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第一章

50.はいはいはい!私の出番ね、やるやらせて!

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「魔導塔監視用のメンバーはスルトって言う元巨人族を使うつもりなんだけど、呼び出したら逃げ出しやがったんでヴァンに行かせた」

 再びグロリアの心の声に気付いたジェニが教えてくれたが⋯⋯。

「その人が嫌がってるなら」

 セティと初めて会った時を思い出したグロリアは俯いてしまった。

(ジェニ達に全部押し付けてる私が言うのはダメだけど、無理強いになったら申し訳ないよね)

「いや、奴が逃げ出したのは王都に来るのが嫌なだけで、それ以上の餌をぶら下げたからあっという間に巣穴から飛び出してくる」

「それがヴァンってこと?」

「そ、因みにめんどくせぇ奴だからヴァンの機嫌が超ヤバい」

「もしかして⋯⋯マールにとってのヘルだったり?」

「おー、珍しくいい線いってんじゃん。ヴァンが不貞腐れるから、当分の間ここには出入り禁止にする予定だがな」
 
(ヴァンにも春が来てたのかぁ。スルトちゃんって可愛いのかなぁ、友達になれたりする? そう言えば、今世の私って女の子の友達っていないじゃん。ヘルに友達だって言ったら嫌がるかなぁ)

「ねえ、スルトちゃんってどんな? 女子トークできたりする感じかな?」

「ぶふっ!」

(癇癪持ちの大男で怒ると所かまわず火魔法を打ちまくる癖があるし、なんなら炎を纏わせた剣で屋敷ごとぶった斬りそうな奴なんだが。スルトの女子トーク⋯⋯聞いてみてえ~)



「ゴホン! あーそんなわけで、人手が足りんのだわ」

 ひとしきり大笑いしたジェニが気を取り直して真面目な顔でグロリアをチラ見した。

「はいはい! 私、私手伝いまーす!」

 3匹があちこち走り回ってセティがモジモジしながら情報収集に勤しんでいる今、是非手伝いたいと手を上げたグロリアだった。

「おう、こいつはグロリアにしかできん。普段の間抜けっぷりを片付けてだな、こわ~い顔でバシッと決めて欲しい!」

 うんうんと首を縦に振ったグロリアはキラキラと目を輝かせた。

(漸くお手伝いできる時がきたー!!)

「で、どうすればいいの?」



「裏切り者の炙り出し、はじめっか」

「裏切り者?」

 予想外の言葉にグロリアの顔がこわばった。

「おう、そいつはな、しれっとした顔で大事な情報を隠し込んでいやがる。最低の裏切り行為だと思わねえか?」

「う、うん。確かにいけない事だと思う。思うけど、一体誰がそんな」

「情報を一言でも漏らしてたらタダじゃおかねえ。グロリア、『ゲニウスの本』を出してくれ」

(⋯⋯この流れって。ほ、本が裏切り者って事?)

 少し震えながらポーチから本を取り出したグロリアは古びた表紙の文字をそっと撫でた。

(嘘だよね、だって毎日一緒にいていっぱい教えてくれて⋯⋯合ってたら柔らかく光って、間違ってたらブルブル震えて)

