前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

63.なんでなんだろう、全然分かんない

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 部屋に戻ったグロリアは今日もベッドに飛び込んだ。ヘッドスライディングの気分だったので、ヘッドボードに頭をぶつけたのはご愛嬌。

「いったぃ~!」

(ううっ、きっとたんこぶできた~。
フノーラの話なんて、知ってたもん⋯⋯気分的にちょーっとムカつく話だけど、現実を直視するのは大事だからねー。うん、冷静に、冷静に⋯⋯⋯⋯くっそー! 樹里の奴、どこまでバカにしたら気が済むんだよー!)

 グロリアは頭を抱えて丸くなり涙目のまま歯を食いしばった。

(丁稚のようにこき使われはじめたのって、いつくらいからかなあ。最初は3人で普通に遊んでた気がするんだけど。学校でお喋りしたり放課後とか休みの日とかに公園行ったりうちで遊んだり⋯⋯。
ふと気づいたら、荷物持ちに呼び出されるわ宿題をやらされるわ、完全なパシリになってたんだよなぁ。
⋯⋯最後はまあ、アレだけど。嫌われるような事したっけ)


 呑気な性格でどちらかと言うと事なかれ主義だった花梨は大きな問題を抱えたことがなかった。人との関わりは浅く広くで、問題が起きそうな気配がした途端逃げ出していただけのような気もするが。

(それくらいなら別にいいよね、昔から『君子危うきに近寄らず』って言うもん)

 何人かの男の子と付き合った事はあるが、すぐに振られるか自然消滅。

(それでも、まあいっか⋯⋯で終わってたし。その度に樹里や飛偉梠にバカにされてたから誰かと付き合うのもめんどくさくなったんだよね)

 樹里や飛偉梠との関係でも一歩引いていた気がする。2人が付き合っていても別れても特別気にならなかったし、喧嘩に巻き込まれなければオールオッケー。二股だろうと何股かけていようと何も言ったことはない。
 声をかけられれば付き合うけれど、花梨から声をかけて2人の時間を邪魔するなんて有り得ない。

(2人とは好きな事が違いすぎてつまんないと言うか、面倒くさかったんだよね。樹里は飛偉梠と2人だけの方が嬉しそうだったからちょうど良かったはずなんだけどなあ。
『これからデートだからぁ』とかってさっさと行っちゃうくせに、後から『別行動するなんて酷い』とかって怒ってくるし。
⋯⋯昔から意味不明な2人だったって事ね)

 別の高校に進学した後もなぜか宿題を持ってくる樹里に首を傾げ、ちょくちょく呼び出されたが都合が合わず断ることが増えた。

(そしたら、樹里がうちの家族に泣きつくんだよね。で、『理由はよく分かんなかったけど泣いてたから行って話を聞いてあげなさい』って言われる。挙句には宿題くらい教えてあげれば? とか言われるし)

 しつこく切れない腐れ縁がずっと続いて⋯⋯。

(ぜんっぜん分かんない! 嫌われる理由もパシリにされた理由も、さっぱり分かんない! キング・オブ・モブの花梨ちゃんって誰かに言われた事があるくらい、地味~に生きてたはず⋯⋯なんだけどなあ)



 全く実りのなかった脳内会議を無理矢理終了させ、モゾモゾと寝支度をはじめた。

(魔導具に干渉するのは多分無理だよね。さっきなんか思いつきかけたんだけど何だったっけ。
うーん、思いだせん! だったら⋯⋯⋯⋯そう言えば魔力には相性があるって言ってた。属性がない魔力なのに合う合わないって何で決まるんだろう。それが分かれば、譲渡した魔力を合わない物に変質したら使えないとか⋯⋯。
それと、使う魔法に合った魔力に変換って言ってたのはなんだろう。それぞれの属性に合う魔力があるって事なら魔力の相性が合わない人っていっぱい出そうな気がする。
今回の問題とは別に、人によって使える属性と使えない属性があるのも気になるし。
あーもー、グリモワールの目が覚めてたら聞けたよねー)

 ランプを消してモゾモゾとベッドに潜り込んだグロリアは目を瞑り、前世の家族とジェニ達にお休みを言い⋯⋯ガバッと起き上がった。

(そうだ! 私が新フサルクを使えない理由が分かれば何か閃くかも!! 同じ魔術なのに使えるものと使えないもの⋯⋯魔法も同じ原理が当てはまるとか。
こうしてる間にも侯爵家に利用されたり狙われたりしてる人がいるはず。頑張らなくちゃ!)

 ベッドから飛び出してライトの護符を使ってポーチからノートを取り出した。王立図書館で調べた新フサルクに関する資料を読み漁った。

 新フサルクは文字数が16に減ったことにより、以前より多くの意味を持つ文字が増えた。石碑・慰霊碑・記念碑などに長文のメッセージが刻まれることも増え、呪術による成果を望む護符タリスマンよりも御守りとしての役割が増えていった。

(使われなくなったルーン文字の代わりを別の文字に当てはめて、バインドルーンはお守りとしてのシンボル ルーンガルドゥルになり、願いを文章として⋯⋯アルファベットも⋯⋯)

 場を整えて祈りを捧げる事で効果を発揮する護符タリスマン⋯⋯。グロリアはある仮説を立てた。

(後はどこで実験するかなんだけど⋯⋯うーん、寝よう、夜が明けちゃいそう。徹夜は得意だけど明日⋯⋯今日は苦手なマナー講師の来る日だもん)

 ロッテン◯イヤーさんに似たマナー講師のアデル夫人はグロリアに扇子を突きつけるのがとてもお気に入りで、謝るタイミングを逃すと『バシッ!』と風魔法を飛ばしてくる強者。
 何よりも、別の曜日にフノーラの講師を務めているので事あるごとに比較してくるのがとても面倒くさい。

(猫を被ってるフノーラ相手でも私の方がちゃんとできてると思うんだけどなあ⋯⋯寝よう、うん)



 翌週の水曜日、午後のお茶の時間になって漸く時間ができたグロリアは、大急ぎでジェニの屋敷にやって来た。

「なに、どうしたの!?」

 グロリアが使ったことのない、正門から屋敷に向かう芝生のない道⋯⋯硬い石畳みの上にセティが正座して、これ以上ないほど深く頭を下げているのが見えた。頭のてっぺんの髪がふわふわと風にそよぎ、妖精達がその中から顔を覗かせている。

 いつまで経ってもその姿勢を崩さないセティに、グロリアは恐る恐る近づいて声をかけてみた。

「あのー、なんでセティが土下座してるの?」



「大変申し訳ありません!!」

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