前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

81.間抜け仲間認定は辛すぎだよ

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「絶対大丈夫だ。もし奴がゴネやがったら『スキーズブラズニル』を燃やすぞって言ってやれ」

「⋯⋯は? まさかロキが持ってるとか?」

「おう、落ちてたから拾っといたんだよな~。いやぁ、親切ってのはしとくもんだぜ。はっはっは」

 フレイの秘密道具『スキーズブラズニル』は、布のように小さく折りたたんで携帯できる魔法の船。

「ラグナロクん時にたまたま見つけたんだよな~。拾ったのを返してやりてえのにフレイの奴は俺から逃げ回ってばかりで返し損ねてんだ」

 ヘラっと笑ったジェニは態とらしく肩をすくめた。

「ジェニ、嘘はよくないよ?」

 グロリアのジト目にジェニの目が泳いだ。

「⋯⋯拾ったのをすーっかり忘れてた。まあ、その。フレイの奴は女の為に剣は手放すし船は置き忘れるし、挙句にフレイヤには色々やられまくって女性恐怖症だろ? なかなかの間抜け具合はグロリアとタメを張るなあ。はっはっは」

 かつて唯一愛した女性を手に入れる為に手放した剣は『勝利の剣』と呼ばれていた。
『愚かな者が持てばなまくらだが、正しい者が持てばひとりでに戦う』とまで言われた唯一無二の剣を恋愛の橋渡しを頼んだ従者に強請られて与えてしまった。

「そのせいで奴はラグナロクん時に鹿の角で戦ってスルトに負けたってんだから流石に残念すぎる男だよなぁ」

 フレイが剣を与えたスキールニルはフレイのかつての幼馴染でもあるが、ラグナロクの直前に剣を持ったまま行方をくらました。

「脅すのは好きじゃないけどそうも言ってられないね。フレイヤだけでも面倒なのに、エスペラント王国の賞金稼ぎまで出てくるなんてあんまり悠長にしてられない」

「おとぼけセティ君にしちゃ好戦的だな。それだけじゃねえ。元巨人族まで顔を突っ込んでやがる」



 魔導塔を監視していたスルトの調査で発覚した大物二人は、ヴァフスルーズニルとウートガルザ・ロキ。

「ヴァフスルーズニルはクソ野郎オーディンに狙われる程知識豊富だった巨人族で、知恵比べで負けた事を根に持ってるんだ。
誰よりもプライドが高くて傲慢なジジイだったからな、煽てられてひょいひょい魔導具開発を手伝ってる可能性がある」

 ジェニが何かを思い出したように大きな溜息をついた。

「もう一人のウートガルザ・ロキなんだが⋯⋯。
奴が何で協力してるのかはさっぱりわからんが、魔導塔にかけられた探知魔法は奴の仕業で間違いない」

「巨人族の王まで? 今世は一体どうなってるんだろう。こんな状態の世界なんて今まで見たことも聞いたこともないよ」

 幻術や奸智にたけた策を得意とするウートガルザ・ロキは巨人族の王として豪奢な暮らしをしていたが、ラグナロクの後暫くして洞窟の奥深く暗く不潔な部屋にいるのを発見された。

 手足を重い鎖で拘束され異臭を放つウートガルザ・ロキが誰に捕縛されたのかは不明で、助け出された後でさえ彼は何も語らなかった。

(その恨みってのが一番ありそうなんだが⋯⋯奴を拘束できて拘束したがってる奴が多すぎて予想がつかねえ)



「リンドの奴とグリーズは調べれば調べるほどやっぱ胡散臭えって気がするしな。
優秀な医師で穏和な性格、老若男女に慕われる腰の低さと献身的な態度。
そのくせ権力を笠に着る貴族や金でゴリ押しする奴には毅然とした態度で立ち向かう」

