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第二章

15.アルの言い方がなんか変なんですけど?

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 翌日から昼休憩と放課後にアル元戦神トールの襲撃を受け続けるグロリアのHPはダダ下がりで回復が全然間に合わない。

(心の疲れは薬や護符じゃ消えないんですけどお!)

 学園から帰ると疲れ果てた心をグリモワールが慰めてくれるのが日課になりつつある。

「グリちゃん、今日も泣きたいほど疲れた~。アルって超めんどくさーい。授業の合間の休憩時間は元神ズが彷徨くし」

【大変じゃねえ、奴等はしつこいけんエイルの狙いは失敗しとるみたいってかエイルのせい? 見とったけどアレじゃあ逃げとうなるよね、逃げれんけど】

「エイルの狙いってなんなのか知ってる?」

【想像じゃけど⋯⋯エイルはこっそりグロリアの様子を見にきたりしよるけん、ヘルが『うちの子よろ~』とか言うたんじゃないかって気がする】

「それであの4人に付き纏われてる。『親切が仇になった』って感じかも。お一人様最高、ぼっちバンザイ。元神は遠慮したーい」

 誰に遠慮することもなく話しかけてくれる人ができたのは嬉しいと言えなくもないが、周囲の目が辛すぎる。

(もう、ほんと堪忍して欲しい。一般ピープルがアイドルに紛れ込んで遊園地とか行ってファンから睨まれてるっていうシチュエーションだよね。いつか刺されそう⋯⋯あ、呪われそう。うん、こっちの方が現実味が少なくていいや)



「飯食いに行こうぜ、今日はプリン付きだぞぉ。んで、その後アレを見せて」

 巨大な熊が上目遣いでモジモジする姿は初めて見た。

(上目遣いをする為に態々床に膝をつくとかダメダメじゃん。汚れるし周りのクラスメイトの目を見てごらんよ! あの強烈な目つきだけで心臓が止まりそうなんだって!! お願い、気付いてってばぁ)

「子供じゃあるまいし、オヤツでは釣られません!」

「なら、散歩しねえ? 訓練場まで腕組んでエスコートとかしてもいいし、肩車してもいいしな」

「ティウかリーグと一緒にどうぞ。それに肩車は絶対無理!」
 
「ちょびっとだけ! ほんの、ほんのちょーっとだけ。なー、おねがーい!!」

 巨大な両手を胸の前でパッチンと合わせておねだりする熊。

「そんな大きな身体で座り込んだら邪魔です! それにパチンってしただけで教科書が飛びそうって、歩く自然災害ですか!?」

「なあ~、ちょびっと⋯⋯先っちょだけでもダメ?」

「しつこい! 剣術で先っちょなんてないじゃん!!」

 ロキと仲が良かったと言うアルトールなら信用できるかもと思うが、脳筋すぎて秘密の共有はできそうにない。

(前世で習った剣道だってバレたら、そばに誰がいても平気で喋りそうなんだもん。しかも大声で⋯⋯)

 バトルの後も何も言って来ないシグルドは恐らく前世の記憶を持っていないのだろう。大した腕前ではなかった飛偉梠だが、あれが剣道の基本の構えだと気付いたなら『なんで知ってるんだ!?』くらいは言いに来るはずだから。

(記憶を呼び覚ますようなキッカケは作りたくないし、そばに纏わり付かれるのも嫌だもん。このままみんなの記憶が薄れるのを待ちたいんだってば! ヒグマがみんなの記憶をわっさわっさと掘り返し続けなかったらそうなるはずだよね。『人の噂も75日』だもん。2ヶ月半? 長いなぁ)



