前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第二章

7.今年はハズレです! アルゲス・T・ユピテールまで来ましたからね

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 今年の1学年Sクラスは当たり年だと言われていたその理由は⋯⋯。

 ティウ・T・マーウォルス公爵家長男
 リーグ・H・ウイルド伯爵家長男
 フロディ・F・ガムラ侯爵家三男

 Sクラスの女子生徒は目をぎらつかせて婚約者の座を狙い、男子生徒は栄えある将来への繋がりを求めて鼻息を荒くしていた。彼等の合言葉は⋯⋯。

「人生最大のチャンスを手にする為に!」



 この後の休憩時間には別のクラスの生徒達が廊下に集結するとは知らないグロリアは、グループ決めがはじまった直後から異様な熱気に包まれはじめた教室に困惑していた。

(なんだろうこれ⋯⋯『今年もやって参りました格闘技選手権! いやぁ、すごい盛り上がりですね~』みたいな。
フンスフンスって鼻息荒くなってたり、貧乏ゆすりはじめたり⋯⋯。あっ、あの子は隣の子にメンチ切ってる。
なんか不気味~。ただのグループ分けだよね? それでここまで燃えるとか、この国の貴族子女ってヤバい人ばっかりなの? うーん、友達は諦めようかなぁ)

「20人だから4人組を5つ作ります。ここにくじを作ってきたから一つ取って次に回して。それから、全員に行き渡るまでは開かず待っておくように」

 エイルが左端の生徒に箱を渡すと、気合を全身に漲らせた生徒達が一枚紙をとっては次に回していく。

(あ、私最後だ~。残り物には福がある⋯⋯どうかクラスの中で一番大人しくて地味な生徒のグループでお願いします。さっきの恐い子とは別になりたいです!)

 この後の数時間の平和を祈っていたグロリアの前にきた箱の中から最後の紙を取り出し、パッと箱が消えて教卓の上に現れるとクラス内の緊張がますます高まっていった。

(凄い、転移の魔法だ! 自分以外を転移させるのは大変だってジェニが言ってたんだけど流石学園の先生だね!
魔法師団じゃなくても教師って凄い魔法が使えるんだ、カッコいい~)



「さあ、開いたら中にある番号毎にグループを作って。番号に丸がついてる人がリーダーになるから手を上げて。
一番のリーダーは誰? じゃあその前に立ってね。二番はそっちに、三番は⋯⋯」

(最悪だ! 誰に頼んだんだっけ? まさか間違ってこの世界の神に頼んだとかじゃないよね⋯⋯なんで丸がついてんの? ううっ)

「ラスト、五番のリーダーは誰?」

 キョロキョロと辺りを見回しながらグロリアは席を立って手を上げた。

「シビュレーね。では、全員荷物を持ってリーダーの元に集まって出発の準備をしておいて。案内してくれる上級生はもう直ぐくるはずだから」

 グロリアの側に出来上がった巨大な壁は安心したように笑い合っているが、その中に埋もれたグロリアは壁の外から突き刺さる射殺さんばかりの強烈な視線で息もできなくなりそう⋯⋯崩壊寸前の精神状態で下を向いていた。

(えーっと、前世といい今世といい⋯⋯なんか悪いことをしたのかなぁ。やっぱアレか⋯⋯ちっちゃい頃お供えのお饅頭をくすねてたから? それとも草むしりしないでお昼寝してたから?
食いもんの恨みは怖いってやつ? 今からでもお供えしたら届くかなぁ。庭も掃除するから)

 現実逃避していたグロリアの上から今日何度も聞いた面倒くさい奴の声がした。

「リーダー、宜しくな」

「マッマ、マーウォルスさん! くじをその取り替えっことかしませんか? 勿論、他の方でもオーケーです!」

「ちっこいくせに往生際が悪いな」

「ウイルドさん、ちっこいからこそ生存競争に打ち勝つ為には最善を尽くさなくちゃダメなんです! 小動物は大型の魔獣の前に出たら瞬殺されます。ちょいっと踏み潰されるかパクッとやられるんです。
その理論から考えると、このグループに参加したらダメだと思うんですよ。弱肉強食の世界で最弱の私が王者の中に埋もれるのは非常に危険でして」

