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第一章

80. エスペラント王国

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「ジェニ、この世界に前世持ちを監禁する国ってあるの?」

 ジェイソンから言われたとグロリアが言うとジェニが顔を顰めた。

「ジェイソンってあの偉そうな執事だよな。そうか、奴はエスペラント王国の奴か」

 エスペラント王国はこの世界が生まれた頃から時折前世持ちの子供が出現するので有名な国。彼等の殆どは幼少期に突然前世を思い出し『前世持ち』『覚醒者』と呼ばれている。

「前世を思い出した奴は直ぐに離宮に居を移して、生活や教育の全てを王家が管理する。家族には祝い金という名の手切金が渡されて、それ以降の交流は禁止で違反者は厳罰に処せられるんだ」

 覚醒を隠匿した者は重罪となり一族郎党も連座。

 覚醒者の住む離宮は高い塀に囲まれ外部との接触は禁止、前世の記憶は専任の侍女や従者が書き留め国王の元に届けられる。

「やっぱり監禁されちゃうんだ」

「王侯貴族並の待遇ってのはある意味本当だ。煌びやかな離宮には一年中花が咲き乱れ、メンタルヘルス対策の動物園や病院まである。遊具のある公園といつでも入れるスパや温水プール。豪華な食事も彼等の記憶に合わせて作られるし、服装も同じ。
この世界じゃ考えられん知識が集結してる」

「⋯⋯前世持ち達を飼うって言ってたもん」

「おう、まさにその通り。生態を観察し衣食住を研究され、そいつがエスペラント王国に有益なものかどうか調べ上げるんだ。覚醒者がもたらした情報は国王が選別した上で議会で取り上げられて領主や貴族・大商人が視察に来るってわけだ。
お陰であの国は非常に独特な文化が蔓延ってる」

 様々な世界の知識のどれを採用するかは地域によって格差があるが、採用が決まると情報料が国庫に入りその一部が『前世持ち』の生活費となる。

「売れる情報を持ってりゃ豪遊できるがしょぼいネタしか思い出せなきゃどんどん生活のレベルが落ちていく」

 食事から住居や使用人も情報次第で変わっていき、ある日突然いなくなる覚醒者もいると言う。

「公にはしてねえがネタを出し尽くしたとか稼げねえ奴は地下牢行きになるし、その後はお決まりのコースだな。
だが、随分前から新しい『前世持ち』が減ってきてるらしくてな。見つけた奴に報奨金が出るようになった」

「それでジェイソンが脅し混じりの勧誘もどきをしてきたんだ。情報を引き出したくて挑発したら結構強引になって、寝てる時に拉致とかありそうかもって思うくらいになったんだよね」

「なんでそんなに能天気なのか意味がわからん! そばに誰もいない時に挑発して薬でも嗅がされたらどうするつもりだったんだ!?」

「転移の護符もあるしイヤーカフで『ジェニ、召喚!』みたいな。ピアスで『呼ばれてないけどじゃじゃじゃじゃーん』とか?」

「はあ、いくらなんでもエスペラント王国までは届かねえよ。グロリアの転移の護符頼りだな」

「え? イヤーカフよりあの護符って強力なの!?」

「暴発護符のグロリアだぜ? どこからでも飛べるに決まってんだろ」

 いつの間にか二つ名持ちになっていたらしいグロリアがあんぐりと口を開けた。

「まじかぁ」

 エスペラント王国で前世持ちが産まれなくなりつつある事に不安を抱いた王家と議会は多額の懸賞金をかけて『前世持ち』を探すと決めた。国籍・年齢・性別により賞金額が細かく設定されているが、最低ランクでも平民が10年は遊んで暮らせる額。

「王国内はほとんど探し尽くされてるから、賞金稼ぎ達はガンガン別の国に移動してる」

「でもね、それがピンポイントで伯爵家にいるっておかしくない? それにジェイソンは私が産まれるよりも前から伯爵家に勤めてる」

「賞金稼ぎは徒党を組んで情報を共有するんだ。もしかしたら別の奴がセンサーに引っかかってたのかもしれんな」

「⋯⋯近くに別の前世持ちがいるってこと? その人を調べに来てて私がそこに産まれた⋯⋯私って、どんだけ運が悪いの」

 ガックリと肩を落としたグロリアの肩をジェニが叩いた。

「心配すんなって、護衛にヴァンを呼び戻してやるから。防御の指輪や護符は役に立たん可能性があるが、ヴァンがいれば問題はねぇ」

「もふもふパラダイス⋯⋯」

「そっ、それは俺にはなんとも言えんがヴァンはグロリアに甘いからなぁ。そろそろゲリとフレキ⋯⋯ディルスとカニスが目を覚ますはずだから、カニスはアレだがディルスは即戦力になりそうだ」

 ヴァンの不満そうな顔を想像して顔を顰めていたジェニの横で、ディルスとカニスの話を初めて知ったグロリアは目を輝かせた。

「狼が増えるって事は、ヴァンみたいなもふもふが増えるってことよね!」

「⋯⋯復活の速さ、相変わらず凄えな」



「僕に手伝えることってないかな?」

 伯爵家から逃げ出さざるを得なかったセティが手を上げた。

「おう、安心しろ。お前の就職先は決まってる。それまでにそのベビーフェイスをなんとかしてえんだがな」

「ええ、この顔!? かか、変えるのは無理だよ? ずーっとこの顔だったんだからね」

 両頬を押さえて叫ぶセティが前世で見た映画のホーム◯ローンのケビン君ぽくて、思わず吹き出したグロリアは慌てて咳払いで誤魔化した。

(ケビン君よりかなりぽやぽやしてるから、セティが主役だったら映画成り立ってなさそう)

「ボケらっとした印象はそのままで、もうちょい目立たんようにせんとなぁ。マルデルに目をつけられたら面倒だ」

「マルデルって⋯⋯まさかだけどフレイヤの家に就職するってこと!?」

「いや、お前に行ってもらうのはガムラ侯爵家。フレイんとこだ」



 フレイヤの兄フレイの現在の名前はフロディ・F・ガムラ。ガムラ侯爵家の三男として転生している。

 司教をしている厳格な父親の元で平々凡々を装い暮らしているが、現在も妖精の国アルフヘイムと行き来する力を持っている。

「ちっと手が足りんのだわ。で、フレイが使いもんになるかどうか調べたい」

 フレイは容姿端麗で繊細そうな見た目をしており教会にやってくる女性信者から『天使が降臨した』と騒がれているが、当人は気の弱い女性恐怖症なので女性からは逃げ回ってばかりいる。

 ひ弱そうな見た目と違って馬鹿力、水魔法の他に精霊魔法と空間魔法も使える。

 かつての愛馬(?)『グリンブルスティ』はどんな馬よりも速く空や海を駆ける黄金に輝く猪で、アルフヘイム妖精界で飼っており女性に追いかけられ心が荒むと会いに行く。

「えー、フレイは無理じゃない? フレイの女性恐怖症ってフレイヤのせいだもん」

「だからこそ、元凶を叩く手伝いをさせるんだよ。奴が指示すれば妖精族を味方につけられるし、少なくとも敵になる前に弱点を調べておきたい。
アルフヘイムの妖精達は監視役と諜報部隊に適任だろ?」

「フレイんとこ行って頼むんだよね。僕にできるかなあ」

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