前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

60.ハニちゃんは高性能

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 分裂した個体といえば性能は本体と同じになるのが一般的。ハニちゃん自身があらゆる魔法に対応できる魔術や能力を持っていたとしても、自分たちが戦っていたハニちゃん達は使用できる攻撃の種類だけでなく力や回避能力、瞬発力などあらゆる点で個体差があった。

「えっと、戦う相手の情報に合わせたジュニアを作って送り出してるみたいな?」

【俺っち、意味が分かんない】

「えーっと、魔法を使う相手だとその魔法の属性に強い属性の護符を持たせるとか、攻撃力の強い相手には回避と力とか⋯⋯途中で幻惑魔法が出てきた時は速攻で気合と威圧の護符を追加したり」

「俺の後ろから飛んできた氷の正体は?」

「ジェニは炎の攻撃をしてたから、氷魔法の攻撃を向けられたら隙ができると思ったの。で、ハニちゃんは下から攻撃してるから回避するならジェニは上に行くはずで。
大量の刃を投げつけたら流石のジェニでも全部は回避できないでしょ?
だから、躱す時にジェニが飛べる方向をある程度作っておいて、刃に紛れ込ませた礫を板に当てて跳ね返らせれば後ろから攻撃できるかなって。
前世でいうところの行動予測に近いかな、正攻法で太刀打ちできない相手に便利でしょ?」

「⋯⋯余裕こいてたから隙だらけで、俺はあの位置に誘導されたってことか」

 ガックリと肩を落としたジェニの肩をラプスがそっと叩いた。

「うぐっ!」

【ド、ドンマイ】

 押しつぶされたジェニに全員がエールを送った。

「まあ、遊びだったからできたんだけどね」



【アンタ、それを全部一度にやったってのかい?】

「ポーチは頭で考えただけで必要な護符を取り出してくれるし、護符は種類も枚数もかなり準備できてる。攻撃の相性みたいな基本情報はメインのハニちゃんにインプット済みだし。
私と偵察用のハニちゃんは対戦相手の行動を見てたと言うか、みんなの情報をメインのハニちゃんに追加でインプットしたり指示を追加したりするだけでメインのハニちゃんがジュニア達をコントロールしてくれたの」

 メインのハニちゃんは目標の達成を意味する《イング》とブランクルーンの《ウイルド》のダブルバインドの護符が基礎になっている。
 ブランクルーンの《ウイルド》には新たな可能性を導く力があり、《イング》には停滞しているものを活性化させる力がある。

 ハニちゃんJr.は周囲からの協力を意味する《エオー》と行動力を意味する《ケン》のダブルバインドが基礎。
 因みに《エオー》には変化や成長を助ける力があり、《ケン》には勇気や自信を与える力がある。

 偵察用のハニちゃんには刺激を与える《ウル》と、移動を意味し見守る力を持つ《ラド》が基礎になっている。

「それだけであんなに自由自在にハニちゃんが動けるとは思えないんだけど?」

 セティが目を輝かせながら雪玉をマーナに投げつけた。

「えーっと、プログラムって知ってるかな。大きなシステムを動かす時って条件によって必要なプログラムを自動で起動するように作るんだけどそのイメージで作ってみたの。
魔導具の計算機って、人の頭が回転するより余程早く計算してくれるでしょう? あれと同じ考え方で、人間が目で見て判断して指示を出す殆どをハニちゃんにさせたの。
色んな護符を準備しておいて常に相手の弱点になる攻撃をさせるとか」

 複雑なトリプルバインドやクアドラプルバインドが作れないグロリアが最近勉強しはじめた魔法円の知識も使いグリモワールと共同で考え出した苦肉の策。

「反射の護符を作る時に気付いた方法なんだけど、反射ならその攻撃の弱点をつけば良いんじゃないかってグリちゃんに相談したんだ。私の護符ってなんか威力が上がりすぎだから、複雑な護符や魔法円より細かく護符を切り替える方がバリエーションも増えて良いかなって」