「⋯⋯僕はこのグループが良いな。女の子がいなくて助かる」

「ガムラさん、お言葉ですが生物学的には私も女性の中に入っておりまして⋯⋯はっ! 私が他のグループの男子生徒の誰かとチェンジしましょう! ねっ! そうすればガムラさんも安心してこの後の時間を過ごせます」

「いや、他の奴が入ってくると面倒な事になる」

「だな」

「うん」

 グロリアの気持ちを無視したまま3人の意見が纏った。

 ほぼ間違いなくこのクラスの生徒全員が同じグループになりたいと願っていた3人が見事に集まり、同じグループになったグロリアにはその生徒達から呪詛がむけられている。

(呪いかなぁ、厄日かなぁ。初日で既に落とし穴にハマってる感じがするんだけど)

 ほっとした顔で雑談をはじめている3人だがグロリアがそれに参加することは絶対にない。今日はもう間に合わないがグロリアはぼーっと『認識阻害』の護符の術式を考えはじめた。

(今日だけ辛抱すれば、そしたら明日からは静かな日々になると信じて頑張る! 念の為、今晩のうちに護符を作っとこう)

 他の生徒達の様子を伺う勇気のないグロリアは巨大な壁に埋もれたまま移動するしかないと腹を括った。

(上手くいけば壁に隠れてて他のクラスの生徒からは見られずに済むかも。ちみっこバンザーイ!)



 打ち合わせや雑談でザワザワしていた教室が静まりかえった。

(なになに、またなんか起きた?)

 硬直したまま目だけをキョロキョロと動かしてみたが壁に阻まれて何も見えない。

「おい、ユピテール様だ!」

「かっこいい~」

 案内役の生徒がきたらしく新たな悲鳴があちこちから聞こえてきた。

(すっご~い嫌な予感がしてるのは私だけかなあ? ここまで最低の状況しかないんだよね。これ以上はないのか、徹底的に地獄を見るのか⋯⋯ふっふっふ。もう、どうなでもなれ~)

 捨て鉢になってみたりどうか他所に行ってくださいと願ってみたり⋯⋯忙しく脳内会議していたグロリアの近くで弔いの鐘が鳴り響いた⋯⋯妙な迫力のある大きな声が聞こえてきた。

(教室の空気が教えてくれてるから間違いないはず。来て欲しくない奴が来たに違いない)



「君達のグループを担当する事になった2年のアルゲス・T・ユピテールだけど、出来ればアルと呼んでくれ。このグループは3人か⋯いやぁ、凄いメンバーが集まってんなあ」

(またでっかいのが来た⋯⋯もーっとでかいのがきた。何食べたらこんなに大きくなるの? も、もしかしてこの人達って元巨人族とか? 初めてスルトに会った時ビックリしたもん。そうか⋯⋯帰ったら聞いてみよう)

「4人だ。ほらちっこいのがここにいるだろ?」

 ティウ達3人が作る防波堤の中を覗き込んできたのは燃えるような目と赤髪を持つ大男。

「本当だ、うちの妹のグローリアと変わんねえじゃん」

「相変わらずアホだな。お前の妹ってまだ3歳じゃないか」

「はは、そういやあそうだな」

 2年生のアルゲス・T・ユピテールは公爵家長男で父は騎士団団長。

 細かい事が苦手な性格で明るくて正義感あふれる男だが、気が短くて短期な面も。
 雷魔法と剣術特化の脳筋で腹を立ててもすぐ忘れる。

 彼は元雷神のトールでロキとは一緒に旅をするほど仲が良い。



 グロリアはまだ気づいていないが、ここに元神族の4巨頭が勢揃いした。

「このメンバーが集まるって、なんかあんの?」

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