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第一章
67.能天気ちゃん達は囮にピッタリ
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前世の記憶と今世で得た知識をミックスして問題解決しようとするグロリアは奇想天外なアイデアを思いつく。
話を聞くたびにハラハラドキドキするが、本人はいたって能天気にヘラヘラと笑っているので周りは唖然としたり拍子抜けしたり。
イオルとマーナはマルデルや侯爵家の周りを調べているが、どこに元神族や元巨人族がいるかわからないので思うように動けないらしい。
フェンリルはスルトを捕獲してからというもの姿を消したまま。ヘルは居場所を知っているらしいが多分口を割る事はないだろう。
スルトは無事に魔導塔の近くにある宿に泊まり、出入りする人を調べている。
(スルトみたいに目立つ奴で大丈夫なのかな?)
ジェニは姿を変えてリンド医師と護衛のグーリズを調べに行っている。
(僕もここで呑気にしてるのは時間の無駄だよね。父様や母様に話を聞きに行ってみようかな)
気合を入れて立ち上がったセティの前に真っ黒な塊が2つ現れた。
「うぎゃあ!!」
【なんだよ、そのヘンテコな叫び声は! お前、それでも元神族かよ!】
「おま、お前達は誰だよって⋯⋯まさか、ゲリとフレキ?」
真っ黒い塊に見えたのは、昔オーディンに付き従っていた狼兄弟。オーディンに饗された料理を食べ最上級の扱いを受けていた彼等は、自分達のことを神より格上だと思っていた節もある傲慢で横柄な性格をしている。
プライドが高く種族で最強だと自負しており、フェンリルの事を怖がっているのは絶対に認めようとしない。
【おう、久しいのう⋯⋯じゃなかった。元気にしてたみてえだな!】
【あの、やーな臭いがしないからよお。俺様、ちょーっと遊びに来てやったぜ】
「ヴァン⋯⋯フェンリルの事?」
【それそれ、そいつ。揉めるのは面倒だからよお】
【俺様はロキの方がもっと苦手だぜ】
(僕一人の時に来るなんてタチ悪いよ。あ、でも。グロリアがいないのは良いことかも。こいつら怪しすぎるもんな)
【怪しいってなんだよ! 真面目そうな話してたからよお、ちょーっと遠慮してやったのに】
「げ、心を読むなよ!」
【なあなあ、てめえにお願いがあんだけど】
さっきまでのオラオラな態度から一転して、妙にソワソワと顔色を伺い始めたのはゲリの方。
【俺様のお願いだぜ? 聞いてくれるよな】
弟のフレキはまだ『俺様』状態で目を細めてセティを威嚇している。
「えー! そんな態度でお願いとか言われてもなあ」
【フォルチチィのくせに生意気じゃねえかよ! 俺様の鋭い牙で噛み砕いてやるぞ】
「名前間違ってるよ? お願いする相手の名前くらいは覚えておいでよね」
【へ?】
【フレキのことは気にすんな、元々3文字以上の言葉は覚えるのに時間が⋯⋯んで、聞いてくれるよなあ?】
「うーん、どうかなぁ。内容によるかな」
【ガルル、てめえの分際で断るだと?】
穏やかな性格のセティが断るとは思っていなかったゲリは思わず喉を鳴らした。
「かもね。それから言葉のチョイスがちょっと変だよ。で、どんなお願いなのかな?」
【⋯⋯あのよお、オッサンって繋がり切れたんだろ?】
「オッサンって?」
【ガー! オッサンって言やぁ本だよ本! 説教好きで偉そうなってか、喋れるとか知らんかったけどよ】
「ああ、グリモワールのことか」
【⋯⋯なに、そのかっこいい名前。にいちゃんの名前に比べたらランクが違いすぎる。グフッ】
【ラ、ランク言うなー! そりゃ漢字で書いたらやばいとか言われっけど⋯⋯ずっと耐えてきたんだからなー!! あのクソ暴君のネーミングセンスのないこと、そのせいでどんだけ恥をかいたか】
「あのー、お願いって?」
【繋がりをだな⋯⋯クソ暴君との繋がりが切れて、その、良いなーとか】
【俺様、超絶羨ましーの。繋がり、切って。おねが~い】
「えっと、それはロキに聞かないと無理なやつ」
【え~、あいつ絶対だめだって言うもん】
【俺様達、嫌われてるもんねぇ】
「ほっほう! 僕ちゃん達は俺にお願いに来たと?」
【【ロキだー!! ヤベェ、逃げろぉ】】
瞬時に姿を消した⋯⋯つもりのゲリとフレキはホッと胸を撫で下ろした。