 授業の合間の休憩時間や移動の時はフロディが周りと目を合わせないようにしながらいそいそとやって来る。

「次の授業って課題が出てたよね。難しくなかった?」

「さっきも聞いてきたよね~」

「次って教室移動だよね。一緒に行こうよ、荷物持ってあげるからさ」

「⋯⋯お花摘み行ってくるからお先にどうぞ」

「次は専攻かぁ、僕もそっちに移ろうかなあ。あ、グロリアが移るのもアリだね」

「刺繍勉強したいの? 女の子だけの授業でいいならどうぞ~。私は絵なんて描けないよ?」

 攻撃力マックスで追いかけてくる女子生徒の盾にしようとグロリアに付き纏うフロディは、穏やかな性格でゆったりとした話し方が耳に心地良い。

(何もない時なら話しやすいしすっごく良い子なんだろうけど、フロディが私を構うたびに女子からの視線が痛すぎて⋯⋯友達作るどころか刺されそうだよ。マジでヤバくなってる気がする。呪いのお手紙やらゴミが鞄や机の中に入ってるもん。
こないだなんて折れた剣先付きだよ!? 鑑定が使えなかったら『さっくり』いってたって。
⋯⋯そう言えば、ダーインスレイヴ樹里が盗んだ魔剣はどこに消えたんだろう)



 フロディと話せば話すほどフレイヤとは似ていないと思う。

(双子でも二卵性双生児なら例のテレパシーみたいなのってないんだっけ?)

 ジェニもキラキラも樹里とフレイヤの性格は似ていると言っていたが、フロディは正反対の性格に見える。

 少し気弱な物腰で自信なさそうに笑うフロディは、まるで迷子になった天使が成長したみたい。

 口に出すことは少ないが周りを気遣う姿やそっと手を差し伸べる場面を見かけることも多く、グロリアが『神は尊敬するべき存在』だと思っていた頃なら流石は神殿育ちだと感動しただろう。

(まるで正反対なのは昔からなのかなあ⋯⋯セティが仲良し生活を満喫してる理由は納得だよ)

 遠慮がちで強い口調で畳み掛けられるのは苦手な性格は昔はどうだったのかとか、剣術を敬遠するのが何故なのかとか聞いてみたい気もするが⋯⋯聞けば自分も話さなくてはならなくなる。

(怖い妹でもやっぱり情があったりするかもだし、逆に怯えすぎて言いなりの可能性もあるよね。気が弱すぎるからマルデルに強気で言われたら、涙目で言いなりになりそうだからなあ)

 学園内で誰を一番信用するかと聞かれたら『今世の記憶だけなら迷わずフロディ』と言う自信があるグロリアだが、自分の秘密を話せる相手になるとは思えない。

(セティ元気にしてるかなぁ。フロディに聞けたら良いんだけどなあ)



「ねえ、ティウかリーグと一緒に行動したら良いじゃない? そうなれば私の学生生活に平和が訪れてwin-winなんだけど」

「ダメダメ! あの2人の側はね、どこよりも危険なんだ。僕は女子生徒との関わりを避けたいんだけど彼らの側にはウヨウヨ湧いているだろ? うっかり側になんて行ったら彼等のついでにって捕獲されちゃうよ~」

「友達っていないの?」

「⋯⋯いるよ。ちょっぴりだけどいるにはいる。でも、神殿の外では付き合えないんだ」

「なんで?」

「えーっとぉ、友達と約束すると何故かそれを察知する子が必ずいるんだよねぇ。で、頼まれて断れなかったって言って連れてくる」

「あー、そうなると友達の手前逃げ出すわけにはいかないってことか。中々上手い作戦ね」

「だから、友達とは神殿内のプライベートスペースでしか合わないことにしてるんだ。あそこは女人禁制だから」

「って事はシスターとかも?」

「勿論だよ! 彼女達は女子生徒よりもっと危険なんだ。食べ物とか飲み物とかに近づけるから⋯⋯その」

「えっ、マジで!? 薬を盛られたことがあるとか⋯⋯」

 眉をヘニョリと歪めた顔に近くを歩いていた女子が倒れ込んだ。

「神!」

 見慣れた光景を無言でスルーしたグロリアは、肩を落としたフロディの腕を掴んでその場を離れた。

「大丈夫、今回はギリギリ意識を保ってたから」

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