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第一章

61.新情報に揺れ動く者

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【最初っから全種類の護符持たせとけば?】

【俺っちも思った~】

「ジュニアじゃなくてハニちゃんを大量に出せば簡単とかさ」

「そうなると魔力量の問題と処理速度の問題がね⋯⋯ハニちゃんが1番魔力を使うから何体も出し続けると魔力が無駄になるって言うか足りなくなる可能性があるんだよね。
それに全部の護符を持ってると判断・選択に無駄な時間がかかるから、ハニちゃんはジュニアが受けた攻撃に対応する護符の選択に集中すればハニちゃんJr.が多くても処理が早いんだ~。
ハニちゃんJr.は攻撃・対戦特化型だから遠慮なくやられてもらって、受けた攻撃に対抗できる構成のハニちゃんJr.をバンバン出しまくった方がローコストで相手を慌てさせられるみたいな?」

「つまりちょびっとの魔力でバンバン出続けるハニちゃんJr.はおんなじ顔してんのに対策済みで別の能力持ちの可能性が高いって事かよ。しかもグロリアに魔力がある限り永遠に出続けるって⋯⋯怖すぎじゃねえか」

「うーん、そう言われてみればそうかも。さっきと同じだと思ったら別人が目の前にいる感じだから怖いよね~。考えるのが楽しかったからつい⋯⋯」

 呑気そうにケラケラと笑ったグロリアの周りはドン引きしていた。

(グロリアは怒らせたら怖えけど、楽しませても怖えってか?)




「そうだ! マルデル情報がちょっとだけあるの。前世のテレビ番組にあった『逃◯中』っていうゲームをやるんだって。
それと私の先生に女の先生を推薦してきてたって、フノーラが言ってた」

「その『逃◯中』ってのはなんだ?」

「鬼ごっこって分かる?」

 全員が首を横に振った。

(そうか、この世界には鬼ごっこってないんだ)

「鬼ごっこは⋯⋯鬼って言う悪者役の子供がそれ以外の子供を捕まえる遊びなんだけど、前世でそれを大人がやって遊ぶ『逃◯中』って言う番組があったの」

【番組⋯⋯四角い怪しげな板に映るアレのことじゃな】

 花梨達のいた世界に何度も遊びに行っているヘルはテレビを見た事があるらしい。

「そう、四角い板がテレビで映ってるのが番組。『逃◯中』っていうのは2つのグループに分かれて、片方が鬼役のハンターで反対が犯人になるの。ハンター達は犯人達を捕まえて牢に入れるんだけど、制限時間の終わりまで逃げ切った犯人は賞金がもらえるゲーム」

「それをマルデルが提案した?」

「そう、樹里はこの番組が大好きだったからそれを今世でやろうとしてるだけかもしれないから、大した問題ではないかも」

 こんな大勢の前で報告するほどの事ではなかったと恥ずかしくなったグロリアは少し顔を赤らめた。

「どうかな。クソビッチの提案なら一応調べておいた方がいい気がする。もう一つの女の先生って名前はわかんないのか?」

「忘れたって言ってた。そう言えば、女の人みたいとも言ってた。数理学の教授を辞めさせてその先生に交代させろってマルデルに言われてたんだって」

「女か女みたい?⋯⋯フノスフノーラは相変わらずいい加減な奴だなぁ。なら、グロリアはソイツには会った事がないんだな」

「うん、フノーラがゴリ押しする前に伯爵が別の先生に変えたからダメになったっぽい」

「クソビッチの推薦か⋯⋯凄え臭うな。何のためにソイツをグロリアに近づけようとしたのか」

「今まではマルデルとのことは秘密だったけど伯爵達に交流がバレて開き直ったみたいだからこれからは色々喋るかもね」

(尊敬しているマルデルの話ができて嬉しいのにプラスして『役立たず』の姉を堂々とディスるチャンスだとでも思ってるんじゃないかな)