姿が見えなくなれば流石のロキにも見つけられないはずだと安心したゲリとフレキが、顔を見合わせてにんまり笑いかけた横にロキの顔が割り込んできた。
「俺も混ぜてくれよな」
【へ? 見えてるとか、なんで?】
「俺の結界の中で勝手放題できると思う方が変じゃね?」
ロキと3匹全員がいなくなった屋敷に狼兄弟かワタリガラス達が来る可能性を考えて、ロキは罠を仕掛けておいた。
(誰かが侵入したら即結界魔法が発動して、魔法無効になるようにしといたのは正解だったぜ。グロリアとセティはいい囮になったし)
狼兄弟は能天気そうなグロリアが何事もなく出入りした屋敷にいるのが、同じく能天気そうなセティだけなら警戒する必要はないと考えたのだろう。
グロリアはジェニ達の仲間として登録されているとも知らず呑気にやってきた狼兄弟は既に袋の鼠。
「ことと次第によっちゃ、お願いってのを聞いてやっても良いぜ~?」
しゃがみ込んだジェニが嘲るように笑った。
【俺達、ロキの敵じゃないから】
「そうだったか? 随分昔だから忘れちまった⋯⋯わけねえよなあ」
【うぐ、ごめんなさい。俺様、悪い子でしたー】
オーディンの威光を笠に着た二頭はロキだけでなく周りの者達を下僕のようにこき使うが、彼等の機嫌を損ねるのを恐れた神々は何があっても見ないふりを決め込んだ。
「お前らは『貪る者と、飢える者』だよなぁ。ようは口の肥えた大飯食らい。
って事はだ、結界から抜け出せねえしここには飯もねえってなりゃ面白そうだな」
【動物虐待だ! 愛護団体に訴えるぞ】
「ほう、お好きにどうぞ? クソ野郎が勝手な命令を押し付けてきやがるたびに、テメェらにキャンキャン威嚇されたのを覚えてるぞ? なら、ちびっとくらい仕返ししても良いんじゃねえかと思うぜ?」
【キャンキャンって、俺様仔犬じゃねえし!】
「そういやあ、どっかの弱虫が『にいちゃん、フェンリルってこあいね』って言ったの聞いたなあ」
【へ?】
「んで、『大丈夫、あいつもう直ぐ騙されていなくなるんだ。良かったな』とかって2匹で尻尾抱え込んでた」
【あ!】
「うちの息子ちゃんに『ざまぁ』言う奴はプチってしても良いよな?」
【【ごめんなさい!!】】
見事な土下座を決めた2匹を、立ち上がったジェニが上から見下ろした。
「お願いを聞いて欲しいなら、それに見合う対価を持ってきたんだよな? ちびちゃん達は」
久しぶりのヤ◯ザモード復活。
話を聞くたびにハラハラドキドキするが、本人はいたって能天気にヘラヘラと笑っているので周りは唖然としたり拍子抜けしたり。
イオルとマーナはマルデルや侯爵家の周りを調べているが、どこに元神族や元巨人族がいるかわからないので思うように動けないらしい。
フェンリルはスルトを捕獲してからというもの姿を消したまま。ヘルは居場所を知っているらしいが多分口を割る事はないだろう。
スルトは無事に魔導塔の近くにある宿に泊まり、出入りする人を調べている。
(スルトみたいに目立つ奴で大丈夫なのかな?)
ジェニは姿を変えてリンド医師と護衛のグーリズを調べに行っている。
(僕もここで呑気にしてるのは時間の無駄だよね。父様や母様に話を聞きに行ってみようかな)
気合を入れて立ち上がったセティの前に真っ黒な塊が2つ現れた。
「うぎゃあ!!」
【なんだよ、そのヘンテコな叫び声は! お前、それでも元神族かよ!】
「おま、お前達は誰だよって⋯⋯まさか、ゲリとフレキ?」
真っ黒い塊に見えたのは、昔オーディンに付き従っていた狼兄弟。オーディンに饗された料理を食べ最上級の扱いを受けていた彼等は、自分達のことを神より格上だと思っていた節もある傲慢で横柄な性格をしている。
プライドが高く種族で最強だと自負しており、フェンリルの事を怖がっているのは絶対に認めようとしない。
【おう、久しいのう⋯⋯じゃなかった。元気にしてたみてえだな!】
【あの、やーな臭いがしないからよお。俺様、ちょーっと遊びに来てやったぜ】
「ヴァン⋯⋯フェンリルの事?」
【それそれ、そいつ。揉めるのは面倒だからよお】
【俺様はロキの方がもっと苦手だぜ】
(僕一人の時に来るなんてタチ悪いよ。あ、でも。グロリアがいないのは良いことかも。こいつら怪しすぎるもんな)
【怪しいってなんだよ! 真面目そうな話してたからよお、ちょーっと遠慮してやったのに】
「げ、心を読むなよ!」
【なあなあ、てめえにお願いがあんだけど】
