前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

39.マザコンの一本釣り

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 ジェニとヘルの脅しに近い言葉の数々がセティの脳裏に浮かんだ。

(あ、あれはつまり⋯⋯さっきの風は侯爵の意思をコントロールした? そんなのロキしか。1回目の時みたいに魔力溜めて幻術かけるんじゃないの?
てか、さっきのグロリアの時みたいに助けてくれる⋯⋯なら、わざわざあんなこと言わないか)

「あの、私まだ大丈夫なんで。セティには関わらないでいただけますか?」

「うーん、しかしなぁ⋯⋯使用人など掃いて捨てるほどいるが、魔力タンクに使える『役立たず』を見つけるのは時間がかかるんだ。これほど優秀な魔力タンクを無駄にしたら勿体ない。
そこのお前、こっちに来い!」

 侯爵がちょいちょいと指でセティを呼ぶのをみたグロリアがソファから立ち上がった。

「セティを利用すると仰るなら私の父に確認をとってからにしてください。彼の雇い主は侯爵様ではありませんし、今回の実験対象は私だと聞いています! 
他家の使用人の生殺与奪の権利などお持ちではないのに、実験に利用するなど許されることではありません!!」

「ふむ、それも一理あるな。許可をとるのは面倒だし当初の予定通りでいくか」

 顎を擦りながら考えていた侯爵が魔導具に手を伸ばしかけた。

「ぼ、僕やります。あの、け、結構魔力ある方だと思うし」

(や、やるぞ! だから、ヘラ様絵姿2枚にしてください。あと、廃人になったらさっさとヘルヘイムの居住権くださいね。意識はなくても母様のそばにいれるなら、が、頑張れます!)



「セティ、ダメだって! こんな信頼性のかけらもない鬼畜な魔導具なんかに関わっちゃダメ!!」

「随分な言いようだな。我が国の魔力不足を解消する為に、魔導塔の精鋭が心血を注いで作った物を鬼畜だなどと不敬な! 子供の戯言で許されると思うなよ!」

「だったら侯爵が試したらいいでしょ!? 魔力の相性を確認する為の物は手に入れたんだから、自分がやれば!? まさかまさか、怖いとか仰いませんよねえ」

「馬鹿な事を! 父上に何かあったらどうするんだ!? そんな危険な事出来るわけがない」

「なら、アンタがやれば? 魔力が現在枯渇中とでも言いたいんなら『Movere』から魔力吸収してさ。元々アンタの為の実験なんでしょ? 自分の不足を他人に補わせようって言うなら、出来ることくらいやりなさいよ!」

 腹を括ったグロリアの目が据わり、腕を組んで仁王立ちしている見た目8歳の少女は侯爵やシグルドに迫力勝ちしていた。

「⋯⋯」

「2人とも廃人になるかもしれないから『怖いよぉ』ってビビってるんでしょう? 興味本位の人体実験に他人を巻き込むなんて最低! やるなら安全性が確認されてからにするべきだし、どうしてもやりたいんだったら他人を巻き込むんじゃないわよ!
一般の使用許可が下りない試作段階なんでしょ、そんな物を人に使おうなんて物も鬼畜ならアンタ達も鬼畜だわ」
 
「貴様ぁ! 黙って聞いていれば好き勝手いいおって!! しみったれた伯爵家の『役立たず』が、不敬罪で地下牢に入れてやる!」

「遠慮なくどうぞ~。魔力タンク、欲しいんでしょ~? 私ってばこの国トップクラスの魔力タンクになれるんだったかしらぁ。
セティ、直ぐに王宮に連絡を入れてくれる? フレイズマル侯爵家はトップクラスの魔力タンクを興味本位で廃人にする可能性が高い実験をする予定なんですけどって。もしかしたら騎士団や魔法士団の手助けができたかもしれない魔力タンクを危険に晒してでも先走って遊びたがってますって」

「王宮だと!? 使用人の話など真面に聞くわけがなかろうが!!」

「それはどうかなあ? 試してみられては如何です? ああ、魔導塔にも連絡してもらわなくちゃですね。問題を抱えた試作段階の魔導具で実験するそうですから、問題が起きたら貸し出した魔導塔が責任追及されちゃうかもしれませんしねぇ」

「き、貴様!」

「危険を承知で人体実験するなんて、世間にバレたらフレイズマル侯爵家はどうなるんでしょうねぇ。護送車みたいな馬車でお迎えに来られて、裏口からこっそり連れ込んだからって人の口に戸は立てられませんしぃ?
あっ! 侯爵とご子息が試した後ならお受けしても良いしれませんわぁ」

「ぐっ! いいだろう。シグルド、ソファに横になれ」

「は? えっ、父上。それってまさか」

「貴様が『欠陥品』でなければこんな小娘など切り捨ててやれたのに! 貴様が責任を持って試してみるんだ」

(あらあら、小娘ならぬ『小息子』が切り捨てられちゃった。コレでシグルドが壊れたら樹里⋯⋯マルデルはどうするのかしら。
それにしても『Cessiōne』なんてヤバい魔導具、何とかできないのかな。魔導塔をぶっ壊したら開発が遅れるとか。
塔の大きさは知らないけど、粉々にする程度の術式なら『ゲニウスの本』に書いてあったし暴走護符を何枚か使えばいけそうな気がするし。帰ったらもっと強力なのを作ってみようかな~)



 父親に切り捨てられたシグルドが床に座り込んでプルプルと震えているのを横目に見ながら、危険思想に染まっていくグロリア。

(資料は燃やし尽くすでしょう、それと研究者の頭の中から設計図を消すのは⋯⋯いっそのこと研究できなくなっちゃえば?)

 グロリアが益々過激思想に走りはじめた頃、侯爵とシグルドの動きが止まった。


「ほんと、グロリアって怒らせるとこえーよなぁ。マジで魔導塔潰す気だったろ?」

「臭い匂いは元から断たなきゃ⋯⋯」

【アタシは益々気に入ったねえ。愚かどもはジェニに始末させて、この後我が家に遊びに来るかい?】

「えぇ~? ちょっと待って! 面倒押し付けて2人でお茶とおやつタイムはズルくない?」

【イズンの林檎で作ったアップルパイは美味いぞ~。其方の前世の⋯⋯緑茶、取り寄せておいたしな】

「えっ、その組み合わせ大好きなんです! 緑茶の奥深い香りとあの美しい緑色、アップルパイのシナモンの風味とバトルする感じが堪らなくて。
ご存知です? 緑茶って口臭消しにもなるんですよ」

【ほう、次に其方がジェニとキスする前には飲ませておこうか?】

「冤罪冤罪! 俺、口臭とかありまっせーん!」

「⋯⋯⋯⋯えー、え? 何でヘルさん知ってるの?」

【アタシのお陰で初体験できたのさ。じゃが、お礼はいらんぞ】

「グロリアが⋯⋯下半身ゆるゆる男に喰われた」

 呆然としていたセティがまさかの勘違いで床に崩れ落ちた。

「喰われてない!」

「まだ喰っとらん! 見た目まだ8歳だぞ? どうやって喰うんだよ⋯⋯ブツブツ。
てか、その形容詞は何だ!? 下半身ゆるゆるとかって、俺はまだそんな歳じゃねえし」



 ほんの少し前まで一触即発の険悪な状況だった部屋の中にヘルの笑い声が響いた。

【まだ喰ってないとか⋯⋯パパったらぁ、も~欲望ダダ漏れ過ぎて超ウケるぅ~】

 齢4桁のヘルヘイムの主がコギャルのようなセリフを吐いた。

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