「強力すぎて暴発する護符ばかり作るグロリアならではの手法ってやつか」

(褒められてると言うよりもディスられている気がするけど気にしない気にしない)

「うん、常に起動してるいくつかの護符から必要に応じて別の力を持ってる護符に切り替える指示を出しながら動かしてるの。対象者から受けた攻撃の情報を蓄積して護符を切り替えさせてるイメージ。ハニちゃんJr.が違う護符を持った別のハニちゃんJr.に切り替わってるみたいなイメージかも」

(大容量のハードディスクに保存されてる大量のデータを使ってプログラムを起動してるって感じだよね。となるとハニちゃんがタスクを処理してるCPUなのかな? わあ、ハニちゃんって凄い)

 初めて土の攻撃魔術を行使した時にできた旧ハニちゃんを改良した今回のハニちゃんは、想像以上の優秀さを発揮しグロリア自身を一番驚かせていた。

「情報をパターン化して処理させる術式と敵対する相手に効率的な機能を持った者を向かわせるのはオーディンが考案中だったものをパクって使ってる。私なんてグリモワールが説明してくれたから漸く理解できた感じだけどね。
彼がエインヘイヤル 死んだ英雄用に考案しかけてたやつ、自動的に有利な戦いをするマシンにしたかったのかも」

 ラグナロクに向けてどんどん増えていくエインヘイヤル達の有効活用のつもりなのか。敵の情報を分析して最も攻撃が効きやすいエインヘイヤを向かわせる術式。

(多分、楽がしたかったんだよね)

 戦い以外の部分をルーチン化してしまえば手間が減る。自分が表に立たなくても都度戦略を指示しなくてもいいなら手間も危険も格段に減ると考えたのは、人間をただの駒と考えていた彼らしい思考だと思った。

(完成してなくて良かった。そんな事になってたらあまりにも悲しすぎるもの)

 グロリアが相手の過去と現在で使用した魔法属性などの情報を送った後は、それに反する魔法属性を半オートで組み込んだハニちゃんJr.が出撃。対戦相手の新しい情報がインプットされれば、必要な護符がハニちゃんJr.に送られるか新しいハニちゃんJr.が送り込まれる。

「ハニちゃんJr.が倒されても基本情報はハニちゃんが保持しているから、次のハニちゃんJr.を送り出すだけでいいっ⋯⋯あっ。
これって考えてみたら結構怖いよね」

(お前が作ったんだろ!?)

 全員の心の声が一致した。



「マルチタスク⋯⋯怖え。ルーン魔術とセットだと最恐じゃねえか。しかも行動予測で裏をかくなんてよ。
あれだけ戦った後でもリアの魔力は十分残ってるし。こうなったら魔術の実験方法は変更だな」

「へ?」

「あんだけ自由自在に使えるんだぜ。今までの実験のやり方が間違ってたって事」

 ジェニ達は皆一つ一つの魔術を正確に発動させる練習をしてから実戦に使用してきたが、グロリアにはその方法は不向きだったのだろう。

(その時々の行動に合わせた魔術を行使する方が威力をイメージしやすいって事か)


「ああ、そうか。そう言えば⋯⋯楽しすぎて気づいてなかった」

 呑気に『テヘ』と笑うグロリアだが、1年経たないうちにこの実力を身につけたとは⋯⋯この先勉強が進めばどんなことになるのか。

 全員の心に浮かんだのは⋯⋯。

(グロリアとグリモワールのセットはヤバすぎる。絶対に誰にも知られないようにしなければ世界が滅ぶ)



【魔法の相性は既に知っておったのだな】

「前世の異世界転生ファンタジー小説の情報なの。結構ハマって読んだ小説がこんな時に役に立つとは⋯⋯。結構びっくりだったなあ。てへへ」

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