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第二章

9.長閑な学園ライフは来るか?

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「ですから、何に対して役立たずだと言ってるのか聞いてるんです」

「そ、それは魔法が使えないからだろ? この国では魔法が使えない奴はそう呼ばれるんだ。そんなことも知らないのか!?」

「いいえ、勿論知ってます。何年も前からみんなに言われてますから。でも、何故魔法が使えないだけで役立たずなのか不思議だなぁっていつも思ってるんですよね」

「は?」

 言い返されると思っていなかったソーニャは目をパチパチさせて口をポカンと開けた。

「例えば料理人は全ての料理を魔法で作るんですか? メイドは魔法で洗濯や掃除をするんですか? 貴族の領主は魔法で領地経営するんですか? 貴族の令嬢は魔法で刺繍をしたりダンスをしたり詩を読むんですか? 騎士は魔法で戦うんですか?」

「う、煩い! そんなのは詭弁だ! だったらお前に何ができるって言うんだ!? マーウォルス様やユピテール様達が近くにおられるからっていい気になるなよ!!」

 ティウに掴まれた腕を振り払いソーニャが大声を出した。

「うーん、では好きなのを選んで頂いて勝負しましょう。学園の校則の範囲内のものであれば構いません。確か、申請すれば正式にバトルできたはずですよね。正々堂々の勝負をしましょう」

 小さなグロリアが仁王立ちして腕を組んだが、ぺったりと張り付いた髪と汚れまくった制服では残念なことに少しも迫力が出ない。

「お、お前が⋯⋯『役立たず』が俺と勝負だと!? 巫山戯るのも大概にしろ」

 腕を組んだその態度は、魔法も使えない小さなグロリアの精一杯の虚勢だと踏んだソーニャが胸を張った。

「なら、剣術にしてやろう。魔法も使えず机上のお勉強しかできないお前にしっかりと教えてやる。その代わり負けたら学園を退学しろよ! 俺の情けだ、剣術なら正々堂々ボコボコにしてやれるからな!」

「では、私が勝ったらどうされるんですか?」

「ふは、僕に勝つ? ああ、そうか。魔法が得意だと聞いたから剣術なら勝てるかもと思ったんだな。バカバカしいが、お前が勝ったらなんでも言うことを聞いてやろう」

「剣術を選んだのはソーニャさんだと覚えておいて下さいね。何でしたら今から変更しても構いませんけど?」

 わざと少し不安そうな顔をしたグロリアが問いかけると、それを鵜呑みにしたソーニャは勝ちを確信した顔になった。

「は! 今更身の程を弁えたって取り消しはできないから退学は決まりだな」



 カフェテラスの掃除を見張るティウとアルに小さく手を振ってリーグやフロディと一緒に医務室にやって来たグロリアは、フロディの見事な魔法で制服や身体の汚れをキレイにしてもらった。

「魔法って凄いですね! こんなに簡単に綺麗になるなんて。ありがとうございます」

 汚れたまま帰らなければいけないと覚悟していたグロリアはホッと胸を撫で下ろすと同時に、今後のことを考えて汚れを落とす護符を作っておこうと決めた。

(制服の替えなんて持ってないから明日からどうしようって思ってたんだけど、今までなんで作らなかったのか不思議なくらいだよ。異世界ファンタジーでも《クリーン》の魔法は早い段階で出てきてたのにねえ)

「大丈夫なのか?」

「へ? スープはそんなに熱くなかったから大丈夫ですよ?」

「いや、バトルのほう」

「うーん、どうだろう。正々堂々のって聞こえよがしに言ったからソーニャは剣術を選ぶとは思ったんだけど、勝てるかどうかはわかんないなぁ。勝負は時の運って言うしね」

「は?」

「ソーニャの実力がわからないし、(今世では)と戦ったことないんですよね。まぁ、そこはそれ臨機応変に頑張るしかないと思ってるかな」

(ジェニやヴァンしか相手してくれなかったから人族がどんな感じか想像もつかないし、この世界の剣術は構えから何からいまだに苦手だし⋯⋯まあ、頑張ればなんとかなるよね。ジェニ達より強いって事はあり得ないもんね)

 テヘッと笑う呑気なグロリアを見てリーグが立ち上がった。

「断ってくる。若しくは代理人を立てる。アルに代理人を頼むのはソーニャに不公平だって言われるだろうが俺たちの誰かにするなら文句も少ないはずだから」

 珍しく長文を話したリーグは相当心配ならしく無表情の冷ややかな顔が微かに引き攣っているように見えた。

「ダメダメ! 勝っても負けても自分でやらなきゃ。ソーニャ以外にも同じことを考えてる人はいっぱいいるし、今じゃなくてもいずれ同じ事は起きるから」

「しかし意地を張って負けたら退学なんだぞ! それを考えたらここは⋯⋯頭を下げろとまでは言わんが頭を使ってだな」

 眉間に皺を寄せたリーグが言い淀んだ。グロリアの言う通り『役立たず』に喧嘩を売ってくる者は大勢いるだろう。今回逃げれば別のやつがいちゃもんをつけにくるのは目に見えている。

「早いうちに終わらせちゃえば長閑な学園ライフがやってくるかもだし」

 ニパッと笑ったグロリアの顔を見て肩の力が抜けたリーグが大きな溜息をついた。

「流石フォルセティの友達だな」

「ええっ! グロリアってフォルセティと友達なの? フォルセティなら今僕んちに居候してるよ」

(マズい、どうやって誤魔化そう⋯⋯ん? って事はフロディは『フレイ』なんだ。通りで嫌な感じがしたはず。フレイヤの双子の兄ちゃんだもんね。
リーグはヘイムダルで、フロディがフレイ。じゃ、じゃあティウとアルも⋯⋯最悪スペシャル。
因みにセティって働きに行ったんじゃなくて居候なんだ。なんだ、うちにいた時より断然高待遇じゃん)

「あー、いや。コイツは奴が誰か知らないんだ。もう何年も前の話だしな」

(ち、沈黙は金⋯⋯嘘はついてないもん。黙ってるのと嘘は違うはずだよね。ごめんなさい!)

 黙っているうちに取り敢えず問題を回避できたらしいので、頭をバトルの話に切り替えてもらおうと話を振った。

「バトルって申請してからどのくらいでできるのか知ってる?」

「神殿に所属してる神官って魔法師団希望の奴からバトルを申し込まれる事が多くてさ、その時は大体2週間以上かかってる。でも今回は早いんじゃないかなあ」

 学園はグロリアを一日も早く退学させたがっているに違いない。それならバトルを早めてさっさと退学させようとしてくるだろう。

「それは半分ラッキーかも。何日も指折り数えて待つのは面倒だから2週間も待ってたらカビが生えそう。練習時間は少なくてもまあ大した違いはなさそうだしね。
あ、でも明日とか言われたら困るけど」

 顔を引き攣らせるリーグと準備はいらないのかと聞いてくるフロディに元気よく笑いかけたグロリアは、今日も通常運転の能天気さを発揮した。

「あっ、お昼ご飯食べ損ねた!」



 見事にフラグを立てたグロリアのお陰でバトルが翌日の午後に開催されるのをまだ誰も知らず、慌しかった学園初日が過ぎていった。

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