「おい、なんか言う事あんじゃねえのか!?」

【⋯⋯ワシは契約者のグロリアを裏切れん。じゃから、裏切り者なんかではない!!】

「しゃ、喋ったあ!! うそお!」

「契約者にとって重要な事を黙っとくのは裏切りだろ?」

【重要かどうかなんぞワシは知らん! ワシはただの古ーい本じゃ】

「嘘をこくなら、この場で燃やしてやろうか? てめえはよーく燃えるって知ってるんだぜ?」

【ワ、ワシの知識が消えてなくなってもええんかい!】

「なきゃないで、他の方法を探す。てめえのせいでクソ野郎に力の一部が戻ったんだよな。ああ? なんとか言ってみろよ!!」

【それは⋯⋯ワシの、その】

「新しい契約者が不利になる可能性もわからんのなら、もういらねー」

 ジェニの手から炎が立ち上がった。鮮やかな赤い色の炎はオレンジ色に変わり、その後一気に黄色に変わっていった。

 無言を貫いている『本』は色が変わるたびにグロリアの手の中で少しずつ重さを増している。

「まだまだ行くぜ。てめえが最後に見る炎だからなぁ、大盤振る舞いしてやるよ。グロリア、本を下に置いてここから離れろ」

 冷ややかな目つきで突き放すように言ったジェニの言葉が終わると同時に小さく白く輝きはじめた炎の推定温度は6500度。

 指輪の防御がフル稼働していても耐えられないほどの熱さにグロリアが本を下に置いて後退りすると、白い炎は少しずつ大きくなりながら青みを増していった。

「青の炎は1万度以上って知ってっか? クソ野郎の魔術がかかってても元はペラペラの羊皮紙、どっちが勝つか勝負じゃあ!!」

 ジェニが手を振り上げた途端、『ゲニウスの本』がぴょんと飛び上がった。

【待て! ワシが悪かった!! その火はマズイ⋯⋯ロキ、貴様はなんちゅう奴じゃ。青の炎じゃと? あっすまん、許してくれ、許して下さい。ひぃ、ごめんなさい!! グロリア、助けてくれぇ】

「え~、秘密作られてたのに~? 流石にそれはちょっとショックが大きすぎるかな~。これじゃあもう、関わりたくないって思っても仕方ないよね~。
うん、今までありがとう。すっごく勉強になった」

【ル、ルーン魔術!! ワシがおらんかったらルーン魔術の勉強ができんように⋯⋯】

「私は元々魔法だの魔術だののない世界にいたからぁ、なければないで生きてけるかなーって思ったりもするのぉ。
ルーン魔術ってかなり危険でしょ~。永遠に消滅した方が安全とか?」

【ワシはすんごい優秀なんじゃ! 危険どころかなんでも望みを叶える方法を教えちゃる、ほれ言ってみ?】

「だったら、前世に生き返らせて」

【へ?】

「前世の両親とお姉ちゃんのとこに帰りたい。大学行って勉強して、帰りに友達やジェニや3匹やヘルと、セティも一緒にサー○ィ△ンのアイス食べに行きたい。
休みの日にお母さんの作ったご飯食べて、お姉ちゃんと巫女舞の練習したい。んで、お父さんと剣道の試合し⋯⋯あっ、私剣が使えるかも。ジェニ、今度剣の試合してみようよ」

「⋯⋯リアちゃん、いいとこいってたけど話ズレてる」

【⋯⋯ワシもそう思う】

「さーて、どうする? バルドルでさえ花梨を生き返らせるのは無理っつったんだが?」

【ごめん、ワシも無理⋯⋯ 魔剣・ダーインスレイヴの傷の癒やし方は知らんのよ。てか、多分治し方はないけん】

「では、気を取り直して燃やされますかね」

 ゴオゴオと音を立てる青い炎がジェニの手の上でジワリジワリと大きくなっていった。

【わあー、すまん! それだけは許してくれ。ほんと、シャレにならんって。なに、何が聞きたい? なんでも教えちゃる、教えさせていただきます、ロキ様! グロリア様、助けて~】

 その後洗いざらい吐いた『ゲニウスの本』の情報によると⋯⋯。

 本の一頁目に書かれていたオーディンのメッセージをグロリアが読んだ時、本が覚醒し位置情報がオーディンに知らされたと言う。その繋がりを利用したオーディンが手下のワタリガラスと狼をニブルヘイムに呼び寄せようとして失敗したものの、彼等には過去の知識と知恵が戻ってしまった。

 思考を司るフギンと記憶を担当するムニンという2羽のワタリガラスは、あちこちを自由気ままに飛び回っては時々『本』の元に帰ってくる。
 貪欲な者と呼ばれるゲリとフレキの兄弟もこの世界を走り回り自由を満喫していた。

【フギン達は色々知っとるようじゃが、ワシには何にも教えようとはせん。ゲリとフレキ兄弟は一度だけやって来たが、大した話もせず帰って行ったんじゃ。フェンリルの気配に怯えてそれ以来顔を出さんしなあ。
ほらな、ワシ、大した情報持っとらんで?】

「奴等はまだオーディンと繋がってないんだな?」

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