前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

86.フレイヤに勝利した日(笑)

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「私の秘密って、何のこと?」

 引き攣りそうになる顔面神経に気合を入れて堂々と聞き返したが、心臓が最速で動いているのがわかる。

(ヤバいヤバい、一体どれがバレてるの? いっぱいありすぎて分かんないよ)

「へえ~、知られてないと思ってんだ。旦那様達にバレたらマズいんじゃないかなあ、この家から追い出されるかもよ~。フノーラ様に気に入られてるアタシには関係ないけどねえ」

「何のことだかちっとも分からないんだけど?」

 無意識に両手を握りしめていたグロリアは首を傾げた。

(伯爵達にバレたらマズい事? ルーン魔術を勉強してる⋯⋯暇つぶしですって言えば、バカな事に時間を使うなくらいは言いそう。
前世の記憶がある⋯⋯本で読んだって言えば良いし、ターニャの方こそ頭がおかしくなったのかって言われそう。
ジェニに貰ったポーチとかイヤーカフとか⋯⋯見えたら全部よこせとか言いそうだけど、ポーチに入れておけば絶対に見えない自信があるし。
他には⋯⋯⋯⋯あれ? 大丈夫かも)

「そうやって可愛こぶって誑し込んだわけだ。まだ9歳のくせに」

「⋯⋯誑し込んだって、何を?」

「夜、来てんじゃん。男引き摺り込んでるのがバレたら、侯爵家に嫁になんて行けなくなるよねえ。その年で男咥え込んでる阿婆擦れなんて速攻で捨てられんじゃね?」

「男⋯⋯男⋯⋯誰の事だろ?」

「突然いなくなったセティだって誑し込んでたし? あの子、お人形みたいだって言ってフノーラ様のお気に入りだったのに、邪魔な『役立たず』の姉がとっくに喰った後だったなんて知ったらどうなることやら。
バレたらとんでもない事になるんじゃないかなあ⋯⋯怖ーい」

 漸く状況が理解できたグロリアは満面の笑みを浮かべた。

「⋯⋯えーっと、言って良いわよ。どうぞどうぞ、いつでも言って構わないから。遠慮なくどうぞ?」

(なんとジェニのことがバレてたとは。3匹やグリちゃんの声は聞こえてないはずだけど、元巨人族に元神族・神獣・魔獣・魔蛇・本⋯⋯バラエティー豊かなお付き合いね~。おおっ、もしかしてフレイヤに初めて勝てた? 喰って喰って喰いまくったフレイヤなら獣はあるかもだけど流石に本はないよね~。
それにしてもこの世界って9歳の子供が男を喰うの? 前世なら小学3年生、アリコン⋯⋯アリスコンプレックスじゃん。ジェニとかセティは完全ショタだし他は人間体ですらないし。後は獣姦とか本姦? 聞いたことない)

「は! あたしが言わないと高括ってんでしょうけど、それで誤魔化せると思ってんの?」

「あのね、妄想で暴言を吐くメイドとは何も話す気にならないの。そろそろ食堂に行くから仕事に戻ってくれるかな。
明日はお父様達がいらっしゃるはずだから、是非是非話してね。結果、楽しみにしてるから~」

 爽やかな笑顔を浮かべたグロリアがドアを開けると不安そうな顔になったターニャが首を傾げた。

「だって、本当に声が聞こえたし」

「その人がどうやって部屋に忍んで来てるのかの予想もお願いね。この部屋って二階だけどベランダがあるわけじゃないし、足場になるものとかよじ登れそうな木もない。
魔法で空を飛べる人がいたとしても、窓もご覧の通りの小ささだから人は通れないんじゃないかなあ」

「そう言えば⋯⋯フノーラ様のお部屋にはベランダがあるからここにもあると」

 何度も首を捻って悩み続けるターニャに腹が立ってきたグロリア。

(そんな情報いりませんけど? さっさと出てってくれないかなあ、本当にお腹すいちゃったよ)

「でもセティならこの屋敷に住んでたから」

「使用人って一人部屋なの? もしそうならこっそり抜け出せるけど、他の人と相部屋ならその人に確認してからの方がいいよ? 屋敷の主人に突然問い詰められたら驚くだろうから」

 セティは地下の大部屋で雑魚寝だったと聞いている。いびきや寝言がうるさくて眠れないと散々愚痴を言っていたのだから間違いない。しかも子煩い奴がいてトイレに行っただけで『どこに行ったんだ!』と毎回チェックしてくると言っていた。

(お陰で人目のない夜の密談ができなくて不便だったんだからね)

 この世界の魔法はどんどん力を失っており、転移できる人は皆無で浮遊ができる人も魔法師団に少しいるだけだという。

「あ、使用人達を敵にしないよう気をつけて話した方が良いよ~!
窓から連れ込むのは無理っぽいでしょう? なら一階のどこかから侵入したって事だよね。それだと不用心だとか管理責任だとかって全員が叱られる可能性が高いから。
えーっと何だっけ、『使用人仲間とも上手くやってる』だったっけ。鍵の閉め忘れだの誰かを引き入れただのって疑われたらみんなに嫌われちゃうよ?
あっ! ターニャが引き入れましたって言えば他の使用人は大丈夫かあ。ターニャはクビ確定だけどね。うんうん」

 腕を組んでしたり顔で頷くグロリア。

(ふっふっふ、ジェニ達の侵入経路なんて絶対見つからないもんね~。人の部屋から護符を盗んで疑って脅して⋯⋯助けたげたのに酷くない? ざまぁされちゃえばいいんだよーだ。弟くん達にはごめんねだけど)




「あの、すみませんでした!」

 黙り込んで睨んでいたターニャが突然土下座した。ターニャの変わり身の速さに呆れたグロリアはドアを目一杯開けてにっこりと笑った。

「使用人の誰かを呼んで叩き出さないといけないの?」

「申し訳ありません。じ、実はフノーラ様の命令で以前からお部屋の様子を窺っておりまして、その時知らない男性の声を聞いたような気がして疑っておりました」

(おっとー、今回も新情報ゲットォ!)

「そっか、だったらフノーラも同じように考えてるんだ。まあ、どうでもいいけど」

「いえ、フノーラ様にはお伝えしておりません」

「えーっと、なんで?」

「あの⋯⋯お姉様がモテてるなんて知ったら癇癪が起きそうな気がしたもので、報告しませんでした」

「そっか~、ホントにどっちでもいい話なんだけど、好きなように話せばいいんじゃない? 私が独り言を言うのを聞いて妄想した人がいても笑うだけだし」

(なんか疲れちゃった。ルーン魔術の練習してる時以外はほっといたのがダメだった。これからは終日防音かけとこうかな⋯⋯。部屋に鍵も欲しい)



 夕食と湯浴みが終われば後は寝るだけ。

 ルーン魔術を勉強する気力が湧かずベッドでゴロゴロしながら魔力と属性について考えていると、窓ガラスが3回カタカタと揺れてジェニが現れた。

 慌てて部屋に防音をかけるグロリアの頭を撫でたジェニがベッドの脇に座り込んだ。

「おつかれ!」

「うん、疲れた~。人間以外の全種族を喰っちゃうグロリア様は一体何者?」

 メイドが勘違いしていた話をするとジェニはゲラゲラと笑っていたが、途中からお腹を抑えて涙を流し笑い転げた。

「笑いすぎ! 笑うなー!」

「だ、だって⋯⋯そんな、つるぺた⋯⋯ゴフッ」

 見事な裏拳がジェニの顎に決まった。



「しっかしまあ、グロリアっていろんな技を持ってるよなあ」

「へ?」

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