前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

72.ジェイソンの狙い

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「つかぬことを伺いますが、グロリア様はもしかして別の時代の記憶をお持ちではありませんか?」

「へ?」

「わたくしの住んでおりました田舎には前世の記憶というのを持っている者が時折現れておりましたので、もしかしたらグロリア様もそうではないかと」

「な、何のことだか分かんない。別の時代って何?」

 なんと答えるのが正解なのか分からず、目線を逸らしたままのグロリアの前にジェイソンが跪いた。

「去年の夏前くらいだったでしょうか⋯⋯ グロリア様が数日熱を出されたのはフノーラ様のお誕生日パーティーの時でしたね。その後からグロリア様のご様子が変わられたように思います」

 じっとりと粘着質な目がグロリアの顔を舐め回すように見ているのがますます気持ち悪い。

「⋯⋯」

「言動が大人びたように感じられますし、別人のようにしっかりとした意志をお待ちになられたような気が致します。
その変化は彼等⋯⋯前世を思い出した者達のそれとよく似ておられます」

(同じように前世を覚えている人がいるなら会ってみたい気がする。同じ世界から来たのか違う世界からなのか、どちらにしろ『仲間』がいることになるものね)

「⋯⋯もし仮にそうだったとしたら?」

「それはもう、とても素晴らしい事です! この世にはない知識は有益で無限の可能性を持っているのですから」

(えーっと、有益? 利用したいってこと?)

「そう。でも、私には関係ないし興味もないなぁ。そろそろ寝なくちゃ、明日の勉強に差し支えるから⋯⋯」

「誰にも話さないと約束致します。今日のボヤ騒ぎを収めた手際を拝見して確信致しました。グロリア様は間違いなく前世持ちだと」

(前科持ちみたいに言うんじゃねぇー! これ、絶対ヤバいやつだよね。こんな夜遅くに来て小声で話すとか、役者気取りのポーズとか⋯⋯人に聞かれないようにコソコソなんて詐欺師っぽいし。8歳なら騙されるけどアラサーの目は誤魔化せないんだからね!
えー、ジェイソンって何者? 元神とか元巨人とか? ジェイソンの住んでた田舎って何?)

「特別な何かなんて知らないし、変な期待をされても困るんだけど。
それに、もし仮にそうだったとしても⋯⋯想像ですけどね、そんな大事な秘密があったとして、信用できる人にしか話さないんじゃないかなあ」

(昔っからアンタなんか信用してないもんねーだ。突然態度変えて『つかぬことを伺いますが』って気持ち悪いを超えて不気味でホラーだよ!)

「それは⋯⋯」

「もう寝たいんで⋯⋯」

「今までの事は幾重にもお詫び致します。この世界の悪習に染まり不敬な態度であった事、心からお詫び申し上げます。
田舎と申しましたが、わたくしの住んでおりました国はここより文明も発達しており、前世持ちと呼ばれる彼等は国の保護を受け安全で幸せに暮らしております。国を潤す知恵を持つ彼等は、王族に匹敵する暮らしを保証されているのです。
ぜひ、詳しい説明をするお時間を頂けませんでしょうか?」

(国の保護下で安全に?⋯⋯耳障りのいい言葉を並べてるけど、要は監禁してるとか監視してるって事よね! って事は⋯⋯)

「もしかして、前世持ちを見つけて国に連れてけばお金もらえるとか?」

 グロリアの冷ややかな声でジェイソンは作戦を間違ったことに気付いた。

(売り払われるって知ってるコイツなら簡単に話に乗って目を輝かせるはずだと思ったのに!
家族から冷遇されてるし生活力もなく味方もいない⋯⋯どうにもならねえって分かってるはずなのに、何でこんなに余裕こいてんだ!? 警戒してるだけにしちゃ餌に食いついた気配もねえ)

 安易な考えで部屋を訪れたジェイソンは予想外の反応に『上品で安心感を演出した(つもりの)仮面』が剥がれ落ちはじめた。

「えっ! いや、そんな事は⋯⋯こんなとこにいるよりよっぽど贅沢ができるからって⋯⋯危険な魔導具の餌食になるよりうちの国に来た方が贅沢もできるし⋯⋯」

「お父様達と話してみたら? 伯爵家は私を侯爵家に売り渡す気満々だし、ジェイソンは別の国に私を売りたい。なんか揉めるんじゃないかな~?
まあ、前世って言うのがなんなのかは、次に王立図書館に行った時に調べとく」

(なんか疲れた⋯⋯結局みんな自分の欲のために利用したいだけって最悪じゃん)

「(報酬のために)無理矢理とかやめてね。私は前世なんて知らないし、知っていたとしても知らないと言うんじゃないかなー。
だって私を利用しようとする人は大っ嫌いだもん」

「⋯⋯なら、伯爵に売り払われる方がマシだと言うのか!?」

「うーん、両方同じくらい嫌かもぉ。私を必要とする人ってロクな人がいないねぇ⋯⋯ほんとーに困ったねえ」

 呆れ返ったグロリアは取り繕うのをやめてジェイソンに向かって小馬鹿にするように口元を歪めて肩をすくめた。

「す、少し考えてみて下さい。私の話の方がどれほど良い話かきっとわかってくださるはずです」

「あの時って3日くらい熱を出してたよね~。その間のことを全部覚えてるわけじゃないけど、誰も様子を見に来てない気がする」

「ご安心ください、二度とあのようなことは致しませんから!」

 ジェイソンが膝立ちのまま手を伸ばしてきたが、グロリアは椅子を後ろに引いてのけぞった。

(え、気持ちわる! 触られたらそこから腐っちゃうよ~。粘着質な触手みたいでヤダァ!!)

「えー、利用できそうだって思った途端優しくする人を信じろって言われても無理。
この屋敷の人達って私がどこで何をしていても知らん顔だけど、私もこの屋敷の人なんてどうでもいいって思ってる。だから、私を勝手な理由で利用しないで!
もう休むから。それと、二度とここへ食事を運ばないで。ご機嫌取りなのかなんなのか知らないけど気持ち悪すぎる!」

「だったらこのまま伯爵に利用されて廃人になっても良いのですか!?」

(ほう、もしかしたら伯爵達より的確に魔導具の事を知ってるのかな)

「この屋敷にいるだけなのに、なーんかお父様達より詳しそう。そんなに詳しく知る機会なんてないと思うんだけど⋯⋯どうやって知ったのかな~」

(あ、国が監禁して利用してる前科持ち⋯⋯前世持ちハンター協会みたいな組織があったりして。うわ、ミステリー小説じゃん)

「げえ~、キモい」

「キ、キモいだと!?」

 ゆっくりと立ち上がったジェイソンがグロリアに指を突きつけた。

「いいように利用されるだけのガキが偉そうに! このまま魔力を抜き取られて惨めに死ぬのが嫌なら俺の提案に従え!
廃人になって寝たきりになって死ぬまで魔力を抜かれる人生でいいのか!? そんな情けない人生から救い出してやるって言ってるんだぞ!!
ここにいりゃ廃人確定、俺の国に行けば贅沢しながら飼ってもらえる。どっちを選ぶべきかその足りない頭でよーく考えろ!!
貴様の為に資金援助してるジジイだって結局は助けてくれねえじゃねえか。『うん』と一言言うだけで一生贅沢三昧させてやるって言ってるんだ、感謝して俺に従え!」

(資金援助してるジジイ? 誰のことだろう⋯⋯それにしても『飼う』って言ってるよ? 監禁一択じゃん)

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