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第一章

49.有罪か無罪か

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「黒幕の名前がある?」

「そりゃ普通はあるだろう? 上下水道なんてできた日にゃ街は臭くなくなって病気も減る。提案者は英雄扱い間違いなしだ。
魔力が弱まって右往左往してる国に新しい魔導具を提案したのだって大騒ぎになってるから、クソビッチの評判は鰻登りだろ? その名誉を捨てるのは馬鹿か別の狙いがあるかの2択しかない」

「そう言えばそうかも。衛生面とか格段に進歩するし、魔導具は魔法大国にとって喉から手が出るくらい欲しいものだもんね」

「そいつの狙いが何なのかも態々クソビッチを間に挟んだ理由も分からんのがイラつくがな」

 マルデルと関わりがあるなら恐らく貴族だろうが、自分でツテを見つけて国に提案すればとっくに英雄扱いされている。

「この2つってやっぱり同じ黒幕からの情報なのかな?」

「多分な。そうそう都合よく情報提供者を何人も見つけれるとは思えん」

 清潔な水に注目するのは異世界転生あるある。前世で本屋に並んでる本を見たらはじまりは必ず水道を作るか日本食で飯テロの2択かと思う程で、何故かそれに対する知識が豊富で『流石ファンタジ~』と思っていた。

「転生した学生や一般人が『水路の作り方は!』『濾過する方法はこうだ!』とか知ってて、味噌や醤油の作り方も知ってて材料集めするんだよ~」

 いつでも入れるお風呂や臭くない家や街が恋しいグロリアは上下水道の話を聞いてから完成が楽しみで仕方ない。

「クソビッチに出来るのは『臭い!』『お風呂に入りたい!』って騒ぐくらいじゃね?」

「それは間違いない。樹里が『お風呂入りたい!』って駄々捏ねて、それを聞いた人が『だったら水道作る?』みたいなノリなんじゃないかな。
それか『水道の作り方知ってる』って話してるのを聞いたとか」

「クソビッチが騒いだら偶々目の前に詳しい奴がいたって不自然すぎねえか?
自分が欲しい情報を話してる奴に偶々出くわす確率はどんくらいあると思う?」

 ベンチの背にもたれて足を前に投げ出したジェニが頭の後ろで腕を組んだ。

(ジェニ、足長~い⋯⋯同い年のはずなのに、うぐぐっ。最近背も伸びてるし良いなあ。私の成長期早くこーい)

「うーん、そこは元女神の能力とかかなぁって思ってた。侯爵が言ってたマルデルの『先見の力』だっけ、あれを使ってこの世界の未来で水道を考案する人を見つけたとか」

「いや、セイズが使えねえクソビッチに『先見の力』はないはずなんだ」

「力を取り戻したとか?」

 それだとこの先恐ろしい事になりそうだとグロリアは顔を引き攣らせた。

(セイズは未来予知だけでなく呪詛もできるんだよね。樹里が呪うとしたら真っ先に私だよね。呪いって魔法攻撃とは違うのかな⋯⋯攻撃を反射する護符で対応できる?)

「クソビッチにどんな力があるかは調べ直す必要はあるが、別の能力者からクソビッチに近付いたって考える方がスッキリする。
でさ、公衆トイレが気になってんだよなぁ。アレはおかしい。水道や魔導具とは括りが違ってくる」

「えーっと、なんで?」

「黒幕が貴族なのもソイツが真面じゃねえのも間違いない。クソビッチなんかに関わる奴に真面な奴がいるはずがねえからな。
この国のお貴族様は平民の事なんて下僕か奴隷くらいに思ってるからあんな馬鹿げた魔導具が作れるし、魔力の供給源として考えてるのは魔法の使えない平民なんだ」

 グロリアのように貴族のままで暮らしている『役立たず』は珍しく、普通なら家から除籍されて平民となり生活苦から逃れる為に魔力を売るようになる。

「クソビッチ達がトイレと風呂を作れって騒ぐのは理解できる。貴族は家持ちがほとんどだし住んでるのも貴族街に集まってるから、そのエリアだけに設置するならローコストで早期実現できるだろ?
魔導具も基本的には魔法至上主義の貴族の利益にしかならねえ。
ところがだ、使うのは平民達がほとんどになる公衆トイレだけは貴族に恩恵がないどころか、開発を大掛かりにするだけ⋯⋯貴族の利益に反するってやつなんだ。
それを考えると黒幕にはクソビッチ達とは違う⋯⋯別の狙いがある気がする」

