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第二章
14.真剣勝負じゃないですよ?
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バトルが終わりやることがなくなったグロリアはこれから模擬試合をする生徒達を眺めていた。
真ん中でボソボソと話し込んでいる2人組はやや小柄な生徒で、魔法特化らしく剣の持ち方でさえ危うい。その近くではティウとリーグがお互いをチラ見しながら剣の握りを確かめている。
「よく聞け、俺の授業中は魔法は厳禁! 一度でも破ったら単位はやらんからな」
大声で怒鳴った教師に向けて鼻を鳴らしたグロリアはこっそりと中指を立てた。
(うっわー! さっき魔法詠唱した奴がよく言うよ。不発した途端2回目の詠唱はじめてたよねえ)
小柄な生徒2人が顔を見合わせてガックリと肩を落とした。
ティウとリーグは2人同時に右手で剣を振って重さと握りを確かめた後、剣を体の中心より外側に構え少し腰を落とした。
(ジェニもあんなふうに構えてたし⋯⋯もっと練習しとけば良かったかも。でもなぁ、なんか違うって思うんだもん)
父親から教わった剣道を忘れたくないグロリアはこの世界の剣術を拒否している。この世界の戦い方を覚えたら父親との繋がりがまた一つ切れてしまうようで⋯⋯。
(それじゃダメだって知ってるんだけどね。ジェイソンみたいな人に見つかったらアウトだし、物珍しがる人が増えて変に注目を集めても敵が増えそうだし)
今回のソーニャのように魔法プラス魔導具で攻撃してくる人やドナットのようにこっそり攻撃魔法を仕掛けてくる人も出てくるかもしれない。
(その度にルーン魔術を使ってたらいつかバレちゃうもん。ルーン魔術を使えるって知られないよう細心の注意が必要だよね)
剣を小脇に抱えて順番待ちする生徒やグロリアをチラ見する生徒がいるが、ティウ達に注目しているのは体格の良い生徒ばかりで小柄な生徒は雑談専門のよう。
(魔法特化の子って小柄な子の方が多いよね。練習量の違いだけじゃない気がする)
その割には⋯⋯グロリアは模擬試合をはじめたティウ達に目を戻した。
(体格は剣術メインっぽくて腕も確か。でも、魔法も規格外なんて元神族に依怙贔屓しすぎだよね~。聞こえてますかぁ、キラキラへっぽこ神様ぁ)
ジェニが自国に戻ってからピアスとイヤーカフはぴくりとも反応しなくなった。
夜な夜なグリモワールとお喋りして気を紛らわせているがやっぱり寂しい。
(グリちゃんが人型になったらいつでも⋯あ、ダメか。家族に見つかっちゃうとヤバいもん)
少しクラスメイトから離れた場所で体育座りしているグロリアには誰も話しかけて来ない。
(それにしてもあの2人って真剣勝負と間違えてないかな?)
恐る恐る剣を交えていた2人組はとうに模擬試合を終わらせているが、ティウとリーグは練習用の木刀が折れそうな勢いで戦っている。真剣な顔で2人の戦いを見つめる教師と生徒達の近くには、ティウ達が放つ無意識の威圧に気押されてカタカタと震える生徒もいる。
(試験もそうだけど、あの2人ってライバルなのかなあ⋯⋯それはちょっと、羨ましいかも。別にいいんだもん、ボッチ最高)
「やめ! 次、準備をはじめろ」
ようやく我に帰ったドナットがティウ達を止めて順番待ちしていた生徒に声をかけた。
あいも変わらず無表情のリーグに何やら話しかけるティウの2人が真っ直ぐグロリアに向かって歩いてくる。
「おつかれ~、本気のバトルかと思った。凄い迫力だね」
昨日の校内散策で敬語をどこかに落っことしてきたグロリアがタメ口で声をかけると周りの生徒達から『ひぃっ!』と悲鳴が上がった。
「グロリアの試合を見た後だから、ついムキになってしまった」
「ん?」
意味が分からなかったグロリアが首を傾げた。
「ソーニャってそんなに凄かったかなあ」
「⋯⋯はぁ、グロリアの方が気になったんだ。剣術なんてやったことがないって言ってたのに」
「へ? 伯爵家で習ったのか聞かれたから習ったことないって言ったよ? それに剣術はやった事ないのも本当の事だしね。さっきは⋯⋯立ってだけ?」
「あの構えはどこで習った?」
久しぶりにリーグが文章で喋るのを聞いた。
