前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第一章

38.初めての召喚は「出てこいやぁ」みたいな勢いで

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 ジェニとの通話を終わらせて廊下に出ると真っ青な顔のセティが一歩近付いてきた。何かを決心したような顔つきのセティにグロリアは笑顔でサムズアップしてみせた。

「ありがとう(助けてくれるつもりなんだね)」

「こんなの間違ってる。許せないよ」

「黙ってやられるつもりはないから少し待っててね」

「分かった。でも、危険そうになったら奴らを拘束する。これでも元司法神としての矜持は残ってるんだ。相手が誰であってもこんなのは許せない」

「うん」



 部屋に戻ると侯爵が思っていたより時間が長くかかったからかグロリアとセティの様子が不快だったからか、侯爵がわざとらしい咳払いをしてグロリアに着席するようにと指示を出した。

 グロリアがソファに座ると、ニヤニヤと嬉しそうな顔になった侯爵がテーブルの上の魔導具を指し示した。

「右が『Movere』で左が『Cessiōne』
まずは『Movere』から試してもらうからソファに横になりなさい」

 侯爵が手に取った『Movere』は両手で抱えるくらいの四角い箱と平たい板がついたベルトがケーブルで繋がっている割とシンプルな形状だったが、『Cessiōne』は顔を覆う仮面のようなものが追加され平たい板がついたベルトも大小2本になっている不気味な物。

(仮面ってだけで不気味なのに、アレはなんだか見た目がデスマスクみたいで気持ち悪い)

 グロリアは素直にソファに横になり身体に沿わせて伸ばした手をぎゅっと握りしめた。いそいそと立ち上がる侯爵がマッドサイエンティストに見えて、グロリアは慌てて目を瞑った。

 侯爵達が立ち上がる気配とガチャガチャいう音を聞きながらグロリアは心の中で⋯⋯。

(イヤーカフ!)

 グロリアの右手の中にイヤーカフの冷たい感触がすると同時に侯爵の少し上擦った声が聞こえてきた。

「この後があるから吸い上げる量は少なめにしてあげよう。メインは『Cessiōne』だからね」

(うへぇ~! サバトで生贄に声をかける悪魔の声ってこんな感じかも)



「コイツは魔力量が多いと聞いてますから、マックスでも良いんじゃないですか? どのくらい時間がかかるか測っておけば後々便利かと」

(なんだとぉ。人でなしの最低野郎め、絶対に許さん!!)

「ふむ、それもそうか。『Cessiōne』は一般使用の許可が下りるのにもう少しかかりそうだから、当面は『Movere』を使うしかないしな」

 カチカチと音が聞こえるのは侯爵が設定を変えているのだろう。

(この親にしてこの子あり⋯⋯クッソォ~、ジェニー!!)