 マルデルに知恵を与えた人は単に知恵をひけらかしたかったとか、誰かと話しているのをたまたまマルデルに聞かれただけだと思っていたグロリアは頭を抱えた。

(なんだかややこしくなってきた。樹里がどこにいるのか分かってるんだし、キラキラ権限でサクッと捕まえちゃうってできないのかな)

「神界の宝物庫から盗んだダーインスレイヴのありかが分かってないからまだ放置」

「へ? ジェニ、心を読んだの!? だ、だめだよぉ! 禁止、絶対禁止だから!!」

 両手で大きなバッテンを作ったグロリアが大きくのけぞった。

「ばーか、リアは思ってることがぜーんぶ顔に書いてあるから、超わかりやすいんだよ」

 だから前世で樹里に利用されまくったんだとジェニに言われ、ポカンと口を開けたグロリアの両手がだらんと下に落ちた。

「あ、涎垂らすなよ。それにホケっとしてたら虫が入るぞ。
んで、そいつが無害な知識提供者なら提案書に名前はない可能性もなくはないが、書かれていたら確実にギルティだと踏んでる」

「黒幕が知識をひけらかしただけなら提案書に名前はなくて、マルデルが小耳に挟んだって知らない時も提案書に名前はない。この2種類ならイノセント無罪
名誉が欲しいとか何か裏があるとかなら提案書に名前を残すからギルティ有罪って事ね」

(水道の設置は凄く良いことだけど魔導具の提案してたら極悪人だもん)

「個人的な狙いがあるけどその為には自分の名前を秘密にしておきたいってのはないかな?」

「うーん、可能性がないとは言えねえが。もしそうならかなり悪質な狙いって事だな。魔導具の提案書も一緒に調べてるから、なんか分かるだろう」



「フノーラの方はセティが今度こそ見逃さないって張り切ってた」

 真っ青な顔で駆けつけたセティを思い出したジェニは苦笑いを浮かべた。

 どうやら消滅させられたりはしなかったようでホッと胸を撫で下ろしたグロリアだったが、次の言葉で『プッ!』と吹き出してしまった。

「フノーラの部屋は侍女かメイドしか入れねえから、今までは届いた手紙やら会った奴やらの監視しかしてなかったらしい。『その無駄に整った甘ちゃんマスクを使え』って言ったら顔を引き攣らせてた」

 セティが色仕掛けをしているのをリアルに想像したグロリアの笑いが止まらなくなった。

(いやぁ、セティには無理でしょ。多分だけど、少し涙目でプルプルしてしどろもどろに⋯⋯ん? あ、結構いけるかも)

 家庭教師が増え自由時間のなくなったグロリアはこの数日セティと会えていないが、失敗しても害はないだろうとスルーすることにした。

(使用人の女性には元々気に入られてたみたいだし。狙いは年上のお姉様かな⋯⋯お稚児趣味って言うんだっけ。セティの可愛い顔ならいけそう。お稚児行列って確か⋯⋯)

 グロリアが脳内で怪しい花を咲かせているとジェニが顔を覗き込んできた。

「ん?」

「いやー、リアちゃんに怒られると思ってたから。ちょーっと意外」

「なんで私が怒るの? 屋敷の使用人相手だもの、危険はないはずだよ?」

「⋯⋯そうか、ふむふむ。セティは想像以上に可哀想な奴だったか~。まあ、相手がトンマなグロリアだからな~、次に会ったらちっとばかりサービ⋯⋯」

 ジェニがぶつぶつ言っているがグロリアには意味がわからない。



(まあ、ジェニが意味不明な事を言い出すのはいつもの事だし。3匹がいないと寂しいけど頑張ってるんだし⋯⋯あれ? ヴァンの話出たっけ?)

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