「もしかして女の人か、女の人みたいな名前って事じゃないかな」

 戦いにほとんど参加できず凹んでいたセティが声を上げた。

【なら、マルデルの近くでそういう名前がないか調べるね。簡単な計算でさえ魔導具を使うこの世界で算術を教えられる人は少ないから何とかなるかも】

 マルデルの交友関係を調べているイオルが張り切って鼻をふんすと鳴らした。



【うーん、もしかしたら⋯⋯でもなあ】

「あ? マーナはっきり言ってみろよ」

 普段心のままに行動して、考える前に口に出すマーナが口籠るのは珍しい。

【俺っちは王宮に調べに行っただろ?】

「ああ、んで?」

【提案書に書かれてた名前は、ボーウス・V・リンドとヴィッシュ・V・グリーズ。
でね、リンドとリンダかなあってつい】

「綴りを考えりゃOとAの違いだからフノスくらいいい加減な奴ならアリかもな。
それにしても黒幕が二人とは⋯⋯めんどくせえな」

【フルネームがわかりゃ簡単に見つかるさね】

「リンド?(いや、よくある名前だしまさかね。あの方はとても立派な方だもん)」

 ヘルの言葉に全員が頷いたがセティだけは様子がおかしい。

「セティ、顔色が悪いけど大丈夫?」

 セティが真っ青な顔になり何かぶつぶつと言いはじめたのを心配したグロリアが声をかけた。

「大丈夫、何も問題ないよ。(調べればすぐに彼じゃないってわかるはず。だって、彼は司法神の一柱だったんだから悪事に加担するなんてあり得ないしね。グリーズだって偶々だと思う)」



 結界内を元通りにして屋敷に帰ったグロリアは久しぶりに感じた達成感に心を躍らせていた。

(もう『役立たず』なんかじゃない。私の魔力はルーン魔術に使えるし、色々な事ができるようになってたもの。多分だけど、いつか何かできるはず!
生活費を稼ぐ方法はまだ見つかってないけど、それもきっと何とかなる)

 それから2ヶ月後、マルデルの計画が判明した。



 いつもと変わらない夕食の風景。黙々と食事を口にするグロリアの近くで、3人家族の楽しそうなお喋りが聞こえていた。

 お茶会で知った新しいゴシップを楽しそうに話す母ルイーザと、相場に手を出して失敗した某子爵を笑う父マックス。その合間に新しいドレスを強請る妹フノーラ。

 頭の上を通り過ぎていく会話を聞いているふりをしていたが。

「⋯⋯たんですって。あの家は当分、社交なんて無理ね」

「ならば、次の闘技大会も不参加か。そいつは笑えるな」

「とうぎ大会って、マルデル様のきかくしたゲームのことでしょう!? それに参加できないなんて情けなーい、ぷぷっ」

(ん? マルデルの企画したゲームって、例の『逃◯中』ってやつ? それを闘技大会でやるって、一体どうやるつもり?)

 毎年行われる闘技大会は学園生の部と成人の部に分かれて行われる勝ち抜き戦。他国からの参加も可能で、優勝者には多額の賞金が与えられる。

 王都の外れにある巨大な闘技場には参加者の家族や見物人が押し寄せ、屋台・見世物小屋・ジプシーなどが集まり終日賑わいを見せるこの国最大のイベント。



「ああ、新しい部門ならヤツのところも参加できるはずだったのに、参加できん理由がそれではいい笑い者になる。今回の醜聞が長引くよう話を広めんとな」

 マックスは腹だけでなく最近増えてきた頬の肉をプルプルと揺らしながら笑った。

「あの、それってフノーラがこの間言ってたゲームの事?」

「そうよ。次のとうぎ大会はすごーく楽しみ!」

 まるで自分の事のように上機嫌なフノーラは、意地悪そうに口を歪めてフォークをグロリアに突きつけた。

「その時はお姉様にも大切なおやくめがあるんですって~。よかったわねぇ、ぷぷぷっ」


「そうそう、フレイズマル侯爵から確認が来ておるからな」

「それってまた魔力譲渡するって事ですか?」

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