「昔とおんなじだね、ヴァーリは司法神の時もそうだったよ。胡散臭いなんて勘違いじゃないの?」

「あー、綺麗って言うか綺麗すぎんだよな。途轍もない秘密主義でリンド達は使用人も雇ってねえ。一緒に飯を食ったり雑談したり⋯⋯親しく付き合う奴が一人もいねえ」

「それは⋯⋯元神族の記憶があるからとか」

 セティの言葉の端々にはあくまでもリンド医師達の味方になりたい気持ちが溢れていた。

(親戚だもん、性善説を信じたくなるよね)

「その可能性はないとは言わん。だがなぁ、神界の記憶があるならクソビッチなんかと関わると思うか?
清廉潔白を絵に描いたような奴が人の世のために提案するのに利用したのがあの女だぞ?
ピカピカの身辺の聖人君子と欲望まみれのクソビッチ⋯⋯怪しすぎて鼻が詰まる」

 ジェニが同じ考えだと聞いてグロリアはここ数日考えていたある予測を話してみたいと思った。

(セティのいないところで話してみよう。できればセティには聞かれたくない)



「てことで、早速行ってきてくれ」

 チラリとグロリアを見たジェニがしっしっと手を振ってセティを急かした。

「ええ!? 今すぐ?」

「善は急げって言うだろ?」

 きんつばとチョコをしっかりとゲットしたセティが自信なさそうな顔でグロリアに向き直った。

「じゃあ、行ってくる」

「うん、フレイの周りは女の人がいっぱいみたいだから気をつけてね~」

 伯爵家でメイド達に追いかけ回された恐怖を思い出したセティが顔を引き攣らせた。

「へ、変装とかしようかなぁ」

 背中を丸くしたセティがフレイの元に出発し、グロリアとジェニの二人だけになった。

(なんか久しぶりかも。ちょっと緊張するような⋯⋯)

 春の気配を感じる庭のそこかしこで、チラチラと妖精やエルフが日向ぼっこしている。寒い冬を乗り越えた樹々は柔らかい日差しでキラキラと輝き、気持ちよさそうに空を飛ぶ鳥の姿も見えた。

「ここにいる妖精やエルフもフレイが管理するアルフヘイムの子達なの?」

「YESでもあるしNOでもある。ここにいる奴等はアルフヘイムのはみだし者って感じだな。人間達にも性格的に『合う・合わない』とかあんだろ? そう言う子達がアルフヘイムを飛び出してここに住み着いたのがはじまりだな。
(要は行き場のないはぐれものの集まりって奴。俺やガキどもとおんなじだな)」

 ジェニの家はシュビレー伯爵家の隣に建っているように見えるが、実際は別の空間とこの敷地を繋げたもので築年数は数百年になる。

「別の空間だからこんなに広いんだ。雪合戦の時はもっと広く感じたし。ジェニの魔力や魔法って凄いね」

「ドヴェルグ作でメインは⋯⋯余ってる魔力を魔石に溜めといて動力に使うから大したこたぁねえんだ。んで、話したい事があんだろ?」

「んー、どうかなぁ。あるようなないような」

「ほれほれ、おじちゃんに話してみ?」



「神族の考え方はよく分かんないんだけどね」

 グロリアは自信なさそうに話しはじめた。

「予言ならどんな内容でも無条件に受け入れるのが当然って思ってるように見えるのが馴染めないと言うか」

 予言は完遂しなければならないものであり神であろうとも覆せない。道標であり必然、それを実行するのが世の理に従うことだと決めつけているように見えるのが不思議で仕方ないグロリアは下を向いたまま呟いた。

「あー、『予言だから』でなんでも片付けてる奴は予言に振り回されてないラッキーな奴か、それに苦しめられなかったお気楽な部外者だけだろうと思うぜ?」

「やっぱり抗ったり不満に思ったりする神もいたって事?」

「あの頃は信じてる奴ばかりで、抗ったり不満に思ってると口にする奴はいなかったな。以前グロリアが言ってたアレとおんなじ状態だったからよ」


『オーディンの考え方って、大学の友達から聞いた『エコーチェンバー現象』とか『サイバーカスケード』に似てる。洗脳方法とか書いてありそうでヤダ』


「アレを聞いた時に『ああ、やっぱり。そういうことか』って思った」

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