さっきまでのオラオラな態度から一転して、妙にソワソワと顔色を伺い始めたのはゲリの方。
【俺様のお願いだぜ? 聞いてくれるよな】
弟のフレキはまだ『俺様』状態で目を細めてセティを威嚇している。
「えー! そんな態度でお願いとか言われてもなあ」
【フォルチチィのくせに生意気じゃねえかよ! 俺様の鋭い牙で噛み砕いてやるぞ】
「名前間違ってるよ? お願いする相手の名前くらいは覚えておいでよね」
【へ?】
【フレキのことは気にすんな、元々3文字以上の言葉は覚えるのに時間が⋯⋯んで、聞いてくれるよなあ?】
「うーん、どうかなぁ。内容によるかな」
【ガルル、てめえの分際で断るだと?】
穏やかな性格のセティが断るとは思っていなかったゲリは思わず喉を鳴らした。
「かもね。それから言葉のチョイスがちょっと変だよ。で、どんなお願いなのかな?」
【⋯⋯あのよお、オッサンって繋がり切れたんだろ?】
「オッサンって?」
【ガー! オッサンって言やぁ本だよ本! 説教好きで偉そうなってか、喋れるとか知らんかったけどよ】
「ああ、グリモワールのことか」
【⋯⋯なに、そのかっこいい名前。にいちゃんの名前に比べたらランクが違いすぎる。グフッ】
【ラ、ランク言うなー! そりゃ漢字で書いたらやばいとか言われっけど⋯⋯ずっと耐えてきたんだからなー!! あのクソ暴君のネーミングセンスのないこと、そのせいでどんだけ恥をかいたか】
「あのー、お願いって?」
【繋がりをだな⋯⋯クソ暴君との繋がりが切れて、その、良いなーとか】
【俺様、超絶羨ましーの。繋がり、切って。おねが~い】
「えっと、それはロキに聞かないと無理なやつ」
【え~、あいつ絶対だめだって言うもん】
【俺様達、嫌われてるもんねぇ】
「ほっほう! 僕ちゃん達は俺にお願いに来たと?」
【【ロキだー!! ヤベェ、逃げろぉ】】
瞬時に姿を消した⋯⋯つもりのゲリとフレキはホッと胸を撫で下ろした。
姿が見えなくなれば流石のロキにも見つけられないはずだと安心したゲリとフレキが、顔を見合わせてにんまり笑いかけた横にロキの顔が割り込んできた。
「俺も混ぜてくれよな」
【へ? 見えてるとか、なんで?】
「俺の結界の中で勝手放題できると思う方が変じゃね?」
ロキと3匹全員がいなくなった屋敷に狼兄弟かワタリガラス達が来る可能性を考えて、ロキは罠を仕掛けておいた。
(誰かが侵入したら即結界魔法が発動して、魔法無効になるようにしといたのは正解だったぜ。グロリアとセティはいい囮になったし)
狼兄弟は能天気そうなグロリアが何事もなく出入りした屋敷にいるのが、同じく能天気そうなセティだけなら警戒する必要はないと考えたのだろう。
グロリアはジェニ達の仲間として登録されているとも知らず呑気にやってきた狼兄弟は既に袋の鼠。
「ことと次第によっちゃ、お願いってのを聞いてやっても良いぜ~?」
しゃがみ込んだジェニが嘲るように笑った。
【俺達、ロキの敵じゃないから】
「そうだったか? 随分昔だから忘れちまった⋯⋯わけねえよなあ」
【うぐ、ごめんなさい。俺様、悪い子でしたー】
オーディンの威光を笠に着た二頭はロキだけでなく周りの者達を下僕のようにこき使うが、彼等の機嫌を損ねるのを恐れた神々は何があっても見ないふりを決め込んだ。
「お前らは『貪る者と、飢える者』だよなぁ。ようは口の肥えた大飯食らい。
って事はだ、結界から抜け出せねえしここには飯もねえってなりゃ面白そうだな」
【動物虐待だ! 愛護団体に訴えるぞ】
「ほう、お好きにどうぞ? クソ野郎が勝手な命令を押し付けてきやがるたびに、テメェらにキャンキャン威嚇されたのを覚えてるぞ? なら、ちびっとくらい仕返ししても良いんじゃねえかと思うぜ?」
【キャンキャンって、俺様仔犬じゃねえし!】
「そういやあ、どっかの弱虫が『にいちゃん、フェンリルってこあいね』って言ったの聞いたなあ」
【へ?】
「んで、『大丈夫、あいつもう直ぐ騙されていなくなるんだ。良かったな』とかって2匹で尻尾抱え込んでた」
【あ!】
「うちの息子ちゃんに『ざまぁ』言う奴はプチってしても良いよな?」
【【ごめんなさい!!】】
見事な土下座を決めた2匹を、立ち上がったジェニが上から見下ろした。
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