 グロリアが名前を叫ぶと、夢中になって魔導具をいじっている二人の後ろに禍々しい気配が現れると同時に音が消え、侯爵とシグルドの動きが止まった。

「ジェニさん⋯⋯あのー、なんかちょっと雰囲気が」

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんって言うんだっけ?」

「それ、古すぎだよ」

【グロリア、おひさ~! この2人、ニブルヘイムの飾りに持ってっていいかしらぁ】

「ヘルも来てくれたんだ~、ありがとう」

「時間を止めてるからな、起き上がってもいいぞ」

 ジェニの言葉でホッとしたグロリアが目を開けてモソモソとソファに座り込んだ。

「はー、怖かったぁ。なんか思ってたより危険な魔導具だったからここに来たの後悔してたの」

「何事も経験が大事⋯⋯まだ経験してねえか」

 グロリアが逃げたり助けを求めたりするのではなく護符を作りはじめた時、ジェニはギリギリまで手を出さないと決めていた。

「グロリアは頑固すぎんだよ。前世でも母ちゃん達に泣きついてクソビッチ達のことをチクりゃよかったのに我慢して、今世でもおんなじ事してよぉ」

【そうよ~、あの魔導具ってかなりの確率で廃人になっちゃうんだからぁ】

「マ、マジで!? でも、そうだよね。脳の構造とか知らないまま頭の中を弄るんだもん、2度と目が覚めなくてもおかしくないね」

「そゆこと。んじゃ、ヘルよろ~」

【出張料金マシマシだからお高いわよ~。パパの秘蔵のお宝、一つちょうだいね~♡】

「げっ!」

 死者を生き返らせる力を持つヘルがジェニに向かって『パパ』と呼ぶ時は無茶振りする時と揶揄う時だけ。

 ニヤリと左の口角を上げたヘルが魔導具に向けて手のひらを向けると、古い機械が動き出す時のようなキュインという耳障りな音がして魔導具が一瞬鈍く輝いた。

【オッケー、満タン入りましたぁ】

(ふふっ、どこかのガソリンスタンドみたい)


「んじゃ、一旦消えるからな。セティ、ちゃんと見張ってろよ。それと役目をちゃーんと果たせよ」

「はい!! ん? 役目?」

 ジェニではなくヘルに向かって最敬礼をしていたセティがその姿勢のまま首を傾げた。

【また後でね~。セティ~、あんたちょーっとでもヘマしたらナンナセティの母に二度と合わせたげないからねぇ。ヘルヘイムお出入り禁止を言い渡すから性根据えときな!】

「はいぃ!」

 セティが涙目になったのが楽しかったらしいヘルがくすくすと笑うと、セティの前にヒラヒラと一枚の紙が舞い落ちてきた。

「これは⋯⋯母様だぁ! はうぅ、めっちゃ綺麗~」

【念写してきたの~、お利口に頑張れたらあ・げ・る!】

 喜色満面のセティの手からパッとナンナの絵姿が消えた。

「ああ、そんな!」

「頑張れよ!」



 ソファに横になりプレートをお腹に乗せて目を瞑ると、時間が動きはじめた。

「おお、予想より早かったじゃないか。抵抗値が低いんだな。うん、これなら文句なしだ。体調はどうかね?」

「はい、あの。初めての事なので」

「緊張しすぎだが、それは仕方ないか。少し休憩して次に進むとす⋯⋯⋯⋯るか」

 言葉の途中で部屋の中にふわりと風が吹き、不自然な間を空けながら侯爵が話し続けた。

「父上、どうかされましたか?」

「少し考えたんだがな、『Cessiōne』の実験は別の者でやろうかと」

「は? 何故ですか?」

 今日を楽しみにしていたシグルドは侯爵の心変わりに苛立ちを隠しきれなかった。

(何でだよ! 『Cessiōne』に魔力を溜めたら中級、いや上級魔法だって使い放題かもしれないんだぞ!)

「魔力タンクとしての機能が優秀なのは確認できたし、シグルドの魔力との相性も『Movere』を使えばわかる。
それなら、最悪の事態が起きた時コレを無駄にするのは勿体無いと思ってね」

 侯爵はコレと言いながらグロリアを指差した。

「では実験はここで終わりという事でしょうか? 僕としては一日も早く『Cessiōne』を装着して訓練をしたいと思っていたのですが」

「いや、実験を中止する必要はない。シグルドには誰よりも早く『Cessiōne』を使いこなしてもらわねばならんからな」



 将来騎士団に入るのが夢だと言っているシグルドだが、剣の腕前はそこそこというところ。芳しくない成長ぶりに剣術の教師からは『侯爵家嫡男としての教育に力を入れた方が』と言われている。

 使用できる魔法は初級のみで剣に魔法を込めることも身体強化することもできない。

(『Cessiōne』は僕の現状を打開する為に存在してるんだから、誰よりも完璧に使いこなせるようにならなくちゃ!)

 努力の方向を間違っているシグルドにとっては死活問題に等しいらしく、従順なふりをかなぐり捨てていた。



「実験は続ける。そこにいる奴でな」

 侯爵の視線の先でセティが凍りついた。

(うそだろーーー!!)

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