前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

44.うっかり口を滑らしたフノーラ

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「今日からはお前も少しだけ『役立たず』ではなくなったとも言える。今後は侯爵家の嫁に相応しいと思って頂けるくらいの素養を身につけねばならん」

「明日から家庭教師を増やしますから、しっかりとお勉強なさい」

 両親の嬉しそうな顔が気持ち悪い。

 新しい魔導具は噂に聞いていたよりも危険な物だった。ニヘラニヘラと笑っている両親がどこまで知っていて実験を許可したのか分からないが、実の娘の危機より別の何かの方を優先したのだけは間違いない。

(『役立たず』を追い出せるチャンスだけとは思えないから、伯爵家もそれと同等の利益があるはず。銭ゲバ夫婦だもん、国内トップクラスの魔力量なら相当高値をつけたはずだよね)



 話の合間にオードブルが運ばれてきた。伯爵家ではこの後スープ・肉料理2種類・デザート&果物と続き最後に紅茶が出てきて終わるのが通常のパターン。

 グロリアにも2年ぶりのデザートが出てくるらしくスプーンやフォークが並んでいる。

 因みにフノーラが嫌う魚料理と父親が嫌がるサラダは出てこない。

(お肉2種類より生野菜が食べたいなあ。伯爵の二重顎も夫人の肌荒れもフノーラの吹き出物も減ると思うんだけど)



「それは、婚約が決まったと言う事ですか?」

「この国では正式な婚約は成人にならんと認められんから、お前の立場は公には婚約者候補の筆頭のままとなる」

「お姉様ったらそんな事も知らなかったの?」

「ええ」

(良かったぁ、あんなのと婚約なんてしたらとんでもないことになるもん。候補の間になんとしてでも逃げ出さなくちゃ)


「まあ、内々では既に決定しておるがな」

「えーっと、それは書類とかを作成済みって事ですか?」

「いや、口約束というやつだな。18歳になったら教会に婚姻予告の告知が張り出されるからそれ迄に細かい契約内容を擦り合わせておかねばならん」

「結婚は告知後40日以上経ってからと決まっているけれど、貴族は特別な理由がない限り半年から1年くらい開けて結婚するのが普通ね」

「じゃあお姉様はたんじょうびのあと、1ヶ月くらいでいなくなるのね」

「間違いなくそうなるわね。『役立たず』を貰ってくださるんだもの、一日も早くお仕事させていただかなくちゃ侯爵様に申し訳ないものねえ」

「新しい魔導具を頻繁に借り出すのは侯爵家でも厳しいらしくてな、暫くは呼び出されることはないそうだから不足している勉強を詰め込まなくてはならなん」

「私たちにはじをかかせないようがんばってね。あーあ、マルデル様みたいな方がお姉様ならこんな心配しなくてよかったのに。あっ!」

 フノーラの口から出た名前に椅子から飛び上がりそうなほど驚いたグロリアは持っていたフォークとナイフを落としかけた。

(うそぉ! もう繋がりができてたの!?)

「マルデル? どこかで聞いたような」

 慌てて口を押さえたフノーラだったがよく響く声は両親の耳に届いていたらしい。

「伯爵家のご令嬢のマルデル・J・バナディス嬢の事かしら? フノーラが知り合いだなんて聞いてないわね」

「それは、あの」

 母親から目を逸らして顔を顰めているフノーラが『ちっ!』と舌打ちしたのが聞こえてきた。

「アンタのせいだからね」

 グロリアと目があったフノーラが嫌味を言って睨みつけてきた。

(ええ! 私のせいなの!? てか、お母様達の監視の目を潜り抜けて知り合うとかすっごく危険な気配がするんだけど、どこで知り合ったの!?)

「マルデル・J・バナディスと言えば最近あちこちで名前を聞く魔法師団団長の娘だな。なんでも飛び抜けた才能の持ち主らしい」

「ええ、以前から容姿端麗だと有名で、フノーラと並んで『我が国に並び立つ輝ける至宝』だなんて言われてる方ですわ。特別な才能があるって噂が流れはじめたのは確か⋯⋯2年くらい前だったかしら。
でも、フノーラがお会いする機会なんてなかったと思うのだけど」

 両親の好奇の目にさらされたフノーラはしどろもどろで言い訳をはじめた。

「別に知り合いってわけじゃなくて⋯⋯もういいじゃない料理が冷めちゃう!」

「どうでも良くなんてありません! マルデル嬢とお知り合いになったのならなぜ報告しなかったの!?」

「そうとも、魔法師団団長との繋がりができるのは我が家にとって非常に大事な事だからな」

「⋯⋯だって、お姉様がわるいんだもん」

 普段優しいばかりの両親に問い詰められたフノーラが開き直ってグロリアを睨みつけた。

「どういう事なの? 詳しく話してちょうだい」

「マルデル様はね、とーってもおやさしいの! 自分は『役立たず』のお姉様と同い年だから、妹となかよくしてるって知ったら気をわるくするかもしれないって。だからないしょにしようって」

(優しいって、ディスってるだけじゃん。あーもー、樹里の手口そのままだよぉ! いい人のふりしながら人の悪口言って、結局思い通りにするんだよ。あの手口で何度悪人にされたか。思い出してきた⋯⋯ああ、腹が立つ)

 怒りでプルプル震えるグロリアに気づいている人はおらず、その周りではマルデル賛美が続いていた。

「まあ、我が家の問題まで忖度してくださるなんて親切なお嬢さんね。でも、そんなお気遣いはいらないって言えば良かったのに」

「そうとも、『役立たず』に気を使うなど馬鹿らしい。それでどこで会ったんだ?」

「会ってないもん。私は会いたいって思ってるけど⋯⋯。
どこかのおちゃ会で見かけたらしくて、知り合いの方をつかっておてがみを下さったの。それからもずっとおてがみのやり取りだけしかできてないのよ、ひどいと思わない?」

「今回の件を話せばこれからは大丈夫かもしれんぞ」

「その通りだわ。その後でお茶会を開きましょう。我が家にマルデル嬢がお越しになられたら評判になるわ」

 舞い上がる両親を見ながらフノーラがくるくると頭を働かせているのが手に取るようにわかった。

「じゃあ、おてがみに書いてみる。でも、おへんじが来るまでひみつにしててね」

「ああ、勿論だとも。で、フノーラはマルデル嬢がどんな才能を持っているのか聞いておらんのか?」

「きいてない。でも、びっくりするくらいいろんなことを知ってるのよ。別の国のはやりとかこれからはやるものとか。こないだなんて⋯⋯」

 話の途中で口をつぐんだフノーラがチラリとグロリアを見た。

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