々黒い靄のようなものが中庭の木陰や花の陰に現れるようになった。

 グロリアはチラッと見えては消えるそれを何度も探しに行ったが一度も近くで見た事がない。

(もしあれがドヴェルグだったとしたら餌で釣れると思うけど、違うものだったらちょっと怖いかも)

 妖精達がいなくなった日はマルデルがカフェテラスの2階に現れたのと同じ日で、その日から見かけるようになった黒い靄。

 相変わらず中庭には妖精達がいないので黒い靄を怖がっているいるのかもしれない。

(これに今まで気付かなかったなんて間抜けとしか言いようがないよね)



 エイルがやって来て朝のホームルームがはじまった。いつも通り今日の伝達事項が終わった時、グロリアの近くに座る男子生徒が手を上げた。

「先生、質問を宜しいですか?」

「サルーンね、何かしら?」

「マーウォルス様達はどうされたんでしょうか?」

「マーウォルスとウイルドとガムラの3名は体調不良でしばらく休みだと連絡が来ています」

「昨日、クラブ見学会で揉め事があったって聞いたんですが本当ですか?」

(うわぁ、もう噂が出てるんだ⋯⋯あの3人が関係する話は光速で広がるって感じだね)

「Bクラスのバナディス嬢をシビュレーが虐めて、それを止めたマーウォルス様達が被害を受けられたとか。かなり酷いお怪我と聞いていますが、クラスでお見舞いとかしないんですか?」

「⋯⋯はあ?」

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