前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第二章

4.伝説? 違いますよ、四郎ちゃんです

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 魔導具の誤作動に成功した後、家庭教師が減らされたグロリアは有り余る時間を使ってルーン魔術の勉強に没頭した。

 魔導具の開発が行き詰まった事で魔力タンクとしての魅力が半減したのか、金銭的に行き詰まっているのか⋯⋯いずれにせよ家庭教師が減ったのは侯爵家からの支援金がなくなったのが理由だが、グロリアにとっては嬉しいことこの上ない。

(婚約者候補は変わらないんだ。ガッカリだよ)

 そんな中で、『スターヴ(樽板、柱)』と呼ばれるシンボルで構成された呪文は中々前に進めないでいたが、代わりに魔法円にルーン文字を組み込む方法とルーンガルドゥルではかなり大規模な魔術から繊細な魔術まで行使できるようになった。

(オーディンは18のルーンガルドゥルを自慢したんだっけ。でも私は多分、魔法円の方が合うって事だよね。自前のルーン杖も超いい感じだし。テヘヘ)

 魔術を行使する時のルーン杖は借り物の剣ホヴズやジェニに貰ったスケヴニングを使っていたが、勉強が一段落し自前のルーン杖を作ることにしたグロリアが選んだのはジェニから貰った短刀。

(伝説の短刀を加工するのは胸が痛むけど⋯⋯まあ、いっか⋯⋯名前は、うーん。四郎ちゃん!)

 残念な名前をつけられた短刀はびっしりとルーン文字を刻まれた後、幻惑魔術で市販のダガーに見えるようにされてしまった。

(私には四郎ちゃんにしか見えないけど、ジェニでさえ見破れなかった幻惑魔術だもんね~)

 細身で鋭い切れ味の刃先は僅かに欠けることもなくルーン文字に耐え鞘に収まっている。紫の蛇腹糸が巻かれた柄で存在を誇示している家紋は見てないことに決めている。

(私は何にも見てません⋯⋯だってリアちゃん無学だもん♬)

 ルーン杖の完成記念にほんの気まぐれでやった未来予知に現れたのは⋯⋯。眉間に皺を寄せたジェニに思いっきり拳骨を落とされて『未来永劫、予知は禁止じゃあー!』と叫ばれた。

(二度としないもんね! あんなもの見たくなかったし⋯⋯ふんだ!)

 どんな未来が見えたのか? それが現実となるのはまだまだ先のお楽しみ。



 入学式が終わりゾロゾロと並んで歩く生徒の最後尾をついて行くグロリアは、制服を着ていなければ新入生の妹が紛れ込んだように見えた。

(この世界の人って本当におっきいんだよね。フノーラだって私より大きいし)

 ちょこちょこと急ぎ足で追いかけながら教室に辿り着いたグロリアは、中に一歩足を踏み入れて固まった。

(げっ! 同い年だったっけ?)

 周りを威圧する迫力はマーウォルスより上だろう。彼の周りの席は不自然なくらい空いており、本人も周りを気にすることなく本を読んでいる。

 足音を忍ばせて教室の一番後ろの奥の席を狙って座ったグロリアが鞄を机の上に置きかけた時、彼⋯⋯ヘイムダルが振り向いた。

(ひいっ! み、見ないでぇ~! ど、泥棒じゃないから⋯⋯拾ったって言ってたし、それを借りてるだけだからぁ!!)

 恐らくホヴズの元所有者であろうヘイムダルは眉間に皺を寄せ教室内を見回した後、小さく首を傾げてから再び本を読みはじめた。

(ちっちゃくて良かったよお、このまま永遠に見つけないで下さい!)



「シビュレー嬢、さっきはどうも」

 今後擬態するのはカタツムリと鎧鼠のどちらが良いか脳内で検討していたグロリアは、すぐ横に大きな影ができたことに気付いていなかった。

「シビュレー嬢、聞こえてる? これからはグロリア嬢と呼んでも良いかな」

「⋯⋯ひぃっ!!」

 近くで聞こえる音が人の声だと気づいて顔を上げたグロリアは小さく悲鳴をあげて仰け反った。

(ななな、なんで? もうやだあ。おひとり様最高、目指せボッチ! 長閑なハッピースローライフ万歳!!)

 教室中の注目を集めているマーウォルスが一番に話しかけた小人は何者だと生徒たちが興味津々で覗き込んでいる気配がする。

「改めて挨拶させて欲しい。俺は次席入学のティウ・T・マーウォルスで、ティウと呼んでくれると嬉しい。首席入学のグロリア嬢」

 渋々立ち上がったグロリアは俯いたままモゴモゴと返事を返した。

「⋯⋯(おひとり様が大好きなグロリア)です」



「寡黙で群れることを嫌うマーウォルス様が見た事もない女子生徒に自分からお声を」

「ファーストネーム呼びだって!?」

「マーウォルス様より上位成績者があのちっこい子なの?」

 数々の言動に生徒達が動揺している声がグロリアの耳に聞こえてきた。

(ちっこいは余計だけどね、成長期がまだ来てないだけだから)

「今後首席争いになりそうだし、ちゃんと挨拶しておきたかったんだ。あと一人紹介しておきたい奴が⋯⋯おい、リーグ!」

 ティウ マーウォルスの声で振り向いたのは予想通り⋯⋯ヘイムダル。

(ああ、終わった。きっとバレちゃう、監禁だけは勘弁してもらえるようお願いしなくちゃ。
ジェニの側で3匹をモフモフし続けたいんです。ディルス達もいてモフモフパラダイスなんです。たま~に遊びに来るフギンは結構愚痴聞いてくれるし、カニスとムニンとラプスは癒しだし、グラネちゃんは世渡りの仕方を教えてくれて。
ヘルとお茶して女子トークするのが好きなんで監禁しないで下さい! たま~に帰ってくるセティともお喋りしたいし)

 頬を引くつかせながら脳内で懇願し続けた甲斐もなくヘイムダルと目があった。

(怖いから睨まないでぇ!)

 冷ややかな目つきでティウを見て大袈裟な溜め息をついたヘイムダルが席を立って近付いて来た。

(なんでみんなでっかいの? 元神族の特徴なの!? セティくらいの方がいいよお)

 ティウとほぼ同じ身長のヘイムダルは金色の目を細めてグロリアを見下ろした。

「その怯えた仔兎みたいな態度をどこかで見たような⋯⋯ああ、あの時の占いの子か」

(あうぅ、思い出さないで欲しかったのにぃ! 元神族は私の鬼門なんですよお。ロクなことがないって学習済みなんですからぁ)

「なんだ知り合いか?」

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