「えーっと、(今世では)自己流かな」
「今度対戦してくれないかな?」
「えー! 無理無理、ティウやリーグと戦ったらボコボコにされて終わっちゃう未来しか見えないもん。ティウ達なら身体強化なんてなくても、一瞬で勝負を決めそうだよ」
「「やっぱりな」」
「へ?」
「アイツ身体強化使ってただろ?」
「う、うんまぁ」
「後は?」
「えーっと、木刀に魔導具仕掛けて攻撃力上げてた」
「教師も」
「あ、不発で助かったかな~って」
「間違いなく発動したのに手から離れた途端消えたんだよな。あんな現象は見たことがない」
(ヤバい、全部知ってんじゃん。こっわ~)
「魔法無効なら」
「そんな高度な魔法が使える奴はここにはいないはずだが、観客の中にいたなら⋯⋯」
(元神のスキル⋯⋯気をつけよう。このままだと、あっという間にバレてリーグに監禁されちゃうよ)
未だに『ヘイムダルはルーン魔術の為なら監禁くらいするぞ』と言う言葉を信じているグロリアは、小さな身体をより一層縮めて目を逸らした。
午後の授業が終わり荷物を片付けていると、廊下から大きな声が響いてきた。
「グロリア! ちょーっと練習場覗いてみようぜぇ」
「ア、アルがなんでここに?」
「午後のバトル凄かったじゃん! アレ、もっかい見せて」
ズカズカと教室に入ってきた巨大な壁が、椅子に座ったままのグロリアの上から覆い被さった。
「こ、怖い怖い! そのでっかい身体で伸し掛かるのなし!!」
のけぞって顔を引き攣らせたグロリアの目に、お日様に照らされてキラキラ輝くアルの赤毛が迫っていた。
「見たことねえ構えでよ、たいして動いてねえのに⋯⋯んで、最後のアレだろ~? もう気になって気になって、明日までなんて待てん!」
「明日と言わず永遠に待ってていいですから。どうぞ、遠慮なく」
真ん中でボソボソと話し込んでいる2人組はやや小柄な生徒で、魔法特化らしく剣の持ち方でさえ危うい。その近くではティウとリーグがお互いをチラ見しながら剣の握りを確かめている。
「よく聞け、俺の授業中は魔法は厳禁! 一度でも破ったら単位はやらんからな」
大声で怒鳴った教師に向けて鼻を鳴らしたグロリアはこっそりと中指を立てた。
(うっわー! さっき魔法詠唱した奴がよく言うよ。不発した途端2回目の詠唱はじめてたよねえ)
小柄な生徒2人が顔を見合わせてガックリと肩を落とした。
ティウとリーグは2人同時に右手で剣を振って重さと握りを確かめた後、剣を体の中心より外側に構え少し腰を落とした。
(ジェニもあんなふうに構えてたし⋯⋯もっと練習しとけば良かったかも。でもなぁ、なんか違うって思うんだもん)
父親から教わった剣道を忘れたくないグロリアはこの世界の剣術を拒否している。この世界の戦い方を覚えたら父親との繋がりがまた一つ切れてしまうようで⋯⋯。
(それじゃダメだって知ってるんだけどね。ジェイソンみたいな人に見つかったらアウトだし、物珍しがる人が増えて変に注目を集めても敵が増えそうだし)
今回のソーニャのように魔法プラス魔導具で攻撃してくる人やドナットのようにこっそり攻撃魔法を仕掛けてくる人も出てくるかもしれない。
(その度にルーン魔術を使ってたらいつかバレちゃうもん。ルーン魔術を使えるって知られないよう細心の注意が必要だよね)
剣を小脇に抱えて順番待ちする生徒やグロリアをチラ見する生徒がいるが、ティウ達に注目しているのは体格の良い生徒ばかりで小柄な生徒は雑談専門のよう。
(魔法特化の子って小柄な子の方が多いよね。練習量の違いだけじゃない気がする)
その割には⋯⋯グロリアは模擬試合をはじめたティウ達に目を戻した。
(体格は剣術メインっぽくて腕も確か。でも、魔法も規格外なんて元神族に依怙贔屓しすぎだよね~。聞こえてますかぁ、キラキラへっぽこ神様ぁ)
ジェニが自国に戻ってからピアスとイヤーカフはぴくりとも反応しなくなった。
夜な夜なグリモワールとお喋りして気を紛らわせているがやっぱり寂しい。
(グリちゃんが人型になったらいつでも⋯あ、ダメか。家族に見つかっちゃうとヤバいもん)
少しクラスメイトから離れた場所で体育座りしているグロリアには誰も話しかけて来ない。
(それにしてもあの2人って真剣勝負と間違えてないかな?)
恐る恐る剣を交えていた2人組はとうに模擬試合を終わらせているが、ティウとリーグは練習用の木刀が折れそうな勢いで戦っている。真剣な顔で2人の戦いを見つめる教師と生徒達の近くには、ティウ達が放つ無意識の威圧に気押されてカタカタと震える生徒もいる。
(試験もそうだけど、あの2人ってライバルなのかなあ⋯⋯それはちょっと、羨ましいかも。別にいいんだもん、ボッチ最高)
「やめ! 次、準備をはじめろ」
ようやく我に帰ったドナットがティウ達を止めて順番待ちしていた生徒に声をかけた。
あいも変わらず無表情のリーグに何やら話しかけるティウの2人が真っ直ぐグロリアに向かって歩いてくる。
「おつかれ~、本気のバトルかと思った。凄い迫力だね」
昨日の校内散策で敬語をどこかに落っことしてきたグロリアがタメ口で声をかけると周りの生徒達から『ひぃっ!』と悲鳴が上がった。
「グロリアの試合を見た後だから、ついムキになってしまった」
「ん?」
意味が分からなかったグロリアが首を傾げた。
「ソーニャってそんなに凄かったかなあ」
「⋯⋯はぁ、グロリアの方が気になったんだ。剣術なんてやったことがないって言ってたのに」
「へ? 伯爵家で習ったのか聞かれたから習ったことないって言ったよ? それに剣術はやった事ないのも本当の事だしね。さっきは⋯⋯立ってだけ?」
「あの構えはどこで習った?」
久しぶりにリーグが文章で喋るのを聞いた。
「えーっと、(今世では)自己流かな」
「今度対戦してくれないかな?」
「えー! 無理無理、ティウやリーグと戦ったらボコボコにされて終わっちゃう未来しか見えないもん。ティウ達なら身体強化なんてなくても、一瞬で勝負を決めそうだよ」
「「やっぱりな」」
「へ?」
「アイツ身体強化使ってただろ?」
「う、うんまぁ」
「後は?」
「えーっと、木刀に魔導具仕掛けて攻撃力上げてた」
「教師も」
「あ、不発で助かったかな~って」
「間違いなく発動したのに手から離れた途端消えたんだよな。あんな現象は見たことがない」
(ヤバい、全部知ってんじゃん。こっわ~)
「魔法無効なら」
「そんな高度な魔法が使える奴はここにはいないはずだが、観客の中にいたなら⋯⋯」
(元神のスキル⋯⋯気をつけよう。このままだと、あっという間にバレてリーグに監禁されちゃうよ)
未だに『ヘイムダルはルーン魔術の為なら監禁くらいするぞ』と言う言葉を信じているグロリアは、小さな身体をより一層縮めて目を逸らした。
午後の授業が終わり荷物を片付けていると、廊下から大きな声が響いてきた。
「グロリア! ちょーっと練習場覗いてみようぜぇ」
「ア、アルがなんでここに?」
「午後のバトル凄かったじゃん! アレ、もっかい見せて」
ズカズカと教室に入ってきた巨大な壁が、椅子に座ったままのグロリアの上から覆い被さった。
「こ、怖い怖い! そのでっかい身体で伸し掛かるのなし!!」
のけぞって顔を引き攣らせたグロリアの目に、お日様に照らされてキラキラ輝くアルの赤毛が迫っていた。
「見たことねえ構えでよ、たいして動いてねえのに⋯⋯んで、最後のアレだろ~? もう気になって気になって、明日までなんて